4話 お買い物は疲れるが楽しい

「カー、カー」

烏の鳴く音で目を覚ます。目を開くとすぐそこに繭の可愛らしい寝顔があった。少し驚いたが、昨日自分から近づいて寝たことを思い出し、自分が先に起きれて良かったとほっとしつつ体を起こす。

「これは酷いな…」

立ち上がり、部屋を見た僕は苦笑と同時にそんな言葉を零す。僕の足元には、だらしない顔をして寝ている繭がいた。かけていた布団は足元で丸くなっている。何故か少し脱げている服の隙間からは、可愛らしいおへそや、彼女の履いている白い下着が見えている。なるべくその姿を見ないように部屋から出て、朝食を作る。今日、というより普段の僕の朝ごはんは、白飯、ウインナー、目玉焼き、そして食後の珈琲だ。これは、此処に来る前からずっと食べ続けていた朝ごはんで、僕のお腹にも多過ぎず少な過ぎない丁度いい物だった。慣れた手つきで、完成した物を皿に乗せ、テーブルに置く。冷めないうちに食べないので、急いでまだ寝ている繭を起こしに行く。

「繭、もう朝だよ。」

と、少し大きな声で何度か呼んでみるが反応は無い。仕方が無いので繭のそばにしゃがみ、肩を揺する。暫く揺すっていると、

「ん〜〜…ふぁぁ〜…」

と言い、小さく欠伸をして目を開ける。少しキョロキョロと周りを見てから僕の方を見ると、

「雷おはよぉ〜」

と目を擦りながら言う。まだ眠たいせいなのか少々可愛い口調になっている。

「おはよう、朝ごはんできてるよ。」

僕がそう伝えると、

「わかった。」

と返事し立ち上がる繭。着ている服を見て少し乱れている事に気づき、驚いた顔をしているがすぐ服を整え、僕のいる所へ向かってくる。

朝ごはんの置いてあるテーブルに向かい合うように座り、

「いただきます。」

としっかり言ってからご飯を食べる。チラリと繭の方を向いてみると、先程からしている欠伸の所為せいか目に涙を浮かべている。

「まだ眠いの?」

と僕が質問をしても曖昧な返事が返って来るだけなので、まだ眠たいのだろうと察する事が出来る。このままだとご飯が冷めてしまうので、眠気覚ましとして食後用に用意していた珈琲を入れ、渡す。

「これ飲んで目、覚まして。熱いから気をつけてね。」

僕がそう言うと繭はカップを持ち口元に近づけ、ふー、ふーと珈琲を息を吹きかけて冷ます。少し冷ました後、もう大丈夫だと感じたのか、カップに口をつけ、一気に珈琲を飲み込む。苦かったのか少し咳き込

む、それと同時に眠気も覚めたのか、眠たそうだった顔もいつもの顔に戻っていた。しっかりと目が覚めた繭は、すぐに朝ごはんを食べ終え、今はお皿を洗ってくれている。僕がやろうとしたら、

「雷は珈琲飲んでて良いよ。」

と言ってくれたのでその言葉に甘えることにしたのだ。繭がお皿洗いを終え、椅子に座り話しかけてくる。

「そういや今日仕事行かないの?」

「今日は休み、だから街の方行って繭の服買いに行く予定。」

街は、基本的に田舎の北区で唯一栄えている都市のような場所だ。僕達が住んでいる所から馬車を使って1時間程度で着く場所なので、仕事が休みの日は日用品等をを買いに出掛けている。

「服買ってくれるの?やった!流石に同じ服を何度も着るのは嫌だったんだよね。」

その言葉を聞き、内心ガッツポーズをする。実は今日が休みだと言うのは嘘で、繭の服を買いに行くために、同じ仕事をしている知人に今日の分の仕事をやって貰っているというのが正しい。

「早いうちに行きたいから何か持って行きたい物あったらじゅんびしてきてね。」

繭は元気よく「うん!」と言って部屋を出ていった。良く考えるとこっちに来てから繭は何も買ったり貰ったりしていないので、持ってく物なんて無い事に気づいたが、今更遅いので無視する事にした。

数分後、僕の準備が終わり玄関に行くと、繭が立って待っていた。

「早く行こう!」

とっても楽しみなのか、今にも走り出しそうな様子の繭。そんな繭を落ち着かせてから馬車に乗り込む。馬車は、現実世界のタクシーに近いもので、場所ごとに料金が設定されており、行く場所を決め先にお金を払うシステムだ。

馬車に乗り、1時間程度で気持ちいい風に吹かれていると、街が見えてきた。高い建物が多いと言うより、少し大きめの建物が沢山ある見たいな街でとても美しい。街の入口で馬車から降りる。

「すごいね!これが街なんだ!」

目を輝かせて周りを見る繭はとても楽しそうだった。2人並んで歩き始める、歩いてる道の両端には、様々な種類のお店があり、気になったお店は外から覗いたりしていた。少し歩いて行くと繭が、

「あっ、あの服可愛い。」

と声を上げた。繭の視線の先にある物を見てみるとそこには、マネキンに飾られた服があった。胸元は結構大きく開き、おへそがチラリと見えるようになっている服だった。確かに可愛い。繭はこういう服が好きなんだなと思っていると、

「試着ってできるかな?」

と聞かれる。大体のお店は中で試着する事が出来るので、その事を伝える

「中で出来るよ。」

この言葉を聞き、繭は僕の手を引き早歩きでそのお店に入る。

「すいません、この服試着できますか?」

そう店員に聞くと、

「大丈夫ですよ、こちらでお着替えください。」

と笑顔で言ってくれた。繭は服を持ち店員に言われた場所へ行く。いわゆる試着室という所だ。入口のカーテンを閉め数分待っていると、中からカーテンを開けられる。そこには先程持っていた服を着ている繭が居た。なんというか…破壊力が凄い格好だ、とても似合っている。横にいる店員も繭を見たまま固まっている。繭が少し困惑してるのに気づいたのか、

「お客様、とても似合っていますよ。」

と言っている。お世辞では無く本心からの言葉だろう。それ程似合っているわけだ。

「ねぇ、どう?」

次は僕に向かって聞いてくる。

「似合ってるよ、欲しい?」

思った事を素直に答える。繭は嬉しそうな顔をして頷くが、少し表情を曇らせて、

「お金…大丈夫なの?」

と聞いてくる。お金の問題は全然大丈夫なので

「気にしなくて大丈夫だよ」

と答え服を購入する。繭は買った服をそのまま着て、今まで着ていた服を袋に入れて手に持っていた。それから店から出て街を歩いている時、繭は上機嫌だった。その後も、どこか行く時に気軽に着れる服を何着か、寝るとき用の服、下着(自分のもついでに買った。)、日用品(特に個人で使うもの)を買った。こんなに大量に物を買ったのは、僕がこの世界に来た時ぶりだ。僕達の両手には紙袋が沢山ぶら下がっている。買い物が終わり、休憩がてらお洒落なカフェに入る。僕は珈琲、繭はパフェを注文した。暫く待つと、珈琲とパフェが運ばれてくる。

「大きいね、美味しそう!」

パフェを見て繭が言う。運ばれてきたパフェには、沢山イチゴが乗っていてその上からチョコレートのソースがかかっている物だった。繭は上の方をスプーンで掬い口に含むと、

「美味しい!」

と言った。その顔は輝いている。そんな繭を見ながら僕は珈琲を一口飲む、疲れて乾いた喉が潤って気持ちが良かった。

「一口いる?」

と言われ顔を上げると、スプーンを持ち首を傾げた繭がいた。少し考えたが、こういう時は貰った方が良いだろうと思い一口だけ貰う。

「美味しいね、これ。」

素直な感想を口に出す。繭は、

「そうでしょ。」

と何故か自分が褒められたというように自信のある顔をしている。

注文した物を美味しく食べ終えて、店を出た僕達は帰るための馬車に乗っていた

「今日は楽しかったね。」

馬車に揺られながら繭が言う、その横顔は本当に楽しそうなものだった。

「そうだね、僕も楽しかった。」

爽やかな風に吹かれながら僕は答える、その後は楽しかった事など色々な話をしているうちにすぐ、僕達の町に着いた。

家に入ると、疲れてが急に来て眠気が凄かった。すぐに布団を敷き、何時でも眠れるようにする。繭も眠たいのか椅子に座りうとうとしている。夜ご飯を作る気力も無いので、寝るために服を着替える。繭にも一応着替えるよう言ったがあの様子では着替えていないと思う。

着替え、歯を磨き、リビングに戻ると予想通り繭は着替えずに椅子に座っていた。ギリギリまだ寝ていなかったので、急いで今日買ったパジャマを着せる、上はどうにか僕が着せる事が出来たが、下は流石に僕が着せるのは無理だったので。どうにか立ち上がらせ自分で着てもらった。そのまま手を引き布団に寝かせる。その時点で繭は寝息を立てていた。僕ももう限界だったので横の布団に潜り込み目を瞑る。僕は何も考えることも無く、ただ笑顔で眠りについた。

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