45話 大晦日と初日の出 【後編】

真っ暗な夜道を2人歩く、響くのは降り積もった雪をサクサクと踏みしめ歩く音だけだ。吐く息は白く、寒さを感じる。神社へ向かうその道のりをゆっくりと進み、1時間弱程の時間をかけたどり着いた。真夜中の神社は少し不気味で、不思議と気温が下がったように感じる。もうすぐ日付、いや年が変わる。神社の近くのベンチに腰を掛け、はぁっと息を吐く。少し上を向くと、闇夜にいくつかの星が輝いていた。


「もうすぐ、年が明けるね。」

「そうだね。そんな特別な日を雷と迎えられて嬉しいな。」


横に座る繭にそんなことを言われドキッとする。


「僕も繭と居れて嬉しいよ。」


恥ずかしさを抑えつつ言葉を返し、また沈黙が訪れる。でもそれは不快ではなく、むしろお互いが静かに新年を迎えたいと思う気持ちを共有できている様で嬉しかった。宙を見上げるともうすぐ月が天頂へと達しそうだった。この世界では大晦日の一日だけ月が天頂で暗く輝く。いつもとは違う恐ろしくもかっこよく美しい月を見て先祖の人はその日を年の変わり目と定めたらしい。徐々に黄金の輝きに陰りが刺してゆく。降る雪の白と月の黒、その相対する色彩は幻想的で奇跡的な光景を生み出す。綺麗だけど少し恐ろしくて、闇に紛れて涙が出そうで、だけど降る雪は心にも降り積もり不思議と満たされてゆく、そんな不思議な感じがした。それは繭も同じようで涙を堪えているような、満足をして微笑んでいるようなそんな不思議な表情をしていた。

数分、そんなままで時が過ぎる。月はさらに黒く濁り、金色に輝く部分はあと1割程度しかない。雪は先程から変わらず優しく降り続けている、座っているベンチには屋根が着いていたので頭や肩には積もることは無かった。もうすぐ年が変わる、その事実を前に僕の心臓は子どもの様にドキドキと拍動していた。ベンチそっと置かれた繭の手を上から包み込むように添える。繭の肩がビクッと震えたあと、安心したようにこっちを向いてはにかむ。それに安心感を抱きつつ、僕達は新年を迎えた。


「ぱっぴーにゅーいやーだね、雷。」

「うん。ハッピーニューイヤーだね。繭。」


手を重ねながら優しく言葉を交わす。その言葉は闇夜に吸い込まれ消えていった。だけど僕の心の中で何度も何度も反響して。そして何故か涙が出てきた。


「どうしたの?雷」


慌てた様子で繭が顔を覗き見る。可愛い顔が寸前まで迫る、けどそんなことも気にならないぐらい僕は声を出して泣いた。不思議と湧き上がる孤独感。今まで我慢してきた辛いことや嬉しいこと、感情の全てが涙となって夜空に溢れた。いつしか繭に優しく抱き寄せられていた僕は繭の胸に顔を押し付けるようにして自分の涙を感じつつ何度も泣いた。

数十分後、涙が枯れるまで泣いたあと、僕は顔を上げ泣き腫らして真っ赤になった目で繭を見た。その顔は優しくて儚くて、そんな顔を僕に向けながら繭は優しく僕の頭を撫でながら言った。


「雷も寂しかったんだね。これからは我慢しないで私に言ってね。元気になれるまでずっと一緒に居てあげるから。」

「うん、ありがとう。」


恥ずかしさを感じつつ、月を見る。先程まで暗く陰っていた月はそれが嘘だったかのように黄金に煌めいていた。


#

初日の出が昇るまであとどのくらいなんだろう。なんて考えながら目を瞑る。眠気の限界が近いのか、瞼を開けているのが少し難しくなってきた。繭もうつらうつらと今にも夢に落ちそうな感じで、ちょっと可愛い。月は45度位まで傾いていたので、あと1時間くらいで日は昇るだろう、と自分の中で結論を出し瞑っていた目を開く。まだまだ辺りは暗いが少しづつ橙色の光が地平線から出てきていた。隣で寝ている繭の肩を揺らし起こしてから、もうすぐ昇ってくるであろう太陽のあるその方向を見つめる。いつしか雪は止み、視界に入るのは際限のない黒と光の橙色。グラデーションのようになっている地点はもうすぐ訪れる始まりと去っていった終わりを表しているようで寂しさと共に希望を感じる。

そして30分後、遂に日は昇った。幻想的なその光景、少しの雲を橙に染めつつ、空というパレットに綺麗なグラデーションを染め上げる。世界で1番大きな芸術作品はこの世のものとは思えない美しさ、儚さを孕みこの世にいる幸せを視覚で伝える。希望の光に身を焼かれつつ、ベンチを立って少し前の柵が立ってる所まで行く。着いてきた繭を横目に一言、小さく呟いた。


「今年も繭と一緒にいれますように。」


誰にも聞かれていないその願いは優しく吹いた風に乗ってどこかへ消えてゆく、虹色の旋律を奏でながら飛んでゆく願いはいつしか叶うと信じて、僕達は神社を後にした。

家に着く頃には眠気は限界を超えていて、布団も敷かずに椅子にもたれかかったり、床に寝そべって寝た。初夢は僕と繭がこれからも共に人生を送る。そんな夢だった。

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