49話 幼馴染は空から降ってくるものだよね

幼馴染が空から降ってくる、それは普通の人なら驚き腰を抜かすであろうイベントだけど、僕は1年前に既に経験したことだから少しは冷静でいれた、少しだけね。いくら経験したことであっても人が落ちてきたら少しは驚くよ、人間だもの。

自分の上で馬乗りになった少女を見て呟く、


「久しぶりだね、桃歌ももか。」


四季しき 桃歌、僕の幼馴染で繭の親友である彼女がどうしてこの世界に来たのかは分からないが、

それよりも先に僕の心は懐かしさに支配された。だけどそれも桃歌の


「あぁぁぁ!雷だ!!!!!!!」


という大声にかき消されたのだが。


「久しぶりだね、雷。私、雷も繭も居なくなってすっごく悲しかったんだよ?また会えてよかった…。」

「繭もこの世界にいるよ。僕もまた会えてよかった。」

「ホントに?早く会わせてよ!!ねぇ!!」

「わかったから首掴んで揺らすのやめて…。あとおりてくれないと案内もできないよ。」

「あっ…。ごめんね?」


顔を仄かに赤く染め、僕の上から降り身体に着いた土埃を払う。僕も立ち上がり、桃歌と同じように砂埃を払って家へと歩こうとすると、後ろから、


「待って。」


と、袖を引かれた。何かと思って振り向くと、桃歌は笑顔で、


「せっかくだし昔みたいに手、繋ごっか。」


真夏の太陽のように煌めいた彼女の笑顔の前で断る事なんてもちろん出来なくて、桃歌の手を握る。彼女を見てみると俯いて少し顔を染めていた。素直に、すごく可愛いと思った。

家までの帰り道はポツポツとしか言葉を交わさなかった。話したかった事は沢山あったけど、それよりも手を繋いでいる恥ずかしさが勝って、お互い何もしゃべてなかった。だとしても家の前について無言という訳にもいかないので、声をかける。


「着いたよ、ここが僕と繭の家。」

「えっ...?もう着いちゃったの?」

「うん、遠慮しないで入っていいからね。」

「わかった、お邪魔します。」


ガラガラとドアを開け、リビングへと2人で向かう。リビングでは、繭が椅子に腰掛けて本を読んでいた。


「ただいま。繭。」

「おかえり、雷。と、もう1人...?えっ?桃歌?なんでここにいるの...?」

「えへへ...。久しぶり、繭。なんか目が覚めたらこの世界に落ちてきてたんだ。」

「そうなんだ、でも、また会えて嬉しいよ。」


そう言って抱き合う2人。本当に仲が良い。日本にいた時もずっと2人で居たから、会えなかった1年弱の寂しさが爆発したのだろう。2人は抱き合いながら涙を零していた。

色々と一段落して、僕らは食卓を3人で囲んでいた。目の前に広がるのは繭と桃歌が作ったご飯。


「いただきます。」


と。3人で合わせて言って、食べ始める。美味しい。見た目はいつもと変わらないけれど、久々に再開した大事な幼馴染と一緒だからか、いつもよりも美味しく感じた。特に唐揚げが美味しいなと思っていると、


「その唐揚げ、私が作ったんだよ。」


と、心を読んだのか桃歌が胸を張って言う。(ちなみに繭よりはちっちゃい。)


「そうなんだ、だから美味しいんだね。」

「雷はすぐそういうこと言う...」


僕の返しに少し不満そうな繭に、何?と聞くと


「なんでもない!」


と少し顔を赤くして返す。それを見てる桃歌はニヤニヤと笑っていて、それがなんだか懐かしかった。

そんな事もあって食事を終えてからは昔を懐かしむ話をした。桃歌が自転車でコケて泣いたとか、桃歌が迷子になって大泣したとか、そんな話を。桃歌は


「なんで私が泣いてた思い出しかないのよ!」


と怒っていたが、実際桃歌は泣き虫で、いっつも僕か繭に慰めてもらっていた。それを指摘すると何も言えないような顔になって、そして3人で笑った。

繭と桃歌はもっと話したいことがあるのか、2人でお風呂に行った。今も浴室から2人の笑い声が聞こえてくる。そんな声を聞いていると、昔は3人でお風呂にも入ってた記憶が蘇り、あんまり想像しないように本を読んで自分を落ち着けた。

2人が上がったあと、僕もぱぱっとお風呂に入り、寝る事になった。桃歌には茶眩と緋莉が使ってた布団を使ってもらう事になったが、それでも問題が生じた。

そう、寝る順番だ。僕は端っこでいい、(むしろ端っこじゃないと色々危ない)、と主張したのに、2人は


「「雷が真ん中!」」


と言って聞かない。そうやって3人でどう寝るか話し合った結果、結局僕が真ん中になってしまった。そろそろ眠いし折れないと寝れなそうだったから仕方なかった。

布団を敷いて、電気を消して布団に寝っ転がる。横に2人が居るのを感じ、心臓が緊張やらなんやらでバクバクなる。繭と2人で寝る時はお互い背中合わせだったから良かったものの、3人で僕が真ん中だとどっち向いても2人のどちらかが視界に入る。頑張って意識しないようにしたよ、それでも2人の呼吸音が聞こえたりしたらやっぱり意識しちゃうよね。それでも、1年間経って繭と生活するのが慣れたように3人で生活するのも1年後には日常になってるんだろうなって感じる。だけど、2人からかけられた


「おやすみ。」


という囁き声は絶対に慣れることなんて無いだろうなって思いながら僕の意識は夢の世界へ落ちていった。

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幼馴染が異世界転生してきた!? 結城 白舞 @hakumu46

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