48話 ふとした瞬間に大事な事って起きるよね

 空を見上げる、冬にしては温かいのは雲一つない晴天が地上を照らすからか、それとも此処が日本ではないからか、見渡す風景には溶け残った雪とまばらにある家屋だけ。そう、この僕は約一年前にこの世界にやってきた。そう、もう一年なのだ。これまでいろいろな出会いがあった、幼馴染の繭との再会や、隣人の東雲夫婦、それから、大切な家族の茶眩と緋莉、雪。思い返すと本当に濃い一年だったと思う。当たり前のように横に家族がいて、そして幸せで、自分の中でこの1年は大切な思い出になっていた。そしてこれから続いていく思い出も...。

ふと、日本にいた頃の自分を思い出す。家族仲は悪くなかったと思う、学力も平均、陰でも陽でもない、良くも悪くも普通だった。ただ普通じゃなかったのは、僕が病気を持っていたことだろう。5歳の頃に発病したそれは、当時の日本の科学では治療不可、長くて10年と言われていた。

そして約10年後、15歳となった誕生日に僕はこの世界に舞い降りた。多分神様からのプレゼントなのだろう。最高のプレゼントを貰った僕は幸せ者だなと感じる。親孝行は出来なかったけれど、今の家族を大切に愛そうとそう思った。


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三賀日が終わり、日常が戻ってきた数日後、僕は1人でカフェ天使に訪れていた。

「お久しぶりです。」

「おお、雷くんか。先日はお世話になったぞ。」

「いえいえ、楽しんでいただけて何よりです。」


カフェに入り、少し言葉を交わした後に席に着く。コーヒーとたまごサンドを頼み、来るのを待っていると天使さんが席へとやってきた。


「キミが1人で来るなんて珍しいな、なにか私に用でもあったのかい?今日は暇だからいくらでも聞くことが出来るが。」

「ふと来たくなったんですよ、ここのコーヒー大好きですから、でもまぁ少し雑談でもしましょうか。」

「そうだな、じゃあ私の分のコーヒーも持ってくる事にしよう。」


そう言って席をたち、直ぐに2人分のコーヒーとたまごサンドを持ってきた。角砂糖とミルクを入れて一口飲む。...美味しい。安心する味がする。天使さんを見てみると、心配になる量の角砂糖を入れ、満足した顔をした後にコーヒーを飲む。とても幸せそうな顔を見て、こんな顔をも出来るんだなと感じた。それは普段のクールな感じじゃなくて、1人の可愛らしい女の子のようだった。


「天使さん苦いの苦手なんですね。」

「そうだな。どうしても苦いのは飲めない。」

「平気な顔してブラック飲んでると思ってました。かっこいいところだけじゃなくて可愛いところもちゃんとあったんですね。」

「……普段は可愛げがなくて悪かったな。」


顔を赤くして背ける素振りも可愛らしい、天使さんの内面のひとつを見れたようで少し嬉しかった。

その後も雑談を交わし、1時間くらい時間が経った。カップないのコーヒーはもう無いしたまごサンドも食べ終わったあとだ。長居するのも悪いしそこそこ客も増えてきたので、


「そろそろ帰りますね、今日はありがとうございました。」


と、そう告げ立ち上がる。


「あぁ、また来てくれ。美味しいコーヒーを用意して待ってる。」


手をひらひらと振りながらそう返す笑顔の天使さんを見て僕は店を出る。日はまだ天頂近くに佇み、温かい日差しを降り注いでいる。少し買い物をして帰ろうと、前に繭と行ったショッピングセンターに向かった。

数分歩き目的地に着く、中は寒くも暑くもない適温で居心地が良かった。適当にブラブラと店内を一周した後に、買おうと思っていた食材を少し購入し帰路に着く、乗りなれた馬車に乗り、傾きかけた太陽に照らされながら涼やかな風に吹かれる。気持ちの良いその環境はどんな時でも眠気を誘う魔法がかかっているようで、僕もその魔法には逆らえず船を漕ぐ。意識も夢の現実の狭間へと到達仕掛けた頃、どうやら目的地に着いたようで、係の人に起こされる。眠たい目を擦りながら少し伸びをして馬車をおりる。歩き慣れた道を歩きながら繭と出会った頃のあの騒がしさを思い出してきた。ちょうどこの辺りだったかな、とふと空を見上げると、聞いた事のある様な叫び声が聞こえてきた。これがデジャブってやつなんだろう。何かを叫びながら落ちてくる少女を見上げ、苦笑し、一応その少女が怪我をしないように受け入れるような体勢をとる。

そして、ドンッ!という大きな音と共に体に多いな衝撃がかかった。馬乗りの体勢になった少女の顔を見て心の中で呟く。

また幼馴染が異世界転生してきたのか…。

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