第22話・本物のオンバ像


 30分後、早月村に村内放送があった。


「ピンポンパンポン、お知らせします。早月中学校の三年有志の仏像探索チームは、明朝8時に出発します。急な出発となり、早月地区の生徒は参加できませんが、一般地区の生徒は2・3日の宿泊の準備と土を掘れる道具の準備をして、学校に集合して下さい。もう一度お知らせいたします・・・・・・・」


もちろんこの放送は、村内で様子を伺っているかも知れない、加東に聞かせるためのものであった。


8月19日。

朝から晴天の鮮やかな空だったが、雲の動きは速く、天候急変を予兆させた。

 朝8時、早月中学校から、麻里先生の運転する車で、安子と春彦が乗った探索の表チームが出発した。


チーム・リーダー美結と武闘波・正宗・警察官の高地の裏チームは、昨夜暗闇に紛れて、密かに先行していた。それは影を担当する裏チームらしい動きだった。


実際のところチームには、加東が村内で、学校を見張っているのかどうかは、解らなかった。

そのために追跡があるかどうかを確かめるために、富山平野に出た所、高山市内に入った所の2箇所に、見張りの者を深夜に派遣していた。

そういう事をすんなり出来るのも、武や忍術で鍛えられた一族の強みである。


「私達の出発を加東は、見ていたかな?」

 安子が話し掛けた。

「どうだろう・・」

と春彦が自信なさげに答える


「麻里先生はどうですか? 気配を感じますか?」

 以前、亀谷で見張っている目を、麻里先生も感じたのを皆は知っている。


「いや、感じないわ。私はどうも車の中にいると、感じない様なの・・・」

「そっか、鉄の箱の中に入っているものね」

 そんなことを話しながら、車は富山平野に入って行く。


 安子の電話が鳴る。

村から派遣した見張りの情報は、安子の所に集まるようになっている。頭が良く、てきぱきと整理できる検索女王の安子に、情報収集・分析はうってつけの仕事だった。


電話に短く応答した安子が、

「後を付いてきたのは、くたびれた軽トラック一台だって、加東は村にいなかったのかな?」

 しばらく二人は黙っていたが、

「それだー」

 と春彦が言った。


「えっ、何?」

「考えてみて、村で一番怪しまれないのは、如何にも働いている様な軽トラで、運転している加東は73才の老人だ。そんなの村ではいつも見かける風景だ」

「あっ、そうか、確認してみる」


 安子は、電話して確認すると、弾む声で言った。

「さすがは金田一春彦ね。軽トラは富山ナンバーで、運転していたのは、老人だったそうよ」


「今日の行き先は、告げてないので、途中で待ち伏せ出来ない筈だ」

 春彦も、弾んだ声で言う。

「加東にしてみれば、必死で食らいつくしかないわね」

「高山方面の見張りの連絡を待とう」


「もうすぐね」

 数日前・亀谷に行く途中で、朝飯を食べたコンビニを通りすぎた。

安子にはこのほんの数日が、遠い昔の様に感じられた。同じ事を思っているのか、春彦と麻里先生も、無言でコンビニを見ていた。

 安子の電話が鳴った。

受けた安子がしばらく話していたが、電話を切って言った。


「もう通勤時間になったわ。この車の後は、沢山の車がいて判別出来ない。軽トラックもすぐ後を通過した様よ」

「了解、裏チームにも伝えて」

 春彦が指示すると、安子は美結に電話を掛ける。

しばらく話していた安子が、電話を切ると、興奮した声で言う。


「裏チームからの報告。清澄寺から例のオンバ像が見つかったそうよ。亀谷の住所と極楽寺と書いた紙が一緒に、庫裡の引き出しの中にあったそうよ。リーダーらは、あの巻紙をオンバ像の中に入れて元に戻したとの事」


「やったね!」

「春彦のお手柄よ」

 安子の報告を聞いて、春彦と麻里先生も大きな声で言い、ハイタッチをした。

「今は、別荘地周辺のチェックも終えて、あと2時間もあれば監視の拠点もできる。と言う事でした」

「今は・10時半か。買い物して、早く着いたとしても・・・13時は廻るわ。時間的には良い感じね」

 麻里先生が明るく言った。


 それから少し走ると、高山市内の入り口だ。

「この先のちょっと入った所のスーパー・マーケットで、食料を買うわ」

 と麻里先生が告げる。


「了解、買い物メモは・・、あっと、ありました」

 春彦が答える。

昨夜、先行組の出発前にワイワイ言いながら作ったものだ。犯人逮捕という非日常で危険な臭いのする任務であったが、皆で貸別荘を借りて、焚き火やBBQすれば、レジャー気分になるのは仕方なかった。


顧問の大人の二人も、気を引き締めるどころか、自らはしゃいだ気分になったし、又それでも良いと思っていた。

リーダー美結と正宗の二人がいる限り、肝心な時には、冷静沈着で果断な行動をする事は解っていた。


 すぐに、曲がってスーパー・マーケットの駐車場に入る。

「スーパー・マーケットの中でも、離れない様にするのよ。とにかく一人にならないで」

 車を止めて、麻里先生が注意した。

 加東は、仏像を見る前でも人質を取るかも知れないのだ。

「了解」

 二人は、緊張した顔で返事した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る