22話 花火より美しい笑顔

日は落ち、あたりは薄暗い闇に包まれていた。そんな僕たちを照らすのは今やっているBBQの炎ただ1つ。

その炎は優しく吹く冷たい風によってユラユラと揺らめいていた。

僕達は海で遊ぶのを終えた後、風邪をひかないようにすぐに着替えて夜ご飯の準備を始めていた。ここのキャンプ場は地面が芝生なので、バーベキューコンロを直接地面に置いてはいけない。理由は炎が燃え移る可能性があるからだ。

「美味しいですね〜」

お肉をもぐもぐと頬張りながら繭が言う。

「そうだね〜」

と音羽さんも返す。

暖かい火を囲いながらみんなで話しているととても楽しい。まるで家族でキャンプに来たかのように。

「ましゅまろあるけど食べる人〜」

僕がそう聞くと、全員手を挙げた。僕は竹串にマシュマロを3つ刺したものを6人分用意した。それをコンロの上に置いて、焦げないようにくるくる回しながら焼く。

何度かクルクル回すと全体的にいい感じに焼けた。それを一人一人に手渡した。

「あふっ!」

渡したマシュマロを咥えた繭が慌ててそれを口から出して言う。

「そりゃ熱いに決まってるじゃん…。ちゃんとふーふーして少し冷ましてから食べなよ。」

と、僕に言われて、マシュマロに息を吹きかけている。僕も食べようと思い、ちょっとだけ冷ましてから口に入れる。

「美味しいね、焼きマシュマロ。」

そういうとみんな頷く。笑顔で食べていてみんな幸せそうだ。まだ一生懸命にマシュマロを冷ましている繭を除いたらね……笑。


#

ご飯を食べ終えた僕達は、さっきまでいた海の砂浜にいた。その理由は、音羽さんが持ってきた花火をするためだ。

夜の砂浜は、冷たい潮風が吹いてきていてちょっと肌寒い。しかし真っ暗で何処までも続く水平線を見ていると、そんな事も感じない程に、見つめてしまう。

音羽さんが、持ってきていたロウソクに火をつけると、辺りがぼぉっと明るくなる。風に吹かれて揺らめく火は、少し幻想的に見えた。

「はいこれ雷くんのやつ。」

と詩歌さんに手持ち花火を渡された。それの先端にロウソクの火をつけると色とりどりの炎が発射される。

とっても綺麗だ。その炎に見とれているとあっという間に炎は消えていってしまった。

だから僕は新たな花火を受け取って火をつける。

ぶぁぁぁぁっと出る炎をずっと見ていると、隣に詩歌さんが来る。

「花火、好きなの?」

「昔から大好きなんです。とっても綺麗で」

「私もわかるよ〜。」

「雷と詩歌さん〜こっち来てー。」

話をしていると繭に呼ばれる。小走りでその方へ行ってみると、地面に何かを置いていた。

「なにこれ?」

「打ち上げ花火」

「法律とか…大丈夫なの?」

「ここは異世界だよ?そんなの無いよ、多分…」

小声で繭と話す。確かに異世界ならそういうのも大丈夫そうだ。

打ち上げ花火に火をつけると、しゅぅぅ……と音がする。危ないから少し離れて、花火を見る。

ドンッ

と大きな音がして、花火が打ち上がった。そして夜空に大きな華が咲く。

「わ〜綺麗だね…」

隣で繭が感動した声を漏らす。確かに綺麗だ、夜空に咲いた華の花弁一つ一つが落ちてくる。しかしそれは地面に落ちる前に儚く消えてしまう。それが何か感動できるのである。隣にいる繭もじいっと花火が散りゆくのを見つめていた。

その間も音羽さんはいくつかの打ち上げ花火に火をつけていたようで、次々に夜空に華が咲く。その短命の美しい華は僕達を魅了して散っていった。

「砂浜で2人で花火見るってカップルみたいだね。」

と、横にいる繭に言われる。その顔は花火の光に照らされてかほんのりと赤く染まっていた。

「そうだね、またいつかこうやって花火見たいね。今度は2人きりで……。」

そう言うと、繭の顔は花火より真っ赤に染まった。自分自身の頬が熱を持っていくのも感じる。多分ちょっと遠くでは緋莉達がニヤニヤと僕たちのことを見てるんだな〜って思いながら。

僕は花火を見ている繭の右手にそっと手を添える。驚いたのか、ちょっと肩を跳ねさせた繭はこっちを見てくる。そして、少し微笑んで僕が添えた手を握る。

そのまま2人で花火を見ていた。とってもとっても美しい花火を。だけれど、僕の手を握って、笑顔で花火を見ている繭の方が花火より何倍も、いや何万倍も美しかった。だから僕は繭のことをずっと見つめてしまっていた。

いつしか花火は終わっていた。夜空には最後の花火の花弁が散っていた。花火が終わっても、僕達は立ち上がらず今まで綺麗な花が咲いていた夜空を見つめていた。夜の潮風は少し肌寒かったけど、それでも戻ろうと言う気にはならなかった。


何分ぐらいその場にいたのだろうか、僕達以外の4人の気配はもうしない。ずっと繋いでいた手以外の体は結構冷えてしまった。そして、海の波の音以外が聞こえないこの場所に繭の声が聞こえてくる。

「結構体冷えちゃったし、そろそろ帰ろうか。」

「そうだね、風邪ひくと良くないし」

「昔の誰かさんたちみたいにね」

と笑いながら言って繭が立ち上がる。それに続いて僕も立ち上がり、2人並んで夜の砂浜を後にする。優しく繋いだ手はずっと離さずに。

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