24話 繭ちゃん、バイト始めました。
キャンプから帰ってきて、普段の生活が戻ってくる。キャンプ前と変わらないのんびりほのぼのとした毎日が。
そんな生活を送って5日が経った。今僕達は繭に話があると集められている。そしてみんなの前に立つ繭は自信満々にこんな事を口にする。
「私、アルバイトはじめました!」
胸を張ってそう言う。僕たちはそれにぱちぱちと拍手をして応えた。正直どんな話をされるか分かっていなかったので、特に何か変わる訳でも無い話で安心していた。
「何処でバイト始めたの?」
と言う僕の問に、
「私たちが初めて行ったあのお洒落なカフェだよ!」
と言う。懐かしいな、と思った。繭がこの世界に来た次の日に行ったカフェだ。確か繭はいちごパフェを食べていた。それが夏のはじまりくらいの出来事で、今は秋も終わりに近づいている。その間に色々と思い出ができたなと思う。
「今度遊びに来てね!」
「そうします。」
そんな僕の回想は繭と緋莉の2人の声によってかき消された。過去を懐かしむのはまた今度にしよう。
「じゃあ覚えなきゃ行けないこともあるから。」
とそう言って繭は1枚の紙を持って寝室へ行った。持っていたモノは確実にマニュアルだろう。繭も頑張るなら僕ももっと頑張らないとな、と思い僕も明日の仕事の準備を早めにするためにリビングを出た。
#
私はバイトの為に早起きをする。理由はバイト先が街にあるからだ。まだ誰もいない静かなリビングで1人ご飯を食べる。美味しいけれど、いつもの方がもっと美味しく感じるのは、ほかの3人がいるからだろうか。
食事を終え、仕事の準備をし始めた所で雷が起きてきた。
「おはよう、朝早いね」
「おはよう。バイトだからね。ご飯は用意してあるから。」
「ありがとう。いただくよ」
と言ってリビングへ向かっていった。私は他のふたりを起こさないように、寝室で準備を続ける。2人は心地良さそうな顔で毛布にくるまって寝ている。ほっぺをフニフニしてみたいが、起きてしまうと困るのでとりあえず保留という事にしておいた。
準備が終わり、家を出る。まだ2人は起きてなかったのでお見送りは雷1人だった。だけど言ってくれた
「頑張ってね」
の一言で何でもきるような気がしてきた。
#
繭が仕事に行ってしばらく経ってから2人は起きてきた。
「おはようございます。おねぇはもう仕事行ったんですか?」
「おはよう。うん、2人が寝てる間に行ったよ。」
「ちゃんと起きて見送りしたかった…」
「明日は頑張って起きよう!僕も見送りたかったし。」
「ご飯は用意できてるから。」
「ありがとうございます。」
と、会話を交す。2人はご飯を食べ始め僕は歯を磨いたり顔を洗ったりする。――とその前に1つ提案をした。
「今日繭のアルバイト先に行ってみない?」
「良いですね、それっ!」
勿論その提案には全員賛成だった。
#
「おはようございますっ! 今日からよろしくお願いします!」
バイト初日なので、店に入ると同時に大声でそう挨拶する。すると、1人見覚えのある女性が近付いてきた。確かここの店長さんの、名前は――
「昨日ぶりだね!繭ちゃん。昨日も言ったけど私がカフェ
私の心を読んだかのようなタイミングで自己紹介をしてくれる涙さん。腰まで伸びた金色の髪はサラサラとしていて、儚げな顔と合わさって本物の天使のようだった。また、声も美しく、それだけで何人もの人を魅了することのできると確信できるような声だ。
「あっ…私、
そう言ってぺこりと頭を下げる。
「みんないい人だからそんなに緊張しなくてもいいよ!そういや繭ちゃんは料理出来るんだよね?」
「はい、家でも料理は私がしてます。」
「良かった、なら安心だ。早速今日からキッチンで働いてもらうね。」
「分かりました!」
「仕事は七瀬ちゃんに教えて貰ってね。」
店長がそう言うと、七瀬ちゃんと呼ばれた人が私に近付いてくる。見た目的には同年代だ。
「迷惑をかけることもあると思いますが、これからよろしくお願いします。」
私がそう挨拶すると、七瀬さんはちょっと苦笑いをして話す。
「私は七瀬(ななせ) 雫(しずく)。多分繭さんと同い年だから敬語は無しで良いよ。呼び方も雫でいいよ。」
「わかり……わかったよ、雫さん。」
「じゃあお仕事教えるね、着いてきて。」
「うんっ!」
私はいい人達に囲まれて、楽しくバイトができそうだと心から感じた。ここなら長く続けることもできそうだ。
#
今の時刻はお昼ごろ、僕達は繭のバイト先に行くために街へ来ていた。
「もうすぐ着くよ。」
「僕楽しみになってきました!」
「私もです。おねぇの仕事姿みたいです。」
そんな会話を交わしていると、遂に繭のバイト先に着く。
「ここだよ。」
「えーと…、カフェ天使ですか。名前からオシャレですね。」
「じゃあ中入ろっか。」
そうしてドアを開けて中に入る。すると、店員さんが席に案内してくれた。僕達は席に座りながら繭を探す。
「どこだと思います?」
「繭料理上手いからキッチンかも。」
「確かにそうかもしれませんね。」
そう言って3人でキッチンへと顔を向ける、運良くここはキッチンがよく見える席だった。そして―――
エプロン姿で働く繭とバッチリ目が合った。繭は顔を真っ赤にし、店長らしき人と話してからこっちへ来た。
「なんでいるのっ!」
顔を真っ赤にしながら怒られる。僕達以外の客もいないので迷惑にはならない。
「来てって言ってたじゃん…来ちゃダメだった?」
「恥ずかしいよ…!」
「似合ってるよ、その姿」
「〜〜〜〜〜っ!!!」
エプロン姿を褒めると繭が声にならない悲鳴をあげた。顔はこれ以上無いほど真っ赤になっている。
「僕も似合ってると思いますよ。」
「私も同じ意見です。」
「もうやめてっ……!!」
僕以外の2人にも同じ事を言われ繭はキッチンへ逃げ帰ってしまった。キッチンで店長がらしき人に助けを求めている。
その後、注文した珈琲を届けに来てくれた店長に、
「あんまりからかっちゃダメだよ。」
と笑顔で言われた。
#
夕方、繭が仕事から帰ってくる。疲れてると思ったので夕食は僕が用意した。
夕食、食卓を囲ってご飯を食べていると繭が突然大声を出す。
「やっぱりもう絶対バイト先来ないでねっ!!!めっちゃ恥ずかしかったんだから!!」
「わかったよ、多分行かない。」
と適当に返しておく。もう1回ぐらい繭のエプロン姿も見たいと思ったから。
繭も僕達の為に仕事を頑張っているから邪魔をするのは良くないが、たまになら別に大丈夫だろう、そう思う。
「仕事、頑張ってね。」
「うん、みんな優しいし私も頑張るね。」
笑顔で返される。僕達が行った時も繭は親切に仕事を教わっていた。これなら僕も安心だ。
繭を頑張ってるから僕も頑張らなきゃな、と思いながらご飯を頬張る。明日からお米の収穫がある。冬に雪が降るかまだ分からないが、基本日本と同じような気候をしているので万が一の事がある。そのために明日からしっかりと仕事をしなきゃいけないし、茶眩や音羽さんにもしっかりとやってもらわなきゃいけない。
もう一度ご飯を頬張り、明日のための体力を回復させておくために今日は早めに寝なくちゃなと思う。今日1番早起きしたのが繭なら明日からは僕だ。そんな事を考えながらご飯を完食する。
「お風呂入ってくるね。」
と一言告げ、リビングを出てお風呂に向かう。本当なら仕事で疲れてる繭を1番に入れたかったが、明日早起きするために今日は早く寝て起きたかった。
ぱぱっと頭と体を洗い、湯船に浸かり温まる。10数分入ったあと、浴室から出て服を着る。寝室に向かうと布団はもう敷いてあった。
「ありがとう、繭。」
何となく繭が敷いてくれた気がして、誰にも聞かれないように、感謝を小さく呟き僕は目を瞑る。嬉しい事に心地の良い布団に包まれた僕はすぐに眠りに落ちることができた。
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