第3話・早月村の秘密
中学生捜査チーム・忍子チームのリーダーに指名された佐伯美結は、メンバーとして二人の生徒を加える事にした。
30分後、電話で学校に呼び出されてきた大森春彦(おおもり はるひこ)と早川安子(はやかわ やすこ)に捜査チームに入る事を要請すると、二人共・目を輝かせてやる気充分だった。
誰だって夏休みの宿題をするより、冒険や探検が楽しいのに決まっているのだ。
大森春彦は、三年生の始めに早月中学校に転校してきた。
実は春彦は問題児で、今まで色々な学校をたらい回しにされた揚句にこの学校に流れ着いてきたのだ。
春彦はいわゆる番長を目指す暴れん坊で、転校すると毎日ケンカに明け暮れることを日課にしていた。当然、彼に殴られた多くの生徒の親が学校に怒鳴り込んで来ることになる。そして遂にはその学校にいられなくなり、転校を繰り返して来たのだ。
その事を本人は悪い事だと思っていないので、直る事は無かった。
「そりゃあ、元気な子供じゃ。うちの学校向きかもしれん」
佐伯校長は、その話を聞いた時、そう言って喜んで受け入れた。
転校してきた春彦は、生徒の人数の少なさや山が深い事に驚いたが、早速ケンカでのし上がろうとしてさらに驚いた。
まず同じ学年で一番強そうな正宗にケンカをふっかけてみたところ、正宗が尋常じゃないほど強すぎて、全く相手にもならなかったのである。
そんな春彦の態度を、注意してきた女子の美結にも軽くあしらわれた。それどころか、腹いせに年下の2年生や1年生に手を出したら、その止めに入った女子にさえ軽くぶちのばされた。
「一体、この学校はどうなってんだ?」
「大森君、驚いたでしょう。私も同じ様な経験をしたからわかるわ。もっとも私はケンカなんかしないけどね」
驚く春彦に、1年前に転校してきて、同じ様な経験を持つ早川安子がその訳を話してくれた。
この村の昔からある早月地区の人は、ずっと昔に薬草採取の為に入ってきた武士の一族だというのだ。
現在でも幼い時から厳しい武術の稽古を欠かす事がない。そして中学生にもなれば、格闘技の選手並の体技を身につけていると言う。
体育にも絶対の自信があった安子も、この地区の子供らの身体能力の高さに舌を巻いたと言う。
その話を聞いて潔く正宗らに謝った春彦は、早月地区の道場や山野の稽古を見せて貰った。そして彼自身が道場に通って、小学生らと一緒に稽古する許しを貰った。今では毎日嬉々として早月地区の道場に通って稽古をしているのだった。
以降、同級生の美結や正宗だけで無く、2年生の茂実(しげさね)や美月(みつき)に対しても「さん」付けで呼び、本来持っていた素直で屈託の無さがでて人が変わったようなナイスガイになった。
春彦の両親が、息子の様子を見に来た時、その春彦の様子に涙を流して喜んだのは言うまでもない。
一方、もう一人のチーム員に選ばれた早川安子は、貿易会社に努める父を持ち長く海外で暮らしてきた帰国子女で、英語・フランス語・イタリア語がぺらぺらのバイリンギャルだった。
美人で頭が良くその上、体のバランスも抜群のまさに無敵女子だったのだ。
彼女は高校入学を前に、故国・日本の自然の豊かさに触れさせたい、との親の意向で2年生の時に早川中学校に転校してきたのだ。
以来安子は、他には無い自由奔放な授業と自然の美しさ人々の素朴さを知って、将来もここで暮らしたいと言うほど気に入ってしまった。
安子の成績は相変わらず抜群だったけれど、自信を持っていた得意の体育ではこの村の子供たちに全く歯が立たないことも痛快だった。
安子はそれまでにどこの学校に行っても、勉強でも体育でも負ける経験をした事が無かったのだ。
そして、春彦も安子も彼らが、武の一族=忍者の一族であるという事を自然に理解していた。圧倒的な力を持つ武の一族が管理する自由溢れたこの学校に、いじめなどは無い。
いじめなどというものが存在する学校や社会とは、根本が違うのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます