第6話 ドゴラが来た

第6話 ドゴラが来た



 ドゴラに襲われた悪ガキどもの冥福を祈りつつ俺は森に進む。


「なかなかいい手ごたえだったね」


《ナイスドゴラですよー》


 いやそっちじゃないんだが。

 と思っていたらドゴラがやってきた。


『なーむおぉぉぉぉぉぉ』

《あははですよー。さすがドゴラですよー》


 びっくりした、意志疎通ができるらしい。

 聞き耳を立てていると最近食事が悪くなったとドゴラが愚痴をこぼしていて、それをしーぽんが聞いている構図らしい。

 あと悪ガキどもは村の猫にいたずらを仕掛ける傾向にあり、猫たちの攻撃対象になっているようだ。

 そこで問題になるのが村長宅の犬。

 さすが犬は主人に忠実だ。連中の側に非があると分かっていても従うらしい。


《分かったですよー、このわちしが説教してやるですよー》


「それでどうにかなるの?」


《もちろんですよー、動物たちはわちしたち妖精には従うですよー。わちしたちの力なくして動物たちの安寧はないですよー》


 うん、どういうことかわからんが頑張れ。


◇・◇・◇・◇


 さて、森だ。

 森の入り口ではなく結構森。


《この先でわちしとリウ太は出会ったですよー、運命の出会いだったですよー》

『なーごごろごろごろ』

《分かるですかですよー。さすがドゴラですよー》


 まっ、まあ、こいつらはやらせておこう。


 さて。


 俺は下に向けて手を開く。

 すると足元にあった石が浮き上がって俺の手に収まった。

 魔素の力で物をつかんで動かす技だ。単純にマジックハンドでいいでしょ。


 そしてそれを投げる。


 ぼてっと落ちる。


「まあ、五歳児にしては悪くないよね」


 と思う。

 そして本命だ。


「とう」


 石を投げる。

 俺の手には魔素が絡みついている。

 魔素は投げられた石に絡みつく。

 そしてそのまま石を加速する。

 まるで魔素が砲身であるかのように、石の飛ぶラインを固定し、加速する。

 加速距離は最大で4m。これは今の俺の操魔の制御範囲だ。


 シュパッととんだ石はそのまま飛んでビシッと木の幹にぶつかった。


「うん、よさげな感じ。慣れればもっといけるかな」


 多分大人の全力の投石ぐらいの威力は出てる。

 あとは練習あるのみ。


 拾っては投げ拾っては投げ。

 ちぎってだとかっこいいのだが、まあ、そこはご愛敬。


 そのうちに気が付いたが別に小さな石でなくてもいいんだよね。

 野球ボールよりも少し小さいぐらい。

 このぐらいの石だとかなり威力がある。

 スピードもどんどん乗ってきている。


 石で出来た野球ボールが時速何百キロで飛んでいくようなものだ。

 正確な速度? 分からんがなそんなもん。

 ただ野球のマウンドぐらいの距離を取って、投げて、というか打ち出して到達速度は野球選手のそれをずっと上回っている。

 だから200キロは出ていると思う。


 的にされた木の幹がズドーン。ズドーンとへこんでいくほどだ。


『うな~お』

《あっ、獲物がいたですよ》


 視界に動く何か。

 反射的に投げる石。


 あっと思ったときには手遅れだった。石の飛び行く先には一匹の角兎。

 頭に小さいちょこんとした角の二本生えた兎によく似た動物だ。


「よかった、ウサギだったよ」


 同じようなサイズで猫もいるから気を付けないといけない。

 猫は家族。ウサギはお肉。


 ウサギは砲弾の直撃を食らったように弾き飛ばされてそのままご臨終だった。

 でもこれ骨とか粉砕骨折してるぞ。食べられるかな?


 しーぽんが兎を中心にして変な勝利の踊りを踊っているがわからん生き物だ。


『うなな~~おう』


 ドゴラが何か言っている。

 俺には猫語は無理だぞ。通訳GO。


《自分が獲物の場所を教えたのだから獲物が取れた。ゆえに今度は自分に獲物を取ってほしい。といっているですよー》


 あー、まあ、なんか納得いかないが、言わんとすることは分かった。


「何をすればいいのかな?」


『うにゃ~ごろに~』


 ドゴラは俺を一本の太い木の根元につれていき、そんな風にないた。


《ここに穴が開いているです。この奥にいるやつを取ってほしいそうです》


 ふむ、なるほど。いったい何がいるのか。

 棒などを突っ込んでみるが中で穴が曲がっているのでよくわからん。


《分かったですよー、やり方を教えるですよー特別ですよー》


 しーぽんはドゴラにおだてられてその気になったらしい。で俺にやり方を教える。

 魔素をうっすらぱーと放出し、その反射を受け取ってそれを映像として知覚する方法だそうだ。

 できるかそんなもん!


 ♪――叡智が新機能『魔素視』を獲得しました。


 できてしまった。

 あーこれはどういうことだ?


《叡智さんはリウ太をサポートするコンピューターのようなものですよー。リウ太ができることを効率的に実行出来るですよー》


 そうか、叡智さんはそういう方だったのか。まあ、ありがたい存在だな。

 さて、木の穴の形も把握できたし、その奥にいる存在も把握できた。

 それはでっかい芋虫だった。


「ドゴラはこのイモムシが欲しいのか?」


『んんなあぅぅん』


《すっごくほしいと言ってるですよー》


 そうかー。これがなー。

 それは体長20cm近くもある巨大イモムシだ。なんか怪獣映画に出てきそうなやつ。魔素視だと色が見えなくて白黒だからなお昔の映画っぽい。

 でもまあいいや、確かに兎を見つけてもらったし、悪ガキどもとの抗争に巻き込んでしまったからな。


 俺は操魔で魔素を操ってその木の穴に送り込む。そして芋虫を包み込むと外に運び出した。

 なんと三匹も取れた。


「ふー、やり切ったぜ」


『うにゃにゃごにゃー』


《次は火を起こしてほしいって言ってるですよー》


 ふむ。よくわからんが言われたとおりに落っこちていた木の枝に火をつける。

 そしたらドゴラはそこら辺からさらに枝を拾ってきて焚火を大きくし、その中に芋虫を放り込み、爪とか尻尾でつかんだ枝とかで起用に転がしながらこんがりと焼き上げてしまった。


 ・・・・・・・・・・

 そうか、ドゴラは猫だと思っていたがちがくて猫又なんだな。たぶんそうだ。


 俺が真実を見つけてふんふん納得しているとドゴラはこんがりと焼いた三匹のうちの一匹を俺に渡してよこした。


《お礼に一匹くれるそうですよー。是非食べてほしいそうですよー》


 え? マジで? こまったなあ…

 俺別に虫は嫌いじゃないから捕まえるのはいいんだけど、たべるって、これをか?

 現代日本人にはハードルがたかいんじゃないかな?

 まあ、気持ちだけもらって…


《これはよいものをもらったですよー。これはバターワームというですよー。この辺りでは高級食材として知られているですよー。

 栄養価が高く、ミネラルが豊富。脳内環境を整える多価不飽和脂肪酸を含有する高度な健康食材でもあるです。

 脳の発達のためにも子供は是非食べるべきむしですよー》


「え? マジで? ギャグじゃないの?」


 そう言いたい俺の気持ちは分かってもらえると思う。

 だがギャグではなかったのだ。マジ、大マジ。

 ドゴラは俺の手の上に一匹のバターワームを残して悠々と村に引き上げていった。

 さて、これをどうするか。


 できれば知らん顔をしたいのだがそれではドゴラの顔をつぶす。そしてドゴラは村の大ボスだ。仕方ないのか? ううむ。あっ、わかった。

 これだな。誰かがミサイルを飛ばして世界が終わってほしいとか思う瞬間って。


 そこまでいやなのか? と思うかもしれないがいやなんだよ。


 プロロロロロロロロロロッ


 そんな時に聞こえてきたなんとなく懐かしい音。

 まさかエンジン音か?


 立ち上がると一台の車が森の外の道を村に向かって走っていくところだった。


「うわーすごい。自動車だ」


《魔動車ですよー》


 なるほど魔力で動くから魔動車か。うん、わかりやすいな。

 よし、突撃だー。


《芋虫、忘れてるですよー》


 ちっ。




 大変残念なことに芋虫はお母ちゃんに大喜びされた。

 そして俺様LOVEのお母ちゃんは晩御飯に供された芋虫を俺に多めにくれたのだ。

 愛が重い。




 そして一言だけ付け加えておく。芋虫はものすごくおいしかった。


 うおおおーーっ、神よー、この理不尽に対する怒りをどこにぶつけろというのかーーーっ。




「でもすごいわね、ウサギはおろかイモムシまで取るなんて。さすがジュリアーノだわ」


 兎も芋虫もドゴラがとったことになっている。

 だからそれはいい。

 しかしドゴラの本名はジュリアーノであるらしかった。結構すごい。

 ドゴラというのは村の子供達が付けたあだ名だったのだ。


 だが本にんはドゴラが自分の名前だと思っているらしい。(しーぽんの証言)

 ならドゴラでいいだろう。


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