23話 秋のキャンプは朝が寒い。

朝、布団の中に入ってくる冷たい風によって僕は目を覚ました。4人で布団にくるまって寝ているはずなのに、暖かいどころか震えるほど寒い。

理由は僕達が今キャンプに来ていて、テントの中でいるからだ。しかもこのキャンプ場は海に近いことも原因のひとつだろう。

「ふぁぁ〜さむ…。」

欠伸をしながら目を覚ました繭が呟く。そして、茶眩と緋莉も目を覚ました。すごく寒そうにかけている毛布にくるまっている。もちろん僕もだ。

暫く毛布にくるまり寒さと戦っていると、テントの入口が開かれ、2人入ってくる。一緒にこのキャンプに来ている東雲音羽さんと詩歌さんだ。2人は結婚していて、それを機に引越しをした。その家が、僕たちの家の横だった。それで仲良くなったのだ。

「起きた〜?起きてるなら着替えてご飯食べるよ。」

「寒いと思うけど頑張ってね!」

2人にそう言われ、

「はーい 」

と返事をし、着替え始める。もちろん緋莉と繭に背を向けてね。


着替え終わり、テントを出ると、冷たい風に肌を撫でられる、が先程よりかは冷たくなく少し心地よい。

2人はテントの前でバーベキューコンロを囲い椅子に座っていた。近くのテーブルには朝食であろうご飯と昨日のお肉の残りが焼けて置いてある。

「みんなおはようっ! これ1人ずつ持ってって」

と詩歌さんに言われ、朝食の入ったお皿を渡される。

「ありがとうございます。」

と言って受け取り、椅子に座って食べる。雰囲気のせいか、いつもより美味しく感じる。それは他の人たちも同じようで、

「美味しいねー!」

と話している。


食事を終え、洗顔など普段朝にやっている事をしていると、音羽さんに後ろから話しかけられた。

「雷くんって釣りとか興味ある?」

「好きですよ、昔もたまにやっていました。」

昔父親と一緒に釣りをした事を思い出す。釣れるまでは退屈で辛かったが、釣れた時の達成感と喜びはそれを上回るものだった。

「良かった、後で一緒に釣りやろう。」

「分かりました。」

音羽さんは嬉しそうにテントの方へ戻って行った。


朝の準備を終わらせ、テントの前には6人が集まっている。全員椅子に座っていて、何かの会議が始まるかの様だった。

「僕たちこれから釣り行くけど詩歌はどうする?」

「私たちは繭ちゃん達とお風呂に入ってくる。昨日入れなかったし」

「分かったよ。お昼ぐらいに戻ってくるから」

「うん。お昼ご飯の準備はしておくね。」

音羽さんと詩歌が二人で話し出す。隣に座っている繭に、

「お風呂行く約束してたんだ。」

と言うと、

「うん。さっき誘われた。雷も誘われてたんだね」

と笑顔で返してくる。

僕たちが話しているうちに音羽さん達の話し合いは終わったようで、音羽さんは釣りへ行くための準備をしていた。僕も何か手伝おうと思い近づいたが、

「雷くん達はゆっくりしてていいよ。釣り、結構大変だしね。」

と断られてしまったので、茶眩と一緒に椅子に座って待つ事にした。詩歌さん達は、3人で楽しそうに話しながら温泉に行く準備をしている。

「終わったよ、じゃあ行こうか。」

ととっても大きいリュックを背負った音羽さんに言われ、小走りで音羽さんの元へ行く。後ろを向いて、繭達に手を振ると、振り返して逆方向へと歩いていった。


#

釣り場に着く。既に何人か人が来ていて、釣り糸を垂らしながら椅子に座っていた。

「ここら辺にしようか。」

そう言って音羽さんは背負っていたリュックを降ろす。中から釣竿を3本出して、組み立てる。

「これ、釣り針の先端に自分でつけれる?」

とパックに入った虫の様な何かを見せられる。中でうねうね動いていて、ミミズみたいな虫だった。

「これはゴカイって名前の餌でね、小さめの魚を釣る時に使われるんだ。」

そんなんだ、と思いながら僕はゴカイに手を伸ばす。1匹指で掴んでみると、うねうねと体を動かす。ちょっとぷにぷにとした感触で凄く気持ち悪い。僕は昔やった時のことを思い出しながら釣り針に餌を付ける。

「もうやっちゃって良いですか?」

と聞くと、

「良いよ。気をつけてね」

と言われたので、釣り針を海に投げ入れる。ちょっとしてから底についた感覚がしたので、リールを少し回し糸をピンと貼らせる。そのまま釣竿を固定し、音羽さんが用意してくれた椅子に座ると、

「やり方教えてください。」

と茶眩に話しかけられる。僕は茶眩の横へ行き、細かくやり方を教える。ちなみに1番苦労したのは餌をつける時だ。茶眩が気持ち悪いと触ろうとしなかったのが原因だ。

茶眩の釣り針も海へ投げ入れる。僕が茶眩に教えている間に準備を終わらせていた。あとは魚がかかるのを待つだけだ。


#

「あったかくて気持ちいいね〜!」

詩歌さんの声が浴場に響く。

「そうですね」

お風呂に入りながらバタ足で泳いでいる緋莉が答える。普段なら怒られる事だが、お客さんは今は私達だけだから大丈夫だろう。

「女の子3人でする話と言えば恋バナだよね〜。」

と、突然詩歌さんが話し出す。

「じゃあ、詩歌さんは音羽さんの何処が好きなんですか?」

と質問をする。詩歌は少し顔を赤くしながら、

「勿論全部。だけど特に優しくて頼りになる所かな?」

と話す。確かに音羽さん頼りになるな、と納得する。

「私だけ話すのも恥ずかしいから2人のも話してよ!」

私たちはそれに言葉を合わせて返した。

「秘密です。」と。


#

釣りを初めて30分くらいたっただろうか、未だに魚は釣れてない。そろそろ釣れても良いと思うんだけどね。

とその瞬間、茶眩の釣竿がピクピクと動いた。

「茶眩!釣れてる!」

と僕が叫ぶと、茶眩は驚きながら釣竿を掴む。そして思いっきりリールをまわす。

「頑張れ!」

と応援していると、水面に魚の影が見えた。もう少しだと思って、茶眩と水面を見ていると遂に魚は水上に出てきて、勢い良く茶眩の元へ行く。茶眩はその魚を見て驚いて尻もちをついた。

「あぁ、その魚は鬼頭尾きとびだよ。見たこと無かったかい?」

「無いです、こんな怖い魚。」

「鬼頭尾は、鬼に頭の尾って書いてきとび、って読むんだ。その名の通りしっぽが鬼の頭の様になっている。」

その説明の通り、鬼頭尾の尾ひれには鬼の頭のような模様がある。

「こんな見た目をしてるけど味は凄く良いんだよ。」

と嬉しそうに付け加える。

結局僕たち3人でお昼まで釣りをして釣れた魚はその1匹だけだった。


テントまで戻ると、詩歌さん達がお昼の準備をしてくれていた。音羽さんは鬼頭尾の入った袋を詩歌さんの元へ持っていく。どうやらラーメンの具として入れるようだ。

10分程度でご飯は出来た。今日のお昼は鬼頭尾ラーメン。1口食べてみると、海鮮系の塩ラーメンの様な味がした。とっても美味しい。夢中になってラーメンを食べていると、横に座った音羽さんが話しかけてくる。

「美味しいでしょ?実はこのラーメンの味付けは鬼頭尾だけなんだよ。出汁も取れて具としても使えて便利な魚だよね。」

「そうなんですか、凄いです」

今度お店とかで見かけたら買ってみようと思う。


お昼ご飯も食べ終わり、遂に家へ帰る事になった。来た時と同じように、街の入口まで専用の馬車で行く。

「やり残した事はない?」

と馬車に乗る前に音羽さんに聞かれる。全員

「無いです。」

と返し、お金を払い、馬車に乗り込んだ。


馬車に揺られること半日程度で僕達の住んでいる村についた。家の前で音羽さんたちと別れ、家に帰る。

「また大切な思い出が増えたね」

と繭に言われ、全員で頷く。

「これからも沢山良い思い出作ろうね」

と僕は言って、全員と約束する。これからも4人でずっと色々な思い出を作れると良いな、と願いながら。









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