第8話・亀谷集落へ


 翌8月16日の朝6時。

ニャンコチームは、立山の亀谷に向かうために、高山市を早朝に出発した。

 高山市を出て、かつて越中西街道と言われた道路をひたすら北へ戻り広い富山平野に出る。

そこから東に向かい、乗源寺川沿いを立山に入って行くのだ。


 その日も、見渡す限りの薄い青空が、暑い一日を予感させた。

だが若い彼らは元気一杯で、今日の冒険行にキラキラと目を輝かしていた。


 しばらく行った所で、コンビニに入り朝食タイムとなった。早立ちの為に、旅館の朝食は頼んでなかったのだ。

時刻は午前8時過ぎであるが、もう太陽は高くぎらぎらしていた。


「今日も、めっちゃめちゃ晴れの一日ね」

「本当。でも段々に空が薄く高くなったね」

「そうね。夏休みもあと少し、っていう事ね」

「寂しいね」

 美結と安子が話している。


今日の二人は、全くの中学生の女子そのものだった。

コンビ二の外のベンチに腰掛けて、空を見ながら朝食を食べているのだ。

「高地さんがもうすぐ来るわ」

 麻里先生がスマホを見て言った。


高地巡査も昨日の聞き込みで、41年前に起こった亀谷事件が、今回の骨董商・襲撃事件と繫がっていると知り、捜査の為に別行すると連絡が入っていたのだ。


「先生、高地さんと夕べはどうでした?」

 美結が尋ねる。

「どうって、一緒に居酒屋に入って食事して帰っただけよ」


「付き合って下さい。なんて言われませんでした?」

「言われませんでした」

 ぶっきらぼうに、麻里先生が答える。


「なんだ、高地さんも目がないわ。先生の様ないい女・滅多に居ないのに・・」

 美結が残念そうに言う。

「あら、でも今日も一緒よ。今日は告白されるかも」

 と、安子も期待を込めた目で言う。

この年代の少女達の最も大きな関心事は、男女の恋愛だから無理もない。


「私の事ばかりで、あなたたちはどうなの?」

 麻里先生が切り返す。


「どうって?」

「ほら、こんな近くに強くて素敵な男性が居るじゃない。昨日は夜這いされなかった?」

「夜這いって、先生がそんなこと言っても良いんですか?」

 目を丸くして、安子が問う。


「いいの。早川ではそういう風習があったのですから、美結らだってそういう気がある筈だわ。もっとも、美結に夜這い掛けるのは、命懸けですけどね」

「そうなの?」

 と安子が真面目な顔で、美結に問いかける。


そっち方面にはまだまだの男子の正宗・春彦は、ただドキドキして聞いているだけだ。

「ないない」

 美結が笑顔で否定した。


その時、コンビニの駐車場に車が入ってきて、麻里先生の車の横に止まり、高地が降りてきた。

「おはよう、早いな。ニャンコチーム」

「おはようございます」


「高地さん、朝食は?」

「ああ、今買ってくる」

と慌ただしくコンビニ入って行く高地。


高地刑事は、朝食を買って出てくると麻里先生の横に座り

「昨日判明した袴田襲撃事件の犯人・加東政吉の事を調べてきた」

 パンをかじりながら紙を麻里先生に渡した。


「ええ、もう調べてきたの?さすがだわ」

 美結が驚く。

「いや、署に連絡入れていたので、調べたのは俺じゃない」

「そっか」


「じゃあ、読むわね。加東政吉、現在73才、亀谷で生まれ育ち、高校卒業後も地元で林業の仕事をしていた。その頃より山師的な性格を表し、埋蔵金や金脈などを探していた。昭和50年に亀谷を離れ各地を転々とした。これって、袴田のお爺さんと同じね。亀谷事件のあと逃亡したってことね」

 と読み始めた麻里先生が、顔を上げて感想を言った。


「そうそう言い忘れていた。その袴田氏だがな、昨夜遅くに亡くなったそうだ」

「ええ、お爺さん亡くなったの・・」

 美結が、がっくりと呟いた。


「そうだ。息子の晋平さんも言われたことだが、俺にも袴田氏が、お前たちに話すために待っていたのだと思う」

「あるのね。そういう事」

 と袴田の顔が、もう懐かしくなった安子が言う。

 美結らが合掌したので、安子もそれに倣った。


「続きを読むわ。昭和52年・金沢市郊外の豪農、井上氏宅に強盗に入り、20万円を奪って逃走した。その際、暴行された当主夫妻は、三日後に死亡。強盗致死の容疑で指名手配された加東は、翌昭和53年に大阪の西成地区に潜んでいたところを通報されて逮捕。

裁判の結果、懲役28年の実刑が確定して、平成25年4月に釈放される」


「ふー」

と、ため息が誰となく漏れる。


「加東は、今は老年だが残虐な性格だ。君たちなら大丈夫だと思うが、充分気を付ける様に」

 と高地が付け足した。


「加東は、亀谷のお婆さんと袴田のお爺さんだけでなく、他に二人も死に追いやっていると言う事ね。恐ろしい人だわ」

 安子が言う。

「そうよ、老人だと思って油断しているといきなり刺されるかも知れないわ。油断大敵よ」

 麻里先生が皆に注意すると、正宗らが頷いた。

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