第6話・骨董・越中屋


ニャンコチームは市内のファミレスで昼食をして、今後の事を相談した。

高山署の高地も一緒だ。

「袴田氏の息子の晋平さんは、富山で生まれて、以後各地を転々としたそうです。高山に骨董屋を開いて落ち着くまでの話です」

 高地が聞いていた事を話した。


「それでは、かめがいと言う所で起こった事件の事はご存じですか?」

 麻里先生の問いに、高地は頭を振った。

「あった!」

 安子がスマホを操作していて言った。

「何が?」

 春彦の問いに、安子が、

「かめがいの事件よ。待って、今読むわね」


 スマホを操作しながら、安子が読み始める。

「昭和50年3月18日、富山県○○郡大山町亀谷で起こった事件である。かめがいは亀に谷と書くのよ。極楽寺の仏像が何者かに強奪された。そして、止めに入ったと思われる檀家で奉仕に来ていた山本はつ(60)が殴打されて昏倒する。白い乗用車で逃走する若い男性二人を村の住民が目撃するが、以降手がかりがなかった。山本はつは、意識が戻らないまま三日後に死亡。県警は強盗致死事件として、逃亡した犯人の捜査をするが、昭和60年4月、時効が成立」


「スマホって凄えや、40年も前の事をあっという間だ。それを探す安子も凄い、検索女王だな」

 沈黙を破って、春彦が言った。

「まったくだ。署に帰って資料引っかき回して一日掛かるか、二日掛かるか、と思ったのが、10秒で済んだ」

 高地刑事も感心して言う。


「袴田はその事件の犯人だったのね。それで、仏像を表に出す事は無かった」

 安子が言う。美結が後を続ける。

「そして、逮捕される恐れから各地を転々としたのね。高山に骨董屋を開いたのは、時効の後ね」


「その時の片割れが加東政吉と言う男だな。だが、加東は何処にいたんだろ?」

 春彦の問いに、美結が答える。

「お爺さんは、娑婆に出て来たと言ったわ。この事件が時効ってことは、違う事件で捕まっていたのね。確か亀谷の加東って言ったわよね。亀谷の出身じゃないの」


 全員が、高地を見た。

「解った、わかった。それは、おれが調べて連絡するよ。どちらにしても、骨董屋・襲撃事件の犯人だからな。それで、皆はこれからどうする?骨董屋を覗くか?」


 ニャンコチームは皆で見つめ合ったが、結局はリーダー美結に一任された。

「そうね、高山で他に見る所は無い。でも、事件の背後関係は大体解った。行くとすれば、亀谷ね。どの位時間が掛かるのかな?」


 その言葉を受けて、麻里先生と高地が相談を始めた。

「亀谷は早月の一つ南の立山あたりよ、今日、帰りに行っても遅くなって、たっぷりと見る事が出来ないかも知れない。なので、折角高山まで来たので、骨董屋を見て今夜はここに泊らない」


 麻里先生の提案に、

「賛成。なんたって夏休みだもんね」

 安子が言う。

「そうね、骨董屋を見に行った後は、観光で良いわね。高地さん、麻里先生の夜のエスコートお願いします」

「こら、なに言ってのよ」


 美結の言葉に真っ赤になった麻里先生が反論する。美結は何となく二人が良い感じだと思っていたのだった。

「OK、先生の事は引き受けた。君たちは大丈夫か?」

 高地が言うと、

「大丈夫ですって、早月衆の美結さんと正宗さんがいますから」

 春彦の言葉で、夜の予定が決まった。


 学校では、一般地区の者と対応して、早月の者を早月衆とも呼んでいた。それは、一般地区の者にとっては、尊敬した意味の称号でもあった。



 骨董商・越中屋は町の中心から少し離れた所にあった。事件があったばかりなので、店には警察のテープが張られて警察の管理となっていた。


越中屋は時代タンスや衝立、火鉢や水屋など古い物ばかりで、よくあるリサイクル・ショップとは一線を引いていた。

「ここは、高山観光の途次にバスが立ち寄ったりして、商売は結構成り立っていた様です」

 地元の高地が説明してくれる。


「なんか懐かしい気がするね」

「そうね、私たちも古い一族ですものね」

 早月育ちの麻里先生と美結が話をしている。


「私には、とってもエキセントリックよ。興奮するわ」

 外国育ちの安子が言う。

「エキセントリックって、どういう事?」

 早月で育ってきた正宗には、聞き慣れない言葉だったようだ。


「そうね、その民族の息吹が聞こえる様で感動する事かな・・」

「それって、日本の民族の事だろ。俺たちの事だ」

「そうよ。美結や正宗と出会った時もエキセントリックだったわ」


「おれも日本民族だけど、やっぱりそう思ったな。「ここに武士がいる」って気がした」

 春彦が話しに加わる。

「そう言えば、ここにある家具なんか大体の物が、早月の古い家では使っているな」

 正宗の言葉に、安子が反応する。

「それって、伝統を守る大事な事だと思うわ。都会ではまず目にする事はないもの。今度そんな家に連れてって」

「いいよ。そんな事ならいつでも言ってくれ」

ちょっと顔が赤らんだ事を隠す様に、そっぽ向いた正宗が答える。それを密かに盗み見した美結が微笑んだ。

正宗は安子が好きな事を、美結は知っていたのだ。


「でも、仏像はないね」

「それはそうです。大体が古い仏像は寺か神社にある物でしょう。こんな所にあれば、盗品だと疑った方がいいわ」

 麻里先生の言葉に、

「それは、そうね」

と、相づちを打つ美結。


「でも、お店が上手く行っていたって事は、お爺さんにはそれなりの才能があったって事ね。それが、若い頃の過ち一つで、住所を転々として、あの年になっても命の危険に晒される事になるなんて・・」

 と安子が言う。春彦も頷く。


「それはそうね。でも問題は、若い時にお婆さんに暴行するのを止められなかった事、一緒に逃げた事だと思うの。その時に判断を間違えてしまったのね」

 麻里先生が安子に答えた。


それに同調した高地が、

「そうだ。そこで踏みとどまったら、罪を受けてもすぐに済んだ筈なのだ。例え逃げたとしても後で自首する事も出来たはずだ。何度も間違いを正す道はあった筈だ」

 高地の言葉は、全員の胸に染みこんだ。

例え中学生の今でも、そういう時がこないとも限らないのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る