第2章
7話 人助けは気持ちが良い
繭がこの世界に来て1ヶ月程たった。この1ヶ月の間で、何日かに1度2人で出掛けることが日常になっていた。
今日も繭と一緒に散歩をしていた。今日は前に来た湖の周りを歩いている。冷たい風が心地よい。そんな事を考えながら2人並んで歩く。歩幅は不思議と同じだった。仕事の楽しかった事、ちょっとした愚痴を聞いてもらいながら歩いていると、
「ぎゃぁぁ━」
と男の悲鳴が聞こえる。
声の聞こえた方向を見てみると、ちょっとした洞穴のような所(山が少し削れて穴になっている。)に人間が2人、何かに追い込まれる形でいた。あれは…オークだろうか。あのみんなが想像出来るような有名なオークさんが人間を2人襲っていた。
「あれ、まずくない?」
繭にそんな事を言われ頷く。距離的にはそう遠く無いのでオークさんに気付かれないように近づく。少し近付くと幾つかの事に気付いた。まず、そこにいる人間は小さな子どもである事。次に、1人がもう1人を守ろうと前に立ち、棍棒のようなものを持っている事。そして、その棍棒のような物を持っている子が女の子な事だ。守られてる子は多分泣いている。
「僕が行くから繭は此処で待ってて。」
そう言って1人で進む。結構近くなってきた所で相手の女の子もこちらに気付いた様だ。視線で助けを求めているので、今から助けると同じく視線で伝える。すると彼女は少しほっとした表情に変わった。
オークさんはまだこちらを見ていない。多分目の前にいる
オークさんの真後ろにやってきた僕は拳を振り上げ思いっきりオークさんの頭を殴った。ちなみにさん付けをしているのは知名度がかなりあるオークさんへの尊敬故だ。オークさんは、
「ブヒッ」
と鳴きこちらへ振り返る。現実でオークの声を聞くと結構気持ち悪かった。尊敬するのやめよ。
僕の目の前にいるオークは怒りからか少し体を震えさせている。もう1発殴ろうと少し体を捻ると、相手からの1発がお腹にきた、初めて味わう苦痛に顔を歪める。だけれど、
「農民を舐めるなぁァァァァァァァ!」
と叫び、お返しの一撃をお腹に入れる。オークは言葉にならないような悲鳴をあげ倒れる、気絶したのだろう。
「大丈夫…?」
奥にいる2人に声をかける。
「大丈夫です…あの、ありがとうございます。」
と感謝を述べられる。
「とりあえず、ここは危ないから移動しよっか。」
そう言って2人を立ち上がらせ、繭のいる所へ向かう。
「お疲れ様。」
繭の所に着くとそんな事を言われた。その後少し意地悪そうな顔をして。
「かっこよかったよ。」
とも言われた。少し照れるが半分くらいは馬鹿にしてると思うので、無視をし話題を変える。
「この2人、どうする?。」
見た感じ怪我は無いが、万が一の事があっては困るし色々と話も聞きたい。
「とりあえず、家に連れてこ。」
「それが1番いいな。」
そんな会話をして、2人を家に連れて行くことにした。
#
「とりあえず、中に入って。」
そう言い2人を家に入れる。リビングの椅子に2人を座らせ、珈琲を渡す。2人は遠慮していたが、そんな事は無いと説得する。
2人が少し落ち着いたところで話を始める。
「えっと…2人はなんであんな状況になったの?」
よく考えたらまだ名前聞いてないな、と考えながらそんなことを聞く。
「あっ…すみません。まだ名乗ってませんでした。
私は
思っている事を察したのか、自己紹介をし、お礼を述べ頭をぺこりと下げている。横の茶眩さんも小声で「ありがとうございます。」
と言い、小さく頭を下げていた。
「それで原因なんですけど、私たち東の都市に住んでいたんですよ。それで東の都市は貧困街?のような所が最近多くて、私と茶眩もそこに住んでいたんです。」
相槌を打ちながら聞く、どうやら結構重い話なのかもしれない。
「それで…住んでる場所が場所で…家庭の環境とかも結構悪かったんです。たまに殴られたりして、それで茶眩と一緒に住みやすいって話をよく聞く北の都市に逃げてきたんですよ、その途中でオークにあって、それを助けてもらった訳です。」
今の話で大体は理解出来た。横を見ると繭も同じように頷いているので多分理解出来ているのだろう。
「そうだったのか…。」
こう言う話はなんで返せばいいのかとても困る、下手な事を言って傷をつけたくないからだ。僕がどうやって言葉を繋げば良いか困っていると、
「なら…私たちの家に住む?」
と繭が言っている。その横顔は本気だった。
「いやっ…そんな、大丈夫ですよ、これ以上迷惑はかけられません。」
胸の前で手をブンブン振りながら断っている緋莉さん。そういや年齢も聞いてなかった、見た目的に同年代か歳上な感じがする。(これは余計な情報だが、胸は控えめだった。)
繭の案には特に不満も無いので、
「全然大丈夫だよ、困ってる人は助けたいから。」
そう付け加える。繭も頷いていた。僕達が本気でそう思っているのが伝わったのか、
「じゃあ…とりあえず1日だけ宜しくお願いします。」
と頭を下げられたので、
「こちらこそ宜しく。」
そう言って僕も頭を下げた。
#
夕食の時間になり、4人でテーブルを囲む。ちょっと狭いが、問題は無かった。ちなみに今日の夜ご飯は鍋だ。
「とりあえず改めて1人ずつ自己紹介しよっか。」
そんな繭の言葉から4人の自己紹介は始まる。最初は僕だ。
「
異世界に転生してきた事を隠し、簡単な自己紹介をした。次に繭、
「
繭も転生の事は隠し、しっかりとした自己紹介をしている。次に立ち上がったのは緋莉さんだ。
「
簡易的な自己紹介をして、席に着く緋莉、大人びた印象があったが年下らしい。最後に茶眩さんが立ち上がる。
「えっと…
どうやら茶眩君らしい。見た目も性別を聞かないと分からないほどだ。だけど少し暗い印象がある。
「すみません、茶眩、結構人見知りで、緊張してるみたいです。」
恐らく人見知り以外も理由はあるが、細かく踏み込むのは良くないのでやめておく。
「私達には敬語とかいらないからね!気軽に繭お姉ちゃんって呼んでいいよ!」
繭はそんな事を言っている。確かに一緒に住むならそういう隔たりは無くした方が良いだろう。
「わかりました!」
緋莉の方も元気に頷いていた。これから楽しくなりそうだ。
食事を終えお風呂の時間になった。家のお風呂は大きめだから2人位なら平気に入れる。最初を繭緋莉に譲り、僕は茶眩とリビングで椅子に座りながら色々な話をしていた。色々と話してるうちに、茶眩の緊張も解けて来たのか、たまに笑顔を見せるようになった。お風呂からは、「やめてっ。」やら「キャッ。」やら色々と聞こえてくる。元気なのは良いと思うよ。うん。
暫くたって、繭と緋莉がお風呂から出てくる。両方ちょっと疲れた顔をしていた。
「じゃあ、僕達も入ろっか。」
茶眩にそう言い、風呂場へ向かう。
茶眩のお願いで先にお風呂に入る、茶眩は今服を脱いでいるのか、たまに衣服が擦れる音がする。
「ガチャッ」
と音がして、茶眩がお風呂に入ってきた。何故か体をタオルで隠している。正直茶眩の体は凄い。白く綺麗な肌にすらっとした体型、本当に男子か疑うレベルだ。
すると、少し見すぎたのか、
「あの…お兄さん…恥ずかしいです…。」
と顔を少し赤くした茶眩に言われた。
「ごめん…。」
と素直に謝り、視線を逸らす。久しぶりに誰かと入ったお風呂は楽しかった。色々と巫山戯たり話したり出来て良かったと思う。
お風呂から上がると、寝室には布団が2枚敷いてあった。それを見て、
「寝る時どうしよう。」
と繭に聞く、繭は最初っから決まってたように、
「2人ずつ寝るよ。勿論男女で分けるからね。」
と言われる。まぁそれくらいしか方法は無いだろう。
そろそろ寝ようか、と考えていた所で緋莉と茶眩が同時に大きな欠伸をする。多分心身共に疲れているのだろう。僕はそれを見て、
「そろそろ寝よっか。」
と言い、寝室へ向かった。
茶眩と2人で布団に入る。元々布団が大きい所為か狭くは無かった。
「じゃあおやすみ〜。」
繭がそう言って電気を消す。部屋が真っ暗になり、僕は目を瞑る。そうして僕の一日はまた終わりを告げた。人助けをした所為か今日は気持ち良く寝れる気がする。
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