第2話・忍子チーム発足!!
富山県と長野県・岐阜県の堺界を成す標高3000Mを超える北アルプス連邦。その北の盟主とも言える剱岳の西尾根は早月尾根といい、過酷な登りで有名な登山道がある。
尾根に沿って西に流れているのが立山川だ。やがて尾根が途切れ、北から流れて来た白萩川と合流して早月川となる。早月川はそのまま富山平野に出て日本海に達する。
その早月川沿いにあるのが富山県の早月村だ。富山平野から北アルプスの山々に食い込んだ所にある小さな村だ。
この早月村の早月小中学校に泥棒が入っていたと、連絡があったのが8月14日の昼の事であった。
学校は夏休み中であり、その日・掃除の為に訪れた用務員が気付いて関係者に知らせた。
早月小中学校は、各学年10名くらいで、中学生は32名、小学生は55名の小さな学校である。
この学校が、町の学校に統合されなかったのは、第一は山間の深い所にあるために通学に非常に時間が掛かること。特に豪雪地帯であるため冬期は困難なのだ。
第二に、北アルプスの一大登山基地に当たるために、毎年大勢の登山者や観光客が押し寄せる土地である。村では、その観光関連の仕事につくものが多く、若い世代の移住村民も増え、過疎化の恐れが少なく現状の規模で持続可能である事だ。
元々この学校は、早月地区に住み着いた住民が開いた江戸時代以来の長い歴史がある私立の小さな学校だった。近年の観光ブームで周辺に住民が増え、その子供らを受け入れて村立の学校となった背景がある。
そのため歴代の校長は、元の学校を創立した早月地区の者が務めている。創立以来の伝統を守り、学風やカリキュラムも他校とはまったく異なった事も多い、いわゆる変わった学校だった。
校長の緊急呼び出しで、この学校の中学3年生の佐伯美結(さえき みゆ)と山上正宗(やまがみ まさむね)が学校に来ていた。
「既に聞いていると思うが、昨夜・学校に泥棒が入った」
「校長先生自慢の、仏像が盗まれたと聞きました」
と、正宗が聞きかじったことを言った。
「私もそう聞いたわ。それと高山でも事件があったと言っていたわ・・」
今朝は、狭い村にパトカーと大勢の警察官が来て、捜査をしていったのである。村人は何事かとそれを覗き込んでいた。美結と正宗も野次馬でその様子を見に来ていた。
「そうだ、あの仏像が盗まれたのだ。警察の調べの為に儂が仏像を購入した高山の骨董屋に連絡すると、そこでも警察官が電話に出て驚いたわ。
骨董屋も「昨日、何者かに襲われて、捜査中だ」と言う。そこのおやじは拷問され意識不明の重体らしい。と言う事は、最初からあの仏像が目的で盗人がこちらに来たらしい、何故かは解らぬ。謎だらけなのじゃ。そこでじゃ、お前らに真相の解明を命じる」
佐伯校長は、とんでもない事を言い出した。
この校長は、時々突飛な事を思いつきそれを実行する。生徒達もそれをよく知っていて、その突飛な事を楽しんでいたりしたのだ。
例えば冬の時期には、学校を上げての雪合戦などはよくある事で、雪のある山中での遊びや出張授業も校長の発案で行われている。
そのせいで一般地区の子供たちも、雪中でのビバークや雪崩の起こりやすい所の見極めなど、普通の子供達には難しい事も当たり前の様に学べている。
骨董屋で購入してきた仏像を、美術の時間に生徒達に描かせる事も、その内の一つであった。
正宗らも、慈悲深そうで優しそうなその仏像を気に入っていたのである。
「真相解明・・それって、警察の仕事でしょう?」
「俺たちの折角の夏休みを、そんな事に・・」
美結と正宗はきっぱりと抗議した。
だが、校長はにやりと笑って言った。
「その謎を解明出来れば、夏休みの宿題替わりとするぞ。お前ら宿題を、どうせまだ何にもやっておらぬじゃろ、今からだともう半分もないぞ。最後は、苦しいぞ・・・」
佐伯校長、最後は苦しそうに顔をゆがめて見せた。
「う、痛いところを・・」
正宗がそう言って、美結を見る。
美結も痛そうな表情をしている。二人共夏休みの宿題に全く手を付けていないのだった。
「うっはっはっはっは。二人共図星じゃな。よしリーダーは美結がやれ。他に人数が必要なら選べ」
正宗と美結は見つめ合って、仕方が無いと目で会話した。
「安子と春彦を入れるわ」
美結が、少し考えて言った。
「よし、一般地区の者らとの交流も大事じゃ。すぐに呼べ。チーム名は忍子(にんこ)チームとせよ」
佐伯校長が、重々しく宣言して中学生捜査チームが発足した。
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