第20話・誘き出し作戦


「加東が、正宗さんと美結さんの力を高山市で見ていたとすれば、二人を避けますね」と、春彦が言う。

「そうね。それに高地さんを警察官だと気付くと思う。犯罪者の特有の勘と、警察官の臭いがあると思うの」

 安子が言うと、高地は腕を嗅ぐしぐさをして、

「そうかな・・」と首を捻る。


「そりゃあ、そうよ。本人達は気付かなくても、目つきや、風情が普通の人とは違うもの」

 麻里先生も同意する。

「となると、私と正宗、高地さんがいると、加東は用心して接近して来ない恐れがあるのね。それって、これからの事が難しいね」

 美結が言って首を傾げた。


「いや、簡単だ。その三人抜きに、残りの者に動いて貰おう」

 正宗が即答する。

「えーっ、俺たちだけで・・」

 春彦が、悲鳴に近い声を上げる。安子も、不安そうな顔で見ている。


「そうか。その方が私達も動きやすいわね」

 美結も正宗の言わんとしたことを、即座に理解した。

「美結さんまで、そんなことを・・」

 たまらず安子が呟く。


「そうでは無いのよ。私達が、どんな事を得意だと思っているの」

 少し考えた二人が、同時に言った。

「忍者!」

「闇に潜んで、悪人を始末するのね!」

 頷いた美結が、

「そう、闇・じゃなくて、裏に潜むの。表は、三人だけで動いてもらう。もちろん、始末もしないわ、始末は裁判所に任すけどね」


 それを聞いて、安子と春彦の不安な顔は、幾分和らいだが、

「でも、もし加東が、裏の者を出し抜いて、表の俺たちを襲ってきたら・・」

 と、まだ不安を残した顔で春彦が言った。


「暴れん坊番長が何を言っているの。しかも、早月の道場で稽古をしているでしょう。例え加東がナイフを持っていても、棒一本あれば、対抗出来るはずよ」

 美結が春彦を励ます。


「そりゃあ、そうだけど。でもなかなか実戦では・・」

 春彦は、早月村に来て力の遙かに及ばぬ者達が大勢いる事を知ってから、喧嘩などにすっかり自信を無くしていたのだ。


「春彦、やってみるのだ。貴重な実戦を経験する場だ。それに、加東に突破されたとしても、後ろにいるのは誰だ」

 正宗も、春彦の自信喪失が行き過ぎていると感じていた。もう少し、自信を持って溌剌とした方が春彦らしいと。


 正宗や美結らは、数人の手下を指揮して任務をこなす訓練も行っている。その為に、配下や仲間の精神的・身体的状態を見極める事に慣れている。


「後ろって、安子と麻里先生。あっ、麻里先生がいる」

 麻里先生は早川村出身である。ナイフを持った暴漢2・3人を相手にしても、どうという事はない。


「そう、麻里先生がいるわ。でもね、麻里先生は顧問。あくまで奥の手よ。実際はチーム員が主導するのよ」

 リーダー美結の言葉に、頷く春彦。その目には、若干やる気の光が見えた。


「だけど、無理に闘う必要は無いぞ。加東が欲しがるオンバ像も巻紙も渡せば良いのだ」

 正宗が、注意を添える。


「でも、あの巻紙を見たら、加東は怒ると思うな。用務員さんの時みたいに殴られるかも・・」

 安子が冷静に、加東の気持ちを察する。

「そうね、本物なのにね・・」

 美結も安子に同意する。

「いっそ、それらしい偽の絵図でも入れとく?」

 春彦が発言する。


 この相談の様子を顧問の、高地と麻里は黙って聞いている。リーダー美結の言う通り、二人は自分達から口出すのを控えようと思ったのだ。


 少し遅れて戻った、佐伯校長も黙って聞いていた。

警察官の公務中の高地にしても、生徒らの機転によって本物のオンバ像の在処もたぶん特定出来たし、殆どの謎は解明出来た。高地が単独で動いても、こうは行かなかった事は明らかだった。

あとは、容疑者の加東を捕まえること。それも、恐らくこの子らに張り付いていないと難しいのだ。


「だけど、加東は何十年も埋蔵金探しをしている、言わばプロよ。そんな加東を騙す絵地図を作るなんて、至難だとは思わない?」

 安子が指摘する。


「そうだな・・止めよう絵地図を作るのは」

春彦は、あっさり前言を否定した。

「あれも、校長の言われるように、たぶん後の時代に作った偽物。でも、私達には本物よ。例え加東が怒っても、本物は本物。五郎作さんも、それを信じていたから無事だったのよ」

 リーダー美結が、そう言って本物を使う事を決めた。

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