第19話・託された者。


「移動先で罠に掛けて捕まえるか・・」

 高地が何事か考えながら、呟く。

「オンバ像だな」と正宗が何事か考えている。

「そうね、オンバ像を探すのよ」

 リーダーの美結が断定した。


「でも、手がかりが無い。袴田のお爺さんが生前に接触して、行き先を話していそうな人物の」

 高地が、記憶を手繰る様な表情で考えている。


「うーーん」

と、皆が考えている。だが、誰も良い思いつきは無いようだ。当然だ。初めて会った人の関係者など分る筈も無い。

これで迷宮入りかと思われたその時、


「いた!」

 春彦が大声を出した。

 皆が驚いて春彦に注目する。


「誰、私たちの知っている人?」

 麻里先生が聞く。

 春彦、頭を上下に振って、質問を手で制して、さらに何かを必死で思い出そうとしている。

そして、呟くように言った。

「お爺さんが・・変な事言っていた・・」



皆は顔を見合わせてその言葉の意味を考えた。だが、意味が分らない・・・

「えっ、それって、私達?」

 不意に安子が気付いた。

「確かに、意味の分からない変な話をしていたね。袴田のお爺さん・・」

 美結も思い出した。

殆どの会話は美結がしていたのだ。

それは、こう言う会話であった。


「そうじゃ、この仏像の真言を教えるのを忘れていたわい」

「真言ってなあに?」

「真言は、仏像を拝む時の言葉じゃ。仏像によって違うのじゃ」

「へえ、そうなの」

「オン、○○セイチョウ、ソワカじゃ三遍唱える」

「へえ、セイチョウって親鳥みたい・・」

 と言うものだった。


「そうや、確かそんな事言っていた。老人特有のどうでも良い事をしゃべっていると思って、聞き流していたが・・」

 高地も思い出して呟く。

「俺も思い出した。でも、なんて言ったかはっきり覚えてないぞ・・」

 正宗。

「私も・・」

 と美結・安子と麻里先生も口々に言う。


「待って、」

 春彦が走っていって、リュックを持って戻って来た。


「確か、どっかにメモした様な気がしたんだ・・・あったー」

 リュックをひっくり返して、中の物を見ていた春彦が、仏像を描いたスケッチブックを開いて、絵の裏を指さす。


「オン、ムマヤセイチョウ、ソワカ。だ!」

「春彦、でかした!」

 佐伯校長が、大きな声で褒めた。


春彦は鼻高々で、嬉しそうな顔をする。

「じゃあ、良徳和尚にそんな真言があるかどうか、確かめに行きましょう」

 美結の音頭で、皆でグランドを土埃を舞い上げて走って、海雲寺に向かった。



「オン、ムマヤセイチョウ、ソワカ か、そんな真言は聞いた事無いな?」

 良徳和尚が頭を捻る。

「と言う事は、やはり、お爺さんが何かを言い残したのだわ」

 安子が言う。


「ムマヤセイチョウか・・どう言う意味だろう?」

 春彦。

「きっと、場所を示していると思うわ」

 麻里先生。

「場所、地名かな?」

皆が色々な地名を呟いている。


「待てよ、確か荘川村に、ムマヤって地名があったな・・」

 良徳和尚が言った。

「あります!」

 高山市が地元の高地が、声を上げて答える。


「高山市を西に行って、松木峠という1000Mを超える、東海地方随一の峠がある先の集落です。今は、高山市に編入されています。夏は涼しいのですが、冬は、豪雪地帯で住むのには厳しい土地で、ほぼ限界集落です」

「そこで、仏像が盗難されたか調べてくれ」

 佐伯校長が頼んだ。

高地はすぐさま高山警察に電話して依頼する。

 真夏の空は明るいが、時刻はもう午後5時になろうとしている。


「ひょっとすると、そこにセイチョウ寺と言う寺があるかもしれんの」

 良徳和尚が呟く。

「だとしたら、あの勢至菩薩様はそこにあったのかしら・・」

 安子。


「ニャンコチームは、明日そこに行きます。学校に戻って、加東を引き出す為の策を練りましょう」

 リーダー美結の指示で、チームは学校に引き返す。


「なかなかチームワークが出来てきたのう」

 良徳が目を細めて言う。

「はい、美結と正宗は将来が楽しみです。それに、一般地区の安子と春彦も早月に溶け込んで、一緒に稽古もしております。きっと、将来、村の力になってくれましょう」

 佐伯校長が、しみじみと答える。


「埋蔵金なんかよりも、子供らこそが、早月の宝じゃな」

「まさに、さようで」

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