35話 それでもまだ、冬は終わらない 【雷編】

 雪が帰ってから一週間が経った。地面には若葉が芽吹いているが、まだ肌寒く、冬といってもいいだろう。

 僕は今から、もうすぐ来る春の仕事の準備をしなければいけない。繭は今家で家事をしている。仕事の準備のために家を出ると冷たい風が肌を撫でる。普段より一段と今日は寒く、体を震えさせながら仕事場へ向かう。

 数分歩き、仕事場につくと、呼んでいた音羽さんが待っていた。


 「おはよう、雷君」

 「おはよううございます、音羽さん。今日はありがとうございます。」


 そう会話を交わし、やるべきことを始める。とりあえずは仕事道具の整備だ、錆や汚れを取らなければいけない。これはなかなか大変で、一人では半日程度かかる、が音羽さんが手伝ってくれるおかげで、半分程度の時間で終わりそうだ。


 予想より早く、2時間程度で終わった。これも音羽さんのおかげだ。

 道具の整備が終わった後は、仕事に必要な道具の買い出しだ。(主に種や肥料)

 なので今僕は天ノ宮へと来ている。ここに来るたび左右の店をキョロキョロ見る癖は治らなく、現に今も辺りを見回している。見ているだけでかなり楽しい気分になり、ここに来て良かったと思える。さて、本題の種や肥料などが売ってる店を探すことにしよう、と思い歩き出すと、すぐにその店は見つかった。その店は、ホームセンター白宮しろみや。お店はなかなか広く、園芸関連のほかにも生活用品や木材等の資材、家具までもが販売されているようだった。 

 僕は必要なものだけを素早く買い、店を出て馬車乗り場へ向かう、太陽はすでに沈みかけていて、寒空にきれいなグラデ―ションが出来上がっている。きれいだな、と思いつつもさみしさを感じる。それは、今一人でこの景色を見ているからだとすぐわかった。繭や雪、緋莉に茶眩、もちろん音羽さんに詩歌さん、皆と見ることができていれば、こんな気持ちにならないんだろうと思う。そんなことを思っていると自宅についていた。ガチャリと玄関を開けると繭が出迎えてくれる。


 「おかえり!」

 「ただいま」


 そういって僕は持っていた荷物をテーブルに置く。


 「今日の夜ご飯は?」

 「雷の大好きなハンバーグだよ」 

 「ほんと?うれしいな」


 手を洗い、食卓に並べられたハンバーグを食べ始める。相変わらず繭の作る料理はおいしい。お腹がすいていたのもあって、すぐに食べ終える。


 「ごちそうさまでした、美味しかったよ」

 「ご馳走様、ありがとう、雷」

 「それじゃ僕、先にお風呂入ってくるね。」


 と、言い僕はお風呂に行く。

 湯船に入り、一日の疲れを洗い流す。温かいお湯に包まれ気持ちがよい。その後、パパっと頭と体を洗い、僕は浴室を出た。すれ違うように繭が浴室に向かったので、それを見てから、僕は椅子に座り読みかけの本を読む。

 何分くらい経っただろうか、僕は、「雷」と僕を呼ぶ声によって現実世界に意識を戻した。顔を上げると繭がいた。お風呂上りなのか、きれいな髪の毛はしっとりと濡れ、頬は赤く染まている。


 「一つ相談あるんだけど…」

 「なに?」

 「今度、みんなでお花見しようよ、バイト先の人たちとかも誘ってさ」

 「うん、すごい良いと思うよ、僕もみんなと桜とか見たいしね」

 「だね、楽しみに春を待とうね」

 「そうだね」


 そう、春は楽しみだ。季節は廻り、そして繰り返す。春はそんな季節の始まりであって、終わりである。しかし、まだ僕たちの春は訪れない。冬が終わり、季節が巡っても、それでも僕たちの冬は終わらない。春、青春が僕たちに訪れるまで。


 

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