5話 手作りお弁当の力は凄い
いつもの様にカラスの鳴き声で目を覚ます。小さい欠伸を1つして立ち上がり、周りを見てみる。僕が寝ていた布団の横には綺麗に整えられていた布団が1つある。おそらく先に起きた繭が畳んでくれたのだろう。
そこで、リビングからいい香りがする事に気付く。
昨日夜ご飯を食べてないので匂いに釣られてお腹が鳴ってしまう。リビングに行ってみると、テーブルの上に僕の普段食べている朝ごはんが並んでいた。
「おはよう!」
キッチンの方からそんな声が聞こえてきたので顔を向けてみると、エプロン姿の繭が立っていた。
「朝ごはん作ったけど…これで大丈夫?」
その後心配そうな顔で聞いてくる。全然大丈夫、と言うより完璧だったので、
「大丈夫だよ、後おはよう。」
と答える。すると繭は嬉しそうな顔をして僕にご飯を食べる事を勧めてきた、この会話の途中で何度かお腹も鳴っていたので、急いで手洗いうがいを終わらせ席に着く。
「いただきます。」
2人で手を合わせそう言い、ご飯を食べ始める。味は素晴らしいものだった。目玉焼きはいい感じの焼き加減で塩と胡椒もいい感じにかかっている。ウインナーも、調味料の加減が素晴らしかった。
「めっちゃおいしい!」
素直な感想を口に出すと、繭は嬉しそうな顔をしている。
「昨日雷が作ってたやつ真似してみたんだ!」
と言っているが、真似と言うより進化だ。僕のより何倍も美味しい、同じ材料でここまで上手く作れるのが不思議なレベルだ。完食した後の満足感が凄かった。
お皿を洗おうとキッチンへ向おうとしたが、
「お皿なら私が洗うよ。」
と繭に止められる。流石に申し訳ないので断ろうとしたが、
「昨日色々と買ってもらったお礼。雷はお風呂とか入ってて良いよ。」
と逆に断られてしまった。よく見ると繭の髪は少し濡れていて、近づくといい匂いがする。昨日入らなかった代わりに今朝入ったのだろう、僕も昨日はお風呂に入る前に寝てしまったので、今日だけはお皿洗いを頼んでお風呂に入ろうと思う。
「じゃあ…よろしく。」
そう言ってお風呂に向かった。
まだ微かにいい匂いが残ったお風呂。1度経験してるので、動揺はしなかったがどうしても繭が入ったお風呂だと言うことを意識してしまう。なるべく早く上がるために、サッとシャワーを浴びて髪と体を洗う。昨日入らなかったけど今日の夜入るならこれくらいでいいや、と言うようにパパっと済ませ、すぐにお風呂から出る。お風呂に入った所為でまだ暑いが、今日は仕事があるのですぐに着替える。着替え終わりリビングに行くと、珈琲を2つ持った繭がいた。僕の方を見るとスタスタと近づいてきて、珈琲を渡してくる。
「お風呂上がりだから冷たい珈琲だけど、いい?」
お風呂に入っているうちに珈琲を用意していたらしい。ありがたく受け取り、半分程度一気に飲む。砂糖を入れているのか、少しだけ甘い。いつもはブラックだけどこれも良いな、と思った。喉が乾いていたので、残り半分もすぐ飲む。そろそろ仕事に行く時間だったので、玄関へ行こうと歩き出すと、
「待って!」
と繭にとめられる。何だろうと振り返ってみると、繭が1つ何かを差し出してきた。
「これお弁当…作ったからお昼に食べて…。」
ちょっと恥ずかしそうにそんな事を言う。お弁当箱を受け取り、
「ありがとう、楽しみにしとくよ。行ってきます。」
と言うと、繭も
「行ってらっしゃい。」
と言いながら笑顔で手を振っていた。
仕事場(畑)に着き、仕事を始める。と言っても邪魔な雑草を抜くだけだ。(それがかなりキツい)僕はまだ若いので、他の畑も手伝いに行く。常に屈んだりしゃがんだりしているので腰が痛い。そんな事を数時間続け、1度休憩をする。休憩場の椅子に腰掛け、持ってきたお弁当箱を開く。中身は半分はご飯、残り半分は野菜や卵焼きで、色とりどりの美味しそうな物だった。人生初の誰かの手作り弁当で少し緊張しながら、一口おかずを食べる。
「おいしい…!」
そんな言葉をこぼす。栄養に気を付けているのだろう、味は濃くもなく薄くもなく、丁度良く具材と調味料の味が合わさる味付けだった。また、他人それも異性の手作り弁当だという事もあって、更に美味しく感じた。
お弁当を食べ終える頃には、さっきまでの仕事の疲れは癒されていた。
「あと数時間、頑張るか!」
そう1人で言って、僕は午後の仕事を始める。午後の仕事は普段の2倍くらいの作業が出来た。お弁当パワーは凄い。
#
「疲れた…」
仕事が終わり家に着き、椅子に座ってそう呟く。お弁当パワーで張り切り過ぎた。
「もうすぐご飯を出来るから待っててね。」
エプロン姿でご飯を作る繭にそんな事を言われる。明日は絶対筋肉痛だよな、今日はお風呂ゆっくり入るか、などと考えていると、出来上がったご飯を繭が持ってきてテーブルに置く。
「今日のおかずは唐揚げだよ。」
と言われテーブルの上にある物を見る。確かに唐揚げがある、サクサクして美味しそうだ。
「いつお肉とか買ったの?」
気になった事を聞く。僕の記憶ではお肉は無かったはずだ。
「今日のお昼くらいに散歩ついでに外歩いてたらお店見つけたから買っちゃった。」
そう答える繭。確かに僕の住んでいる所の近くにもお店は少しある、そこで買ったのだろうと納得する。唐揚げを1つ箸で取り、食べる。予想通りサクサクで美味しい。
「そういえば明日から夜ご飯作るから。」
繭にそう言われる。今までは仕事終わり疲れた体で作ってたので夕食は適当になりがちだったので、それをやってくれるのはとてもありがたい。
「じゃあお財布も預けるよ。」
そう言って僕は繭に財布を渡す。中には僕の全財産が入っている、繭の事は信頼しているので安心して預ける事が出来る。その後は色々と雑談をしながらご飯を食べた。手作りご飯のパワーは凄い、さっきまでの疲れが癒された。食後、
「僕がお皿洗うからお風呂先入っていいよ。」
と言うと、
「良いよ、私が洗うから。」
と繭に言われる。家事全てを任せるのは申し訳ないので、何とか説得する。結局僕が長くお風呂入りたいから先に入って欲しいと言って納得してもらった。繭がお風呂に入っている途中に、鼻歌のような物が聞こえた。多分お風呂でノリノリで鼻歌を歌っているのだろう。想像するととても可愛い。
暫く椅子に座ってダラダラしていると、繭がお風呂から上がってくる。
「もう入って大丈夫だよ。」
そう言われ僕はお風呂に向かう。
やっぱりお風呂の中はいい香りでいっぱいだった。だけどもう慣れたのかそれが心地よく感じる。サッとシャワーを浴びて、お湯の溜まった浴槽に入る。
「あぁ〜…。」
自然とそんな声が漏れる。疲れた体に温かいお風呂が染み渡る。もうずっとこうしていたい気分だ。
数十分お風呂でくつろいで、お風呂を出た。久々に長く入ったのでとても暑い。服を上下ちゃんと着ると、絶対汗をかくので、上はTシャツ1枚だけ着て、リビングに向かう。
「お風呂気持ち良かった?」
リビングで椅子に座っている繭に聞かれる。
「超気持ちよかった。最高」
と答えておく。
「肩もみ…する?」
そう言われ少しドキッとする。同年代の異性に肩もみされるのはどうなのだろうか、他の人がどうであれ僕は恥ずかしいのだけれど。しかし、肩を揉んで欲しいのは事実なので、
「じゃあちょっとだけ。」
と言う。繭が立ち上がり、今まで自分で座ってた席に座るように言われたのでそこに座る。すると柔らかい手が、僕の肩を揉み始めた。力はちょっと強めで、少し痛いがそれが気持ちいい。
「こんな感じで、どう?」
と聞いてきたので、
「気持ちいいよ。」
そう答える、その後も同じペースで繭は肩を揉んでくれた。何分か揉んでもらっていると、疲れたのか後ろから
「はぁ…ふぅ…」
と言った声が聞こえてきたので、
「もう大丈夫だよ、明日は僕がやるね。」
と言う。繭は
「大丈夫だよ。」
と言っていたが、やって貰ったままでは申し訳ないので、何とか説得して納得してもらった。そのまま椅子に座ってくつろいでいると、大きな欠伸が出た。もうすぐ寝ようかなと考えていると
「もうそろそろ寝よっか。」
と繭に言われる。僕が頷くと繭はリビングを出ていった。多分着替えるのだろう。僕もその間に寝る準備を行う。
寝室で布団に寝っ転がっていると、パジャマ姿の繭が入ってくる。初めて見る繭のパジャマ姿はとても可愛かった。部屋の電気を消し、隣の布団に潜り込んでくる繭は小さな声で、
「おやすみ。」
と言ってきて、凄くドキッとした。僕も
「おやすみ。」
と返し、繭に気付かれないように布団の端の方へ行き目を瞑る。少し経ってから布団と服が擦れる音が聞こえてきたが、多分繭が寝返りをしたのだろう。そんな事を考えながら僕は眠る。
その後何故か2人は広い布団の端に寝ていて、すぐ近くの距離にいた。らしい。
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