44話 大晦日と初日の出 【中編 2】
訳のわからないまま僕は繭に手を引かれ歩き出す。何処に向かうのだろう、とか何をしに行くのだろうとかよりさっきの発言の真意を知りたい。なんであのタイミングであの発言をしたのか、もちろん僕が考えても分からないわけで本人に聞いてみることにした。
「ねぇ…どうゆう事なの?」
「え?何が?」
「デート…の事。」
「それ?気分転換にどうかなって思って。何時までもくよくよ出来ないじゃん?だからさ?」
「わかった。じゃあ行こうか。」
僕には目的地も分からないけれど、繭の引く手はなんだか心強い。
「そういや、どこ行くの?」
「最近できた大きめのショッピングモールあるじゃん?そこ行こ。」
僕は繭の手を優しく離し、そして手のひらを握る。えっ?という戸惑いの声が聞こえたがすぐに繭も握り返し、俯いた。隠しているその顔は照れと恥ずかしさで
か真っ赤に染まっている。可愛いななんて思いつつゆっくりまた歩き出す。
30分ほど歩いて目的地に着く、サイズは比較的大きめで中には30店舗ほどお店が入っているようだ。入口にあるパンフレットを見てみると、洋服屋にカフェ、食事処と多岐にわたるようだ。
「まず何処から行く?」
「お腹すいたから、ご飯食べたいな。」
「わかった。」
そう言って所謂フードコートの様な所へ歩き出す。道中この服可愛いねなんて話しながら歩き、目的地に着いたのは10数分後だった。
フードコートには、南の都市で有名だという食べ物が沢山あった。
「何食べたい?」
「オムライス食べたいな。」
繭がそう言うので、近くのレストランに入る。
「いらっしゃいませー!」
大声で店員さんに迎えられ、席に案内される。向かい合って席に座り、メニューを見ると、オムライスやハンバーグ等、僕達が聞いた事あるものは勿論、聞いたことも無い食べ物もいくつかあった。指を指し、
「なんだと思う?これ。」
と、繭に聞いても首を傾げるだけだった。
何分かメニューを見たあと、繭はオムライス、僕はカレーライスを頼んだ。
注文した食べ物が来たので、ゆっくりと食べ始める。繭が1口欲しいと言うのでカレーライスを1口あげたり逆に僕も1口食べさせてもらったり、楽しい時間を過ごした。
「ご馳走様でした。」
お金を払ってお店をでる。とても美味しかった様で繭も満足顔だ。
「あとは色んなお店みよっか。」
繭に言われ、頷きゆっくり歩き出す。すると今度は繭の方から僕の手を握ってきた。優しくそれを握り返して、繭の方を向く。繭もこちらを見ていて微笑んだ。可愛いなぁなんて思いながら僕も微笑み返し、また前を向く。
何時間滞在していたのだろうか。日はもう沈み、綺麗な星が煌めいている。吐いた息は白くなり、お店の中では感じなかった寒さを感じる。それもそのはず、今日は大晦日だ。ショッピングモールから出てくる人も男女の2人組が多く、寒いね、なんて話しながら初々しく手を繋いでいる。街灯の光が降る雪を淡く照らし、綺麗だ。
「まだ時間ありそうだけど、どうする?」
「いい場所知ってるから、そこ行こ。」
歩き出す繭の横について行く。人通りの少ない道を通り、辺りは僕達だけだった。次第に道は上り坂になってゆき、そして視界が開ける。そこには、白い幻想が舞っていた。降り積もる雪がキラキラと煌めき、辺りを埋め尽くす。なんて表現をしたら良いのか分からないほど僕はその景色に見とれていた。
「どう?綺麗でしょ。」
繭の言葉に返事も出来なかった。言葉が出てこない。頭が真っ白に染められる。無垢な気持ちが心を支配し、ただただその光景を見つめていた。
ふと気付くと目の前の幻想は終わっていた。雪が止んでいたのだ。
「どうだった?」
繭に聞かれる。
「凄かった。」
そう返すと、それは良かったと言わんばかりにドヤ顔をして笑った。
来た道を戻り、もう少しだけ天ノ宮の町を堪能したあと僕達の町に帰る。真っ暗な町はいつもと変わらない静かさを孕み、不思議と落ち着く。まだまだ初日の出は時間がありそうだな、なんて考えながら僕達は神社へと向かった。
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