第16話・急転


 チームは昼の間は2人ずつ2・3時間で見張りを交代して、他の生徒は普通の夏休みの生活を送って、山・川へ遊びに行った。


チームの4人には、もう宿題の心配が無くなって、伸び伸びと遊んでいた。

夕方には、ゲストハウスの外で、正宗らが高地の為に獲ってきた岩魚を焼いた。

高地はそれを肴に、佐伯校長ら村人と旨い酒を飲んで、街に比べて遙かに涼しい山の夜を満喫した。

その夜は女子チームが見張りに付いた。

 

明けて、8月18日。

朝、高地に高山警察から電話があった。電話を受けた高地の表情が曇る。

そして、更に何処かに電話を掛けた高地の顔に、驚きがありありと浮かんでいた。


 9時半、高地の知らせを聞いた美結によって、学校にニャンコチームが緊急に集められた。

佐伯校長も来ている。


「高地さんに高山警察書から、電話がありました」

 と、美結が話し始め、高地が引き継いだ。

「係長からの電話で、骨董商・越中屋が昨日荒らされた。と連絡がありました。居間の畳の裏まで探す徹底的なものだと言う事です。私の連絡を受けて貴重品は持ち出していたので、実害は少ないそうです。尚、晋平さんは、葬儀で一日中外出していたそうで、犯人に遭遇しておりません」


その話を聞いて、皆は、くるものが来たかという表情をしている。

「じゃあ、いよいよ犯人がこっちに来ると言う事ですね」

 安子が言う。

「それが、事情が変わったの。犯人はこっちにはこないと思う。見張りはもうしなくていいわ」

 美結が厳しい顔で言う。


「え?」

 皆一様に、美結が何を言ったか解らないようで、ぽかんとした。


高地が続ける。

「私はその連絡を受けて、もう一度亀谷の斉藤氏に念の為に、注意する様に電話をしました」

「勢至菩薩の中に、宝の存在を示す巻紙が入っていなかった加東は、そちらで最初から抜かれていたか、早月の学校で抜かれたか確かめるために、もう一度探すと思われますと話したのです。ところが、斉藤氏の返事は意外なものでした」

 高地が一旦ここで言葉を切る。皆は高地が何を言うのか息もせずに、注目している。


高地と斉藤氏の会話は、次の様なものだった。

「えっ、何の中って言いましたか?」

「・・もちろん、そちらから盗まれた仏像、勢至菩薩像の中です」


「・・・違います。極楽寺で盗まれたのは、オンバ像です。勢至菩薩じゃなくて・・」

「えっ、でも早月の校長が購入して、盗まれたのは、勢至菩薩の像です」

「では、違う像です。こちらのものではありません」


「違う・・・オンバ像と勢至菩薩像は似ていますか?」

「全く違います。勢至菩薩像はスリムですが、オンバ像はずんぐりした像です。この間、極楽寺で見られたでしょう?」


「見ました。あれが・・・見た時に、似ていなくて驚いたのです」

「今あるのが、盗まれたものにかなり近い像です。もう少し荒削りでしたけれど・・」


「と言う内容でした」という高地の話に、皆は仰天した。

「そう言えば、斉藤さんの所では、あの絵を見せなかったね」

 安子が言った。


「そうそう、道路から近かったので、荷物は車の中に置きっ放しだった」と春彦。


「袴田のお爺さんには、安子の描いたの見せたわね」

 美結が思い出す様に言う。


「その時に、息子の晋平さんは、席を外していた。彼は、絵を見ていないわ」と麻里先生。


「俺たちの思っていた仏像と斉藤さんや晋平さんが思っていたのとは、違っていたのか」

 正宗が呟く。


「と言う事なの。だから、犯人は勢至菩薩像に入っていた巻紙なんか、取りにこないわ。見張りは中止よ」

 美結が言い渡す。


「すると、どういう事になるのだろう?」と春彦。


「学校から勢至菩薩像を盗んだのは、加東では無いと言う事だな。犯人は少なくとも二人はいる」

 高地が言うと皆が頷き、麻里先生が疑問を言う。

「袴田がいつ仏像を入れ替えたのかしら?」


「それは、解らない。ただ、考えられる事は、加東が出所する事が解った時だな」

「そうね。それで、はつさんが亡くなって反省していた袴田が、加東に仏像を渡すまいとして、工作したと考える方が自然ね」と麻里先生。

皆はそのまま長いこと考えた。

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