34話 晴れた世界に紡ぐ、愛と哀【The next day story】

 雪が帰った次の日、世界は雲一つない天気となった。あんなに降り積もった雪は一晩で溶け、地上には若葉が芽吹いていた。繭はまだ悲しみが癒えてないのか表情は暗く、今にも泣きだしてしまいそうだった。そんな繭を連れ、僕たちはカフェ天使へと来ていた。


 「昨日は大変だったね。そして申し訳ない。私が余計な話をしなければ…」

 「そんな、天使さんは悪くないですよ。」

 「繭ちゃんの様子はどうだい?」

 「まだ癒えてないみたいです」

 「そうか…」


 そういって天使さんはカウンターへ戻り、別の客の対応をする。僕は注文していたカフェラテを一口飲む。そして繭に一言、こう問いかける。


 「久しぶりに、茶眩と緋莉に会いに行かないか?」


 繭はそれを聞き、一度迷ったような表情になりその後、ゆっくりうなずく。それを見た僕は天使さんを呼び、お会計を済ませ二人で店を出る。


 「じゃあ行こうか。」


 いまだ表情の晴れない繭の手を握り、歩き出す。

 歩くこと数分、僕たちは都立天ノ宮教育学校についた。今日は学校が休みなのを知っていた(ヤマトさん情報)ので、校門で校長先生を呼んでもらい、来た校長先生により校長室へ連れられる。


 「それで、今日はどのような御用で?」

 「茶眩と緋莉に会いに来たんです。今って大丈夫ですか?」

 「もちろんだよ。今呼んでくるからお茶でも飲んで待っていてくれ。」

 「はい。ありがとうございます。」


  校長が部屋を出たのを見てから、僕は出されたお茶を一口啜る。温かくて、寒さだけではなく心まで癒えてゆく。


 「繭も飲みなよ、おいしいよ、このお茶。」


 そういわれ、繭はティーカップに口をつけ、お茶を飲む。そして


 「おいしい…」


 

と一言こぼした。

 その後数分してから、校長室の扉が開き茶眩と緋莉が入ってきた。そして僕たちの顔を見た瞬間、二人に抱き着かれた。


 「お久しぶりです!また会えるのをずっと待ってました」

 「僕も二人にまた会えてうれしいよ」


 そう会話を交わし、繭のほうを見る。二人に会えた嬉しさからか少し表情は優しいものとなっていた。それでも繭の表情がいつもより暗いことに気付いたのか、緋莉が僕に問いかける。


 「どうして、おねぇは暗い顔をしてるの?」


なので僕は雪と過ごした数日について、簡易に説明をした。

 話を聞いた緋莉は、真剣な顔になり繭に向き合うと一言、言葉を発する。


 「思いっていうのは必ず伝わるんです。感謝だって、悲しみだって必ず。だからそんな顔しないでください、おねぇの思いは雪ちゃんに必ず伝わるから。おねぇが会いたいなら、必ずまた会えるから!」

 「…緋莉ちゃん…ありがとう」


 緋莉の言葉を聞いた繭は、そう言い一粒の涙を流した。

 思いは必ず伝わる、その言葉を聞くともう一度、必ず雪に会えると確信することができた。だって僕の、いや僕たちの雪に会いたいと思う気持ちは、何よりも強く、温かく、愛と哀に満ちているのだから。そしてもう一度強く願ったその瞬間、辺りが白い光に包まれた。そしてその中心にいるのは紛れもない雪本人だった。


 「昨日ぶりですね、お父さん、お母さん。


 雪がそういうと、繭はすぐに雪の元へと走り、抱きしめた。


 「甘えん坊なお母さんですね。」


 そういいつつも雪は微笑みながら、自身に抱き着きながら泣く繭の頭を優しくなでている。


 「でもお母さん、一つだけ悲しいお話があります。」

 「…何?」

 「私はもう皆さんに会うことはできません。お話しすることもです。」

 「そんな…」

 「そんな悲しそうな顔しないでくださいよ…私だって我慢してるんです…。」


 そういって涙を流す雪。感情が昂っているからなのか辺りは少し冷気に包まれている。

 「でもお母さん、私はお母さんを愛しています。お母さんが私に会いたいって思うのと同じくらい私もお母さんに会いたかったんです。」

 「うん…」

 「もう時間みたいです。皆さん今までありがとうございました。大好きです‼」


 満点の笑顔でそう言い残し、雪は消えてしまった。これが本当のお別れだ。そう思うと、僕の目からも涙が溢れてくる。だけど最後、本当の最期を笑顔で、全員幸せで終わることができて僕は本当に良かったと思う。最後に紡がれたのは別れを悲しみの哀と、僕らが雪を、雪が僕らを愛する愛、二つの、異なっているけど少し似ている哀と愛の言葉だった。

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