8話 やっぱり幼馴染のお弁当は凄い
「ねぇ、
緋莉と
「なんですか?」
緋莉は暖かそうな湯船に入って返事をする。敬語は使わなくて良いと言ったけど、やっぱりすぐタメで話すのは難しいらしい。
「私の気持ちが雷に届かないの。」
真面目な声で私は話す。初めて異性に相談事をして緊張していたのかもしれない。
「…もう少し詳しく良いですか?」
緋莉が首を捻って答える。確かに少し分かりにくかったかも知れない。
「私、多分雷の事が気になってるの…恋愛的な意味で。それをどうにか伝えたくて色んな事をしてるんだけど、何をしても伝わらないんだ。」
少し細かく話すと、恥ずかしくなってきた。顔が赤くなってくるのを感じる。緋莉はそんな事を気にせず真面目な声音で質問をしてくる。
「例えばどんな事をしているんですか?」
「ご飯を作ったり、寝る時出来るだけ近付いて見たり、水着の試着見てもらったり湖に行ったり。こんな感じかな。」
質問に答える私の言葉を聞いて緋莉たまに考える素振りをしながら頷いていた。そして口を開く。
「気持ちは…込めてますか?」
恥ずかしいのか、お風呂が熱いのか顔を赤らめながら聞いてくる。気持ちか…1度過去を振り返ってみると、しっかりと気持ちを込めたことは無いかもしれない。伝われ、と言う気持ちを曖昧に伝えようとしていただけかもしれない。
「込めて…無いかもしれない。」
しっかりと、反省をするような声で答える。
「そうですか…。しっかりと、自分が何を伝えたくて心を、気持ちを込めるのが大切だと私は思います。」
確かにその通りだ。その言葉に少し勇気を貰った。
「私、頑張るよ。」
笑顔でそう宣言する。いつかしっかりと自分のこの気持ちを雷に伝える為に。
「頑張ってください。」
緋莉は笑顔でそう言っていた。
#
烏の鳴き声で目を覚ます。僕以外の人はまだ眠っている。皆寝相は結構いい方らしく、昨日寝た位置からあんまり動いていない。4人分の朝ごはんを作るため、音を立てないようにキッチンへ向かった。
料理が出来上がるにつれていい匂いがしてくる。その匂いに釣られてか1人、寝室から出てきた人がいた。
「おはよう、茶眩」
と、眠たそうに目を擦る茶眩に挨拶をする。数秒経ってから。
「お兄さん、おはようございます。」
と返事が返ってきた。
「朝ごはん作ってるんですか。」
と僕の手元を見て言っている。
「そうだよ。もうすぐ出来るからまだ寝てる2人起こして来てくれる?」
返事ついでに1つ頼み事をした。茶眩は
「わかりました。」
と返事をし寝室へ戻って行った。慣れたのかもう緊張している素振りは無い。
朝ごはんを作りつつ、茶眩が残りの2人を起こしてくるのを待つ。料理が完成し、テーブルに並べた所で眠たそうに目を擦る2人を連れた茶眩が戻ってきた。その顔は少し疲れたような表情をしている。
「みんなおはよう」
僕が言うと、みんなバラバラにおはようやらおはようございますと言って、椅子に座った。と言っても椅子は2つしかないので僕と繭は立った状態だ。
「いただきます!」
全員でそう言いそれぞれご飯を食べ始める。茶眩も緋莉も美味しそうに食べてくれて嬉しかった。
ご飯を食べ終わると繭が4人分の珈琲を用意してくれた。
「うぅ…にがい…」
一口飲んで茶眩が言う、ブラックは少し苦かったかな、と思いガムシロップとミルクを渡す。それを見ていた緋莉は、
「茶眩はまだお子様だね。」
と少し意地悪そうに笑っていた。茶眩は少し怒ったような声で。
「なら緋莉はその珈琲一気に飲めるの?」
と言い返す。緋莉は少し困ったような、焦った様な声で言い返していた。
「も、もちろん!一気に飲めるよ!」
そう言ってコップに口を付け一気に飲み干し、噎せた。ゴホゴホと咳をしている。
「やっぱり飲めないじゃん」
と茶眩が言っている。緋莉は喋れるような状態じゃなく、反論できずに悔しそうな目をしていた。
「明日からはガムシロップとミルクを用意するね。」
繭が笑顔で言っている。それがいいだろう。
「ありがとうございます。」
茶眩と復活した緋莉が同時に言う。そんな事を見ていると、もうすぐ仕事に出掛ける時間となった。急いで珈琲を飲み干し、(噎せてないよ!)準備を始める。
急いで準備を終わらし、
「行ってきます。」
と言って玄関を出ようとすると、茶眩に
「ちょっと待ってください。」
と言われる。何かと思い僕が振り返ると、忙しそうに何かを準備する茶眩がいた。
数分して、準備を終わらせた茶眩が玄関へ来る。
「どうしたの?」
と聞くと、
「お兄さんのお仕事を手伝いたくて。」
と返された。手伝ってくれるのは大歓迎なので、喜んで手伝ってもらうことにする。
仕事場に着き仕事を始める、茶眩には雑草抜きを頼んだ。流石若い人、僕よりも早く仕事をやってくれているし疲れている様子もない。腰を痛そうにしてる様子も無いが、ただ僕がおじいちゃんなだけだろうか。
そんな感じで午前の仕事が終わった。茶眩と一緒に休憩所へ向かう。休憩所のベンチへ行くと茶眩は持ってきていた紙袋から小さな箱を取り出す。何だろうとそれを見ている僕に気が付いたのか僕に説明をしてくれた。
「お昼ご飯、お姉さんが用意してくれたんですよ。」
繭が作ってくれたらしい、という事は繭は立った茶眩が僕の手伝いをしようとしたことを知っていたのだろうか。後で聞いてみることにしよう。
「美味しい…!」
横でお弁当を食べている茶眩がぽつりと言葉を発する。その気持ちはとてもよく分かる。繭の作るお弁当は本当に美味しいのだ。最高だ。
その後も茶眩は美味しい美味しいとお弁当を食べ、あっという間にお弁当は空になっていた。僕も急いで食べ、仕事に戻る。
午後の茶眩は午前よりもやる気が出ていたように感じる、お弁当パワーだろうか。どちらかといえば繭パワーかもしれない。午後の仕事はいつもより早く終わらせることが出来た。ありがとう繭のお弁当。
仕事帰り、茶眩と雑談をしながら帰った。雑談と言っても繭と2人で住んでいた時の話だけれど。そんな話をしているとすぐ家に着いた。
「ただいま!」
と二人一緒に言ってから家に入る、夜ご飯はもう出来ているらしくいい香りが家に広がっている。リビングに行くとエプロン姿の緋莉が居た、繭はエプロンを着ていない。
「見てこれ!緋莉ちゃんが作ったんだよ!」
興奮しているような声で繭が言っている。テーブルの上を見ると立派なカツ丼がある、見た目は繭の作るものと変わりなく見える。横を見ると茶眩が涎を垂らしながらまじまじとカツ丼を見つめている。あまりにも食べたそうな顔をしているので、全員で
「いただきます」
と言い、食事を始める。茶眩はずっと美味しいと言い続け、緋莉は自分の作ったご飯が美味しすぎて涙を流しそうになっていた。それにつられて繭も泣きそうになっていた。
そんなカオスな夕食を終え、すぐに寝る準備をした。茶眩が疲れて寝てしまったからだ。それを見て、初めて繭のご飯を食べた時の自分を思い出した。まさに同じ状態だったからだ。繭も同じ事を思ったのだろう、少し微笑んでいる。布団を敷き、そこに茶眩を寝かせると、僕にも疲れが押し寄せてきたのを感じた。明日の用事を伝えて僕も寝ようと、リビングへ向かう。
「繭、明日街に行くから。家具を揃えよう。」
繭は静かに頷いている、と言うより椅子に座ってたまま寝ていた。丁度リビングに来た緋莉に布団に運んで貰い、僕も布団に入る。話そうとしていた、明日の用事は明日伝えようと思いそのまま目を瞑ると、そのまま眠りに落ちてくのを感じ、また何も無い一日を終える。
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