プロローグを読み始めた瞬間から、この小説の雰囲気に引き込まれた。
「カチリ。金属の歯車が噛み合うような音が、闇の底で鳴った気がした」——冒頭の一文からすでに世界観がまるごと流れ込んでくる。触感のある文体、ざらついた感触の簡潔な文章で描かれるネオ・バベルのかっこよさに、あたかも長年この街に住んでいたかのような心地よさがある。
主人公・灰島レイのキャラクターが心地よい。荒廃した街で黙々と壊れたものを直すだけなのに、それが何故か周囲に畏怖されるという構図の妙味。「声には出さず、胸の奥だけで呟く」このスタイルも個性的で、寡黙なキャラクターを描くにはぴったりな表現法だと思う。
「吹き出しで相手の心の声が見える」という設定は、シンプルなようで深い。相手が何を思っているか知っていて、それでも関わりまいとするこの男の孤独さが何とも言えない。
SFの世界観を感じさせる詳細描写が好きな方にも、余分な説明を排したすっきりしたエンタメが好きな方にも、どちらにも刺さる一作。私自身もSFを書く者として、こういう「語らずして語る」文章に心から惹かれます。
レビュータイトルにピンときたらとにかく読むべし。
今年開始の作品の中でも出色のクオリティだと思います。
皮肉屋でタフガイの主人公が酸性雨の降り注ぐ荒廃した世界を生き抜く、そんなん男は皆大好きですから。
発達しすぎた科学は魔法と変わらないと言いますが、唯一主人公だけが科学を超えた特殊な能力を持っているという設定になっています。
ただその能力だけで生き抜いていけるほど甘い世界ではなく、簡単に人が死んだり破壊されたりする非情な世界なので、主人公もその住人として強さとしたたかさを備えた魅力的なキャラクターとなっています。
ストーリー展開も骨太で緻密な描写と合わさって最高にSFハードボイルドしてます。
クセの強い登場人物たちと上位層から下位層まで鈍く錆びついた世界を駆け巡る物語、今後も期待しかないです。