第25話・裏チーム


 裏チームは、事前に周辺を調査して、もし加東がお寺に上がるようであれば、捕まえる体勢を取っていた。

もちろん裏参道も把握していて、加東なら裏参道から上がると読んでいた。

駐車場付近に高地、中腹には正宗、お寺周辺には美結が潜んでいて、鉄壁の備えをして、待っていた。


 だが、加東は裏参道の駐車場に入って来たものの、車から出ることも無く走り去った。

 それも、裏チームには想定の内だった。

加東にとっても、宿泊する別荘地が襲うのには絶好の場所だ。無理に山に登るよりは、別荘にいるときに襲うだろうと、


 加東が、軽トラックで走り去る方角を確かめると、国道まで戻ってさらに奥へ行き、こちらを見渡す高台に軽トラックを止めた。

たぶん加東は、双眼鏡のたぐいを持っているのだろう。

 こうなると、裏チームはそのままの位置で待つしか無い。下手に動けば、加東に見つかる恐れがある。


 ―見張られている。その場で待機せよ。

 一番高い所にいるリーダー美結は、メールで指示した。



 一方、大汗を掻いて、お寺の境内に着いた表チームは、風邪が吹き抜ける所で涼んでいた。

 スマホを見た安子が報告する。

「リーダーから連絡。加東は離れて見ている。予定通り行動せよ」

「加東もなかなか慎重ね。ではそろそろオンバ様を探すわ。あまり手早くしても駄目よ。ゆっくりね」

 麻里先生の言葉に、三人は傾いたお寺の建物に入ってゆく。


空は曇って、西風が黒い雲を運んできて、空気がどろんとした湿気を帯びたものに変った。

「何となく、不気味な雰囲気に変わったな・・」

 春彦が言う。二人も頷いた。

 壁の一部が崩れて、屋根が傾いた建物に入ってゆくのは、只でさえ良い気持ちでは無いのに、黒い雲が来て、あっという間に周囲が薄暗くなったのだ。

おまけに、かいた汗が肌にまとわりつき、気持ちが悪い。


「単なる夕立よ。そう気にしないで」

 麻里先生が、自分を励ます様に言う。

 お寺の中は、大事なものは持ち去ったか、ガランとしていた。

「勢至菩薩様は、ここに居たんだ・・」

 安子が呟く。

ここは、彼女らが居る学校に比べて、あまりにも寂しい場所だった。


「本当ね。きっと勢至菩薩様も、学校に来て喜んでいると思うわ」

 麻里先生も同じ事を思ったらしい。

 目指す引き出しは、すぐ見つかった。

 そっと引き出すと、中から白い布に包まれた仏像が出て来た。亀谷で見た仏像の様に、ずんぐりむっくりしたお婆さんみたいな仏像だ。これこそオンバ像と言う見掛けだった。


「オンバ様、お迎えに来ましたよ。亀谷に連れて帰りますから」

 安子が優しく声を掛ける。

 オンバ像を持って来た袋に入れると、建物の外に出る。

 雨がポツポツと、落ちてきた。

「さあ、夕立が来る前に車に戻りましょう」

 麻里先生の掛け声で、賑やかに急いで降りた。



 加東はその様子を双眼鏡で見ていた。

女教師が、何かを入れた袋を持っていた。登る時には見かけなかった袋だ。

(オンバ像が見つかったか?)

 さっきの婆さんが、あそこの寺には、前には、綺麗な菩薩様があった。と言った。それは、たぶん早月の学校にあったものだ。とすると、袴田がオンバ像と入れ替えて、持ち去った可能性が高い。

(それを、確かめなければ・・)

 雨がポツポツと降ってきた。夕立だろう。段々雨粒が増えてきて、一気に土砂降りになった。

 その雨の中、女教師らの三人は、走って降りてきて車に飛び乗った。

 かなり濡れただろう。

 濡れた体を拭いているのか、しばらくは動きが無かったが、やがて車は別荘地に戻っていった。


 加東は、少し時間を置いて、そちらに向かった。

 入り口の脇の細い道を入ると、別荘地の裏側に出ること。車を止めるスペースもあり、別荘地に入る細い道があることも確かめていた。

(だが、まだ早い。暗くなってからだ。今は、別荘地の出入りを確かめる)

 加東は、別荘地へと曲がる国道の反対側の路肩に車を止めた。

 そこからだと、別荘地への出入りが一望出来る。



美結ら裏チームは、裏参道の駐車場に集まっていた。加東の乗った軽トラックが、別荘地の方に移動したのを確認してから集まったのだ。

雨は小降りになっていた。


「では、私たちも移動しましょう」

 美結の指示で、別荘地に続く山道に入って行った。

 移動は徒歩だ。加東に見覚えられていると思われる高地の車は、集落の家の影に隠している。

 移動するルートは事前に調べて、道の無い所は、笹を切り開いて細い道を作っていた。


雨で濡れた笹で覆われ、普通なら体が濡れるが、三人とも用意していたポンチョを被っていた。

ここに来るときに、ホームセンターで買ったものだが、偶然にも迷彩柄があったのでそれにした。緑色主体の迷彩柄は、笹藪の中では溶け込んで、目立たなかった。

 別荘地の裏側にある細い林道を見渡せる所に出る。加東の車は無い。


「あそこだ」

 正宗が指さす方向を見ると、木々越しに僅かに見える先に、軽トラックと思われる車が止まっている。


「道路の向こう側だな。別荘地に出入りする車を見ている」

 高地が言う。

「勝負は薄暗くなる時分から、時間にして午後7時前からね」

 リーダー美結が断定する。

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