33話 雪降る世界、震える少女 4
「キミ達は空中都市というものを聞いた事があるかい?」
聞いたこともない単語を言われ僕は首を傾げる。
「何ですか?空中都市って。」
そういうと天使さんが答える
「天空都市は人類に住む場所を奪われた異種族が住んでいるとされているところだ。例えばオーク。君たちは見たことがあるかい?」
オーク、一度見たその体が脳に浮かび上がる。茶眩と緋莉を襲っていたあのオークの姿が。
「ありますね。1度だけ。北の都市の端で。」
「そうか、それならば彼らが作った自治組織のある場所、と思ってくれればいい。」
そこで一度天使さんは言葉を途切れせ、珈琲を一口啜る。そしてまたゆっくり話し始める。
「天空都市には一つの言い伝えがある。それが雪の精霊についてのことだ。精霊には色々な種類がいるんだ。春夏秋冬を操る者や天候を操る者…。その中でも特異なのがさっき言った雪の精霊だ。」
そこまで聞き、僕は一度雪を見る。雪は話が難しいのかきょとんとした顔をしていた。
「この世界に伝わるこんな言葉がある。゛雪の精霊が落つる時、世界は銀の世界になるだろう゛この銀の世界というのは、一面の銀世界。つまり降り積もる雪を表している。実際に5年周期で何日も雪が降り続けることがある。ここまで聞けば少しは何かに気付くだろう?」
「二日前から降り続けている雪のことですね?」
「そうだ。前にこうなったのは5年前のはずだから間違えないよ。そして私が言った噂についてなんだが、その雪の精霊がこの北の都市に居るらしい。」
天使さんがそう話す。ふいに雪のほうを見てみると心なしか少し苦しんでいるよう見えた。
「ところで、その雪はどうすればやむんです?」
「落ちてくる精霊は、まだ幼い子供の精霊で、自らの力を安定させるために母親が修行ということでこの土地に落としている、という話もある。ということは落ちてきた精霊が自らの力をコントロールできるようになるまで雪は止まない、と考えるのが一番だね。」
そこまで天使さんが話をすると、隣に座っている雪が頭を抱えて苦しんでいる事に気が付いた。慌てた様子で、繭が雪を抱きかかえる。
「雪ちゃん!大丈夫⁉」
「私、思い出せそうなんです…」
苦しみながらも言葉を紡ぐ雪。それを繭は涙を流し心配そうに抱きかかえている。
「思い出すって何を…?」
「お父さんとお母さんに…会う前の…こと———」
そこまで言うと雪の体に異変が起きる。苦しそうに叫ぶ雪の髪の毛は雪を連想させる白銀へと変わり、彼女を中心に凍えるほどの冷気が漂っている。
そして雪は言葉を発した。
「お父さん、お母さん、私すべてを思いだしました」
と。雪の声はさっきまでのあの雪とは異なり、吹雪のように冷たく感じるものだった。その声を聴いて繭は雪に尋ねる
「雪ちゃんは、これからどうなるの…?」
「私は天空都市で待っている家族のもとに帰らなければいけない。短い間だったがお父さんとお母さんには本当に感謝しているよ。ありがとう私を家族として受け入れてくれて。…またいつか…会いたいな。」
「待って――—」
繭の言葉が届く前に雪はここから去って行ってしまった。その去り際、雪が一粒の涙を流しているのを僕は見逃さなかった。またいつか会えるといいな。そんな雪の願いが叶うといいなと思いつつ外を見ると、降っていた雪はもう止み、一閃の光が雲の隙間から僕らを照らしていた。
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