3話 一緒に寝るのも悪くない
僕は元いた世界の、日本にいた頃の事を思い出していた。
僕と繭は幼馴染で親同士も仲が良かったので、一緒にいることが多かった。公園で遊んだ事もあるし、お泊まり会をして一緒にお風呂に入ったり同じ布団で寝た事もある。あの頃は楽しかったなと思う事は沢山ある、今も勿論楽しいけど今とは異なる楽しさがあの頃にはあったのだと思う。そんな事を考えていると、
「…い……らい」
と名前を呼ばれる。何かと思い顔を上げると、すぐそこに、顔を動かすと口が触れ合ってしまうのでは無いかという場所に繭の顔があった。僕は動揺して思いっきり顔を後ろに動かす。危うく椅子から落ちかけたが何とか耐えた。
「やっと気づいた。服、借りたから。」
過去の事を思い出していた事に熱中し、繭がお風呂から上がったのに気づかなかったらしい。そこで僕は1度繭の姿を見た。お風呂上がりすぐなのか、少々濡れた髪に赤く染まった頬、それだけで見るのが少し恥ずかしくなってしまう。なので視線を少し下げるとそこには、もっと衝撃的なものがあった。僕の方が服のサイズが大きいとはいえ、どうしても胸の辺りが狭いのか、張って強調されている胸、その間に流れていく汗、どうしても目がいってしまう光景がそこにはあった。僕が胸を見ているのに気づいたのか、繭は赤く染まった頬をもっと赤らめて、
「それは恥ずかしいよ…。勿論下着は着てるよ…?自分のやつ…。」
と言ってきた。そんな事を言われるともっと意識してしまうが、どうにか視線を逸らす。恥ずかしさからか無言の時間か続く。その時間に耐えきれずに僕は
「とりあえずお風呂入ってくる。」
と逃げるようにお風呂へ向かった。
お風呂は、繭が綺麗にしてくれたのか少々雑に置いていたものが整えられていた。さっきまで繭が入ってたと考えるとちょっと変な気持ちになってしまうので考えないようにしていたが、微かに残ったいい匂いや、落ちている長い髪の毛が無理矢理それを意識させる。同年代の女の子が入った後のお風呂に入って冷静にいられる人は居ないんじゃないか?と思う程意識してしまう要素が詰め込まれている。あんな話をした後にお風呂に行ったのは間違いだったと後悔したが、今更どうしようも出来ないので、落ち着かないまま暖かいお風呂を堪能した。
お風呂から上がると、椅子に座った繭が待っていた。
少し暑そうに手で顔の辺りをパタパタと扇いでいる。
「暑いなら半袖貸す?」
そう聞くと、
「別にいい…」
と答えが返ってきた。よく見るとお風呂に入る前と服装が違う物になっている。下は涼しそうな薄いズボンなのに、上は何故か僕が着ても大きいんじゃないかという大きさの服を着ていた。
「なんでそんなに暑そうな格好してるの?」
と思った事をそのまま質問すると、繭少し顔を下に向けて、
「えっと…さっきのじゃちょっと小さかったから、特にあの辺が…」
と恥ずかしそうに答える、最後の方は小さ過ぎて殆ど聞こえなかったが、繭が顔を赤くしている事、大きめの服を着ていることから、僕が胸を見ていたのが原因だと思う。流石に暑そうなので、
「もう変な所見ないから涼しそうなやつ着てきて良いよ。」
と言うと、繭は椅子を「ガタッ」と音を立て勢いよく立ち上がり、
「変な事言わないで!」
と怒ったのと恥ずかしがっているのを混ぜたような口調で言い、僕の服がしまってある部屋に向かっていった。チラリと見えたその顔を真っ赤になっていた。
繭が着替えているうちに、僕も寝巻きに着替え布団を敷く。自分の布団と、一応のために持っていた客人用の布団をできる限り離して敷くが、家が狭いのでどうしても布団同士の距離も近くなってしまう。布団を敷き終わると着替え終わった繭が戻ってきた。その服装は夏に合う涼しそうな物だった。
「布団敷いといたよ。」
と僕が言うと繭は、少し考えた様な仕草をした後離れていた布団をくっ付け、
「これで良し!」
と満足気に言った。
「何してるの?」
と動揺交じりに質問をする僕、折角なるべく布団が遠くなる様に敷いたのに、何故近づけたのか分からなかった。
「布団を動かしたんだよ。」
と見ていたのだから当然わかることを返してきた。
「そうじゃなくて…なんで近づけたの?」
「あんなに布団離れてたら寂しいじゃん。布団はくっつけるものなの!」
と、僕の質問に当たり前だという顔をして答えた繭。
繭が嫌だろうと思い布団を離したが、本人がくっ付けたいならわざわざ拒否する理由も無いので、
「わかったよ。」
と
もう何時でも眠れると言う状態にした後繭にも、もうすぐ寝る準備をする様に伝えた。
「わかった!」
と元気よく返事し、歯を磨きに、洗面台へ向かった。その間に僕は布団に入る。暫くすると繭が戻ってきた。
「もう寝るから電気消して。」
と頼むとちょっとしてから部屋の電気は全て消え、目の前の物も見えない程真っ暗な部屋が出来上がった。
布団に入る音が背後から聞こえる。変に繭を意識しないように背を向け、目を瞑っていたがその分聴覚が敏感になってしまっていた。布団と衣服が擦れる音、呼吸音など普段は気にならない音が何故だか大きく聞こえるような気がした。暫く無心で目を瞑っていると、
「すぅ…すぅ…」と繭の寝息が聞こえてきた。今日一日で色々な事があり疲れていたのだろう。僕からしても、今日は衝撃的な事が多い日だった。いきなり
僕は自分の布団の端まで行く、少しでも繭に近づきたかったのだ。いつもなら恥ずかしさで心臓はドキドキと早く動き、顔は赤くなっている状況だけど、何故か今だけはその顔を見ているだけで落ち着く事が出来る。
「おやすみ。」
と寝ている繭に言い、目を瞑るとすぐに眠気がやってきた。僕が目を瞑る前に、繭が少し微笑んだように見えたが、そんな事を考える前に僕は眠りに落ちた。
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