14話 僕達は家族だから。

「あかりがっ、緋莉がっ!」


そう言って僕達の目の前で泣き叫んでるのは、緋莉と共に居たはずの茶眩。何らかの事情ではぐれたのは分かるが、ここまで焦ることなのだろうか。


「とりあえず落ち着いて。何があったか教えて。」


茶眩を落ち着かせるために、ゆっくりと話す繭。そして茶眩に近づき優しく頭を撫でる。少し羨ましい。


「大丈夫、ゆっくりで良いから私達に話して。」


そう繭が言うと、少し落ち着きを取り戻したのか、茶眩がゆっくり話し出す。


「緋莉の母親、夏空 友利ともりは僕達の住んでいた所の1番偉い人、つまり村長みたいな存在だったんです。その一人娘が緋莉なんです。緋莉は時期村長になる予定でした。しかし自分の住んでいる地区の酷さに耐えきれなかったのか、幼馴染の僕と一緒に逃げ出す計画を立てました。勿論友利には内緒でした。僕らが逃げてからはずっと緋莉を探していたと思います。だから今回の本祭、そこで見つけられ連れてかれたのでしょう。」


2人の家出の事実を聞かされる。だけど僕はその事実を信じる事が出来なかった。いや、信じたく無かったのかもしれない。だって…ただの迷子なら探しようがあるが、連れてかれたならもう僕達には何も出来ないからだ。緋莉を助けるのは無理だ、そんな考えが脳内を満たして絶望していた僕に、茶眩が救いを与えてくれた。


「もしかしたら、緋莉の居る場所が分かるかもしれないです。」


何故それを早く言わなかったか不思議だが、助けれるならなんでもやる。茶眩の肩に掴みかかる勢いで


「どうすればいいんだ!?」


と聞く。いきなりの事で驚いていた茶眩だったが、すぐに真面目な表情になり、


「僕に着いてきてください!」


と言って走っていった。意外と足の速い茶眩を見失わないように僕達は一生懸命着いていく。

そうして走っていると、突然茶眩が足を止めた。僕達は茶眩の横へ行き、息を整える。そうして顔を上げると、西鳴神社の本殿がそこにはあった。


「こっちです。」


そのまま茶眩は本殿の奥へと進んで行く。少し躊躇ったが、今回ばかりは仕方が無いと僕達も着いていった。

本殿の裏に行くと、鬱蒼とした森の中に人工的に作られたであろう道がある。近付き見ると、人が通った形跡がある。


「これは?」


と何故かこの道を知っていた茶眩に聞く。


「友利達の隠れ家みたいな物です。僕も何度か来たことあるんですが危険な物も多いので気を付けてください。」


そう言ってそのまま茶眩は奥へと進んで行く。僕達も草木をかき分けるように着いて行った。

暫く行くと、小さな小屋の様なモノが見えてきた。


「あそこです。恐らくあそこに緋莉はいます」


そう言って小屋を指さすその横顔は真剣そのものだった。更に緋莉がそこにいることを表すように、1つの窓から光が漏れていた。それを見て僕は1度大きく深呼吸をした。今から始まるのは緋莉の救出。緋莉の親、友利を敵に回す、つまり1つの村を敵に回す事になる。一歩間違えたら色々とヤバいことをされるんじゃないか。そんな恐怖に体が震える。


「じゃあ、行くか。」


そんな自分に喝を入れるようにその言葉を口にする。


「それじゃあ、行きますよ。」


と茶眩が言って、小屋の中に入る。それに続き僕達も中に入る。中は薄暗い空間が広がっていた。しかし1つの部屋から光が漏れている。


「そういや何で緋莉がここに居るって分かったの?」


多分今までで1番重要な場面で繭がそんな事を聞く。確かに僕も気になっていたから、聞いてくれたことに少しは感謝するけど。


「ここに居るって感じたんです。緋莉は絶対に此処にいるって。」


そう話す茶眩は、少し恥ずかしそうだった。

そして―――

ガラガラガラ

と音を立て、ドアを開ける。中には、椅子に座り縛られた緋莉とそれを見下ろす友利、その仲間と思わしき人が1人いる。


「誰?あなた達は?」


友利が僕達にそう聞いてくる。その質問に対して僕は胸を張って、自信満々にこう答えた。


「緋莉のだっ!」


横で繭と茶眩が静かに頷いている。緋莉の方を見てみると、涙を流していた。誰もが感動できる、そんな空気の中ただ1人友利だけが驚きの表情を浮かべている。そして


「自分の子供の家出を連れ戻すのは母親の役目では無いの?そもそも家族ってなんの事?勝手な事を言わないで欲しいのだけど。」


少し起こったように彼女は言う。だけど、


「自分の子供の幸せを願うのも貴方の役目では無いのですか?緋莉は私達と居た方が絶対に幸せです。」


と繭が返す。


「繭お姉ちゃん…」


と緋莉も言葉を漏らしていた。友利の表情は少し悔しそうなものに変わっていた。

「それでもあなた達は無関係の人間ですよね。家族のことはその中で解決することではないのかしら。」

苦し紛れの言い訳だ。その言葉になんと緋莉が反論する。


「雷お兄ちゃんと繭お姉ちゃんは無関係じゃないもん!私を家族として大切にしてくれたもん!お買い物もしたし、一緒に星も見た。今日のお祭りだってみんなできたもん!」


と、泣き叫ぶ。それに続き繭も、


「そうです!緋莉は私達にとって大切な家族の一員です!」


そんな事を言われて友利はしぶしぶといった顔で答える


「そうですか、しかし私の気持ちは変わりません。いつか緋莉を連れ戻します。」


そう言い残してこの場を去っていった。仲間の男もそれに着いていく。

2人が去ったあと、僕達は緋莉を縛っていた縄を解く。すると、

「お兄ちゃぁん!お姉ちゃぁん!」

と僕と緋莉に抱きついてきた。

「こわかったね、もう大丈夫だよ。」

と言って繭が優しく頭を撫でる。僕もそれを真似て頭を撫でた。

暫くそうして泣いていた緋莉は、泣き疲れたのかそのまま眠ってしまった。緋莉を繭がおぶってみんなで家に帰る。


#

家に着くと同時に緋莉は目覚めた。赤く腫れた目を気にして恥ずかしそうにしている。

「おねぇ!お風呂入ろ!」

それを誤魔化すように緋莉は繭をお風呂に誘った。今までの反動からか、少し甘えるようになった。それと僕と繭の呼び方も変わった。今までは、名前+お兄ちゃんかお姉ちゃんだったのが、おにぃとおねぇに変わった。なんか嬉しくなる。

とりあえず緋莉が帰ってきた記念をしようと思い、

「今度4人で旅行行こうか、家族旅行。」

そう言う僕に皆笑顔で頷く。みんなの日常が戻ってきた。僕らの大好きな日常が。







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