第18話・一つむすび、一むすび。
「さて、仏像も戻って来た。しかし、加東はまだ捕まっていない・・」
学校に戻ってきて、一休みして校長が言った。
時刻は午後3時、太陽はまだ中天にあって、動くと汗が噴き出る暑さだ。
「加東は、今・どうしているのだろう?」
正宗が呟く。
「そうね、加東の目的は、亀谷にあったオンバ像の中に入っているだろう埋蔵金の在処を示す巻紙を手に入れる事。だけど、校長が袴田のお爺さんから購入して学校に来たのは、違う仏像だった・・」
安子が整理して言った。
「袴田のお爺さんが、オンバ像を隠したのは間違いないけれど、お爺さんは、もう亡くなってしまった」
美結が続ける。
「そこで、もう一度・骨董屋を徹底的に探した。昨日8月16日の事です。そこでオンバ像が、見つかったのだろうか?」と春彦。
「まず、袴田のお爺さんは店には隠していないだろう。だからまだ、オンバ像の在処は見つかっていない」
正宗が確信して言った。
「手がかりが無くなった加東は、次にどうするか?」
高地が呟く。
「校長先生、勢至菩薩様の中に入っていたものを見せて下さいますか?」
美結が願う。
「おう、そうであったな」
校長が立ち上がって、取りに行った。
「もし、骨董屋から何も手がかりが出てなかったら、加東はどうするか・・」
再び、正宗。
「その場合は、加東も手詰まりね」
安子。
「でも、諦めはしないわね。加東には埋蔵金に取り憑かれた狂気が感じられるわ」
麻里先生の言葉に、皆は一様に頷く。
「袴田のお爺さんが、生前に誰かに、何かを託して無いかしら・・」
美結が呟く。
「でも、たぶん晋平さんではないな。息子を巻き込みたくないと思った筈だ」
高地。
「加東もそう思うだろうか?」
正宗。
「これじゃよ、仏像の中にあったのは」
佐伯校長が差し出した巻紙を、受け取った美結が床に広げ、皆と覗き込む。
そこには、古そうな紙に、墨でこう書かれてあった。
[朝日でて、夕日かがやく、亀谷に、一つむすび、一むすび、黄金いっぱい、光かがやく]
「うーん」
と誰となくうなり声が漏れる。
「校長先生、これって、本物じゃないですか」
と麻里先生が言う。
「そうじゃ、本物じゃが・・」
「違うの、これこそがオンバ像の中にあった巻紙じゃないですか?」
「ふむ、そう言えばそうかも知れん。何、初めは、この仏像こそが亀谷にあったものと思っておったから、そういう事は考えもしなかったが、言われてみればそうじゃな・・」
「すると、この巻紙こそが、加東の探していた物と言う事になりますね」
高地が写真を撮りながら言う。
「待って、何かおかしくないですか?」
と安子が言い出す。
「うん、それでは腑に落ちない」
正宗も同意する。
「そうだ。袴田のお爺さんが、わざわざ仏像を入れ替えたのに、肝心の巻紙を隠してないのは変だ」
と、春彦。
「でも、像を入れ替えた事で隠したとも言えなくない?」
美結。
「うう、そうとも言えるか。隠したのに隠してないし、隠してないのに隠したのか。ややこしいぞ」
春彦の顔がゆがむ。皆も判断出来ない様だ。
「じゃあ、別な面から考えましょう。この詩は、有名なあの詩を、もじった物ですよね」
と麻里先生が話を転換した。
「あった!」
スマホで検索した安子が、紙に書き始めた。
書き終えると、巻紙の横に並べた。
[朝日でて、夕日かがやく、亀谷に、一つむすび、一むすび、黄金いっぱい、光かがやく]
[朝日さす、夕日かがやく、鋤崎に、七つむすび、七むすび、黄金いっぱい、光かがやく]
「うむー」
しばらく黙って見つめる面々。
「間違いない。そっくりだ」
「鋤崎と亀谷、七つが一つになっただけね」
「最初の(さす)が(でて)になっている・」
「亀谷は西向きの土地だから、朝日がささないので直したのかしら、それとも、書き間違い?」
「他はまったく一緒だな」
「五・七・五なのに、七つむすびのところが六で字足らずだな・・」
「そこがおかしいね。七つ七つで49個なんて単純過ぎる・」
「この詞が埋蔵金の在処を示すのなら、もっとも具体的な場所を指しているのではないかと思っていたのだ。例えば、目印から七歩行って、曲がって七歩とかね」
「むすびって意味もよくわかんないね」
それぞれに言い出した。
「朝日がささないって言ったので、思ったのだけど、元の句の夕日かがやくってのは、夕日がささないと言う意味なのかな?」
「すると、朝日がさして、夕日がささない鋤崎山の地に埋められているって事か、」
「東向きの場所ですかね?」
「でもそれだけでは、とても場所の特定は出来ないだろうな・・」
「まあ待て、この巻紙に書かれている事が、その有名な詞から作られている事が解れば、それで良いのだ」
校長が言って雑談を打ち切らせた。
「そうね、今考える事は、加東をどうやって捕まえるかだわ。その為に加東が何を考えているか想像する事」
美結が進める。
「加東はオンバ像に入っていたかも知れない巻紙が、ここに有るのを知らない」
正宗。
「でも、それを知らせて誘い込むのは危険だわ。五郎作さんの様に、関係無い人の犠牲者が出るかも知れない」
と麻里先生。
「奴は、俺たちを見張っているだろうか?」
正宗が呟く。
「そうだわ。それを試す必要があるのじゃないかしら。私たちが動けば、加東は追跡してくるかも知れない」
安子が言う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます