第23話 いっぱいの浪漫と招かれざる感じの客

第23話 いっぱいの浪漫と招かれざる感じの客



「うにゅにゅにゅ…なやむ……

 一体どうするべきなのか……」


 はい、リウです。

 僕は今めちゃくちゃ悩んでいます。

 というのは僕が冒険者ギルドでガメてきた化石のことなんだよね。


 この化石をどうするか。


 化石だから組み立てろ?


 そう、それが化石の正しい使い方だよね。

 古代魔獣の骨格標本とかつくったら、そりゃもう、ロマンが大爆発だよ。


 しーぽんに頼んで神様に連絡とってもらったら骨格構造のデーターを送ってくれたんだ。

 うん、こんなにお手軽に神様と連絡取れるとは思わなかった。

『特別だよ、特別』とは言われたけどね。


《類友というやつですよー》


 ん?


 まっ、まあ、その骨格データーがね、すっこくかっこいいのさ。


 デザインとしては竜脚類の植物食恐竜に似てるかな。大昔の四本足の首の長いでっかいやつ。これに、ちょっと怪獣ぽい感じでパーツを付け足すとこれになる。


 名前はトニトロドラーウコというらしいね。

 雷竜だ。あれ? つまりアパトサウルスか?


 強靭な鱗と強力なブレス。そして長い尾を鞭のように降り回す攻撃を得意とした絶滅竜種なんだってさ。


 ものすごく強かったらしいんだけど、卵から孵ったばかりの時が危険なのはどんな生き物もおんなじでね。


 子育てをするような性質はなかったらしく、そのせいで結局絶滅してしまったんだって。なんて悲しいんだ。


 最大で全長五十メートル。うん。


 他にもいろいろな骨があったんだけど、ちゃんと組み上がりそうなのはこれだけだったんだよね。


《ちゃんとと言ってもですよー、いろいろ足りないところもあるですよー、どうするですよ~?》


「それは問題ないよ、骨格標本なんて本当に完全なものは見つからないんだよ。足りない部分はパーツを自作して補完してやるのさ」


 そういうものです。でもこの雷竜トニトロドラーウコはほぼ80%がそろっている。

 これは完全な骨格標本と言っても過言ではない。

 おまけに骨格のデータまであるんだよ。すごくいいものができる予感がする。


 じゃあなんで悩んでいるかと言うと、ついさっき見つかった化石の特性の所為。


 地面に埋まって長い時間世界の一部となって眠っていたせいで、この化石は魔素との同化が進んで魔素の塊のようになっているんだ。

 つまり僕の【操魔】ととても相性が良いんだよね。


 粉になった部分はまるで魔素そのものを動かすように制御できる。


 この性質を利用すれば自由に形を変える鎧とか武器とか作れちゃうかもしれない。

 単なる思い付きだけど、すごいものになりそうな予感がするよ。

 つまり変身ヒーロー的な何かを実現できるかも。


 これにも僕は著しくロマンを感じるんだ。


 化石は他にもあるじゃないかと言うかもしれないが、ちょっと調べてみた結果、最も強力な魔獣であったこのトニトロドラーウコの化石こそが強度の面でも制御の面でも、最も優れているみたい。


 だから僕は悩む


 化石を骨格標本にするべきか。結晶化した魔素の鎧…自在結晶装甲(仮名)とするべきか。


「ぬおおおおおっ、どうしたらいいんだーーーーーーっ」


《おお、リウ太が吠えているですよー、人生を満喫しているですよー、いいことですよー。これが青春ですよー》


 確かに満喫していると言えるかもしれない。

 そこで僕はしーぽんを見た。

 しーぽんは今ちょっと怪獣映画にはまっている。

 先日ちょっと里帰りした時になんかそれっぽいのを見てきたらしい。


 だけどそれが本当に怪獣映画だったのかどうかちょっと疑問ではある。


 なぜならしーぽんが今やっているごっこ遊びが変だから。

 戦う相手は以前に僕が作ったゲームキャラのフィギュア達だ。


 シュワッとか言いながらフィギュアたちと格闘戦を行っている。そしてしーぽんの着ている着ぐるみは先日着替えたままのSD怪獣王だったりするんだ。

 だから怪獣映画といえなくもない。でもなぜか動きがヒーローなんだよな。

 いったいしーぽんはどんな映画を見たんだろう?

 私気になります。


「でもやっぱり怪獣はかっこいいよね。これにもロマンが詰まっているよ」


《そうですよー。これが浪漫ですよー。つまりこれが正義ですよー》


 はっ!

 まさか!!

 まさかこれが!!

 これが天啓というものかーーーーーーっ!!!


 そうかもしんない。

 しーぽんは、こんなんでも神の使いだ。


 いや、僕も神使いの称号はもってるんだけどね。

 そうかー、これは神様が『let’s go』と言っているんだ。


《気のせいですよー》


「よし、方針が決った」


 さっそく作業だ。


 ごーりごーりごーりごーり…

 その日は一日作業に追われた僕だった。


 ◇・◇・◇・◇


「にゃんかうっしゃい」

「うにゃ?」


 翌日外が賑やかなので目が覚めた。

 最近多いな…


 はて? 昨日作業していてどうしたっけか?

 気がつけば自室のベッドの上。


《オッパイお化け(フウカ)が運んだですよー》


「おお、それはありがたい」


 やっぱり夜はちゃんと寝ないとね。


《それを承知で寝落ちするまで作業するですよー。リウ太はダメダメな子ですよー

 父様と同類ですよー》


 同類と言っても向こうは神様だからな。多分貫徹したぐらいでダメージは入らないだろう。それはうらやましい。


《つまりリウ太が一層ダメダメってことですよー》


 はい、すみません。


「ところで、これは何でしょう?」


 僕は、なぜか僕の布団に入って僕に抱きついているデアネィラちゃんをみた。

 幸せそうな寝顔でよだれを垂らしている。

 じつによい。子供はかくあるべきである。

 しかしなぜデアネィラちゃんがここにいるのか。


《なんか、下が騒がしかったですよー、フウカがやってきてチビ姫をかっぽって行ったですよー

 てい、とか言ってたですよー》


 なるほど下に行くのに邪魔になったから置いていったと。

 これだからフウカねえの評価は微妙になるんだよな…

 しーぽんの呼び方も『オッパイお化け』になっちゃったし。


 腕を組んで唸っているとデアネィラちゃんがもそもそ動いて僕の上に移動してくる。

 困った。こうなると僕も動けない。


 どうしようと思っていたらデアネィラちゃんが目を開けた。


「しっこ」


「ぬおおおーっ、えらいこっちゃーーーー」


 ◇・◇・◇・◇


 呼び出しベルを往年のゲーム機のボタン連打(名人)のようにおしまくり事なきを得ました。

 走ってきてくれたメイドさんありがとう。

 フウカ姉ちゃんにあげようと思っていた感謝も一緒にあなたに差し上げよう。


「それで何があったんですか?」


「はい、王都の方からお客様が見えられたようです」


 王都からではなく『王都の方から』!

 詐欺の上等手口だな。

 いや、王都から来て何の詐欺だって話なんだけどね。


 順当に考えれば、王都に行った竜爺の連絡かな。

 これにはデアネィラちゃんの安寧がかかっているから気になるよね。ちょっと行ってみようか。


 デアネィラちゃんの手を引いて、メイドさんに案内されてトテトテと廊下を進む。

 塔の廊下って丸くって面白いよね。


 じいちゃんのいる部屋に着くと、まずメイドさんが来訪を告げる。

 それに対してじいちゃんが『おう、リウか、入れ入れ』というので『お邪魔しまーす』と元気にドアをくぐった。


 そこにいた人はちょっと僕の想像とは違う感じの人だった。


 おひげを生やした中年の男性で、髪型とかもオールバックでととのっているし、着ている服がとても豪華だ。飾りが多い。パーツが多い。キラキラしている。


「おう、リウ、こいつは俺の弟子の一人でな、宮廷魔術師なんぞやってやがるもの好きさ」


 お名前は『クエル・ブリリアントス』というらしい。

 なんだろう。どこかに違和感。

 はて?


「君がリウ君か。師匠から聞いている。実は師匠が新たに弟子を取って、それが最年少だというので気になっていたのだ。

 わたしは師匠の下で魔法の修業をして、宮廷魔導士にまでなった」


 立派な魔法使いというのが自慢らしいね。

 にしても、じいちゃんは何の先生なんだ?

 弟子の種類がバラエティ豊かすぎる。


「君もさぞかし優秀な子なのだろうね。

 魔法ならわたしも教えてあげられるよ。今どのぐらい使えるんだい?」


「あっ、僕は魔力がないので魔法は使えません」


 そう言った瞬間クエル氏の表情が歪んだ。


「なぜ、魔力なしの無能などを!」


 びきっと空気が凍ったような気がした。


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