第3話 リウ君と魔王誕生
第3話 リウ君と魔王誕生
身長15cmの二頭身キャラ。
マスコットになれるだろう。
しかしこれはいったいなんだ?
「奇怪生物発見」
つんつん。
《失礼ですよー、わちしは精霊なのですよー、偉大なのですよー、敬っていいです?》
なぜ疑問形だ。
しかし慌ててはいけない。コミュニケーションの取れる相手だ。文明人として知性を手放してはいけないのだ。
「なんね?」
しまったーっ、どこに行った知性!
《わちしはさすらいの妖精ですよー。有能な精霊ですよー、神の御許で執事として活躍したですよー》
そう言って精霊は自分のスタイルを強調した。
「うん、それは執事じゃなくて羊な」
《ずんがらがっしゃーん》
擬音を口頭で入れるというのは斬新だ。
《ひ…ひつじ…》
そう、この二頭身キャラが来ているのはもこもこの白い着ぐるみでフードを被るとひつじの口から顔が出る感じになっている。
頭に金色(小さい)のシープホーンが生えていて、赤い(ボタンの)目が付いている。
どう見てもひつじのコスプレをした二頭身キャラだ。
背中に小さな翅が生えているが、これも執事とは関係がない。
にしてもちょっと人気者になれそうなぐらい可愛いな。
俺はそう思うのだがそれはがっくりと膝をついた。
《もう、バトラーとは名乗れないですよー、なんてこったーですよー。私のことは好きに呼ぶがいいのですよー》
なんかいきなりすべてをあきらめたような雰囲気になっているな。
まあ、確かにこれでバトラーとか名乗ったら笑いを取りに来ているとしか思えん。
「あー…じゃあ…『しーぽん』で」
《ズビシャー! ですよ。なんて素敵な名前ですよー。青天の豪雨ですよー。わちしは今日から〝しーぽん〟ですよー》
気に入ったのか。でも晴天に豪雨は降らないぞ。霹靂な。
《よしですよー、仕方がないから友達になってあげてもいいんだからねですよー》
いろいろ混ざってよくわからん。
わからんがしーぽんは背中の翅をパタパタさせてふわりと舞い上がると俺の肩に舞い降りた。
翅は小さな丸いものだったがちゃんと飛べるらしい。
「えーっとしーぽんは、なにをしているの?」
《ふふふっ、人を探しているですよー、世界の未来がかかっているですよー》
「へーそうなんだー」
なんかの遊びかな? まあ、このちかくにいるのならすぐに見つかるだろう。家の村なんか全員確認しても大した手間じゃない。
「どんな人をさがしているの?」
《偉大なるわが神ダイラス・ドラム様の加護を受けた子供ですよー》
「何だ俺のことか」
《ふわわわっ、ジージージー…本当ですよー、運命ですよー》
いや、面倒くさいからやり直してくれ。
◇・◇・◇・◇
しーぽんは神様に仕える由緒正しい妖精で、しーぽんの様な妖精は結構あちこちで活動しているらしい。
その役割は世界をかき回すこと。
この世界には不思議パワーがある。『魔素』と呼ばれる根源的な力である。
それは粒子の様であり、波のようにふるまい、時に質量であり時にエネルギーであるもの。その世界の生命力だ。
この力を司っている神の一柱がしーぽんの上司、ダイラス・ドラム神であるらしい。
つまり俺に加護をくれた神様だ。
なんと神様だったのだ。
《うちの大将は創造神であるのですよー、なので世界が生まれるときにとっても活躍したですよー。でも世界ができてまったりしているうちに忘れられてしまったですよー》
なんじゃそりゃ。といいたい。
彼の神の力はこの魔素を活性化させる方向に働くのだそうな。
そしてもう一人対になって魔素の循環を安定させる神がいる。
そちらの神様はいまだにたくさんの信仰を集めているのだが、ダイラス・ドラム神は既に忘れられ信仰するものもいない。
そして神の力がどれだけ地上に届くかは、この世界でその神がどれだけ信仰されているかに寄るのだそうだ。
つまり現在、世界の生命力である魔素は停滞傾向にある。
《流れない水は腐るですよー、とても困るですよー、そこで御大将は人間に加護を与え、自分の力を使ってもらおうと考えたです》
「なるほどそれでボクがたまたま選ばれたと…」
《いや、必然ですよー、会えばわかるです?》
「?」
《他にも使徒として選ばれた人はいるです。でも今までうまくいったためしがなかったですよー》
「それはなんで?」
《ダイラス・ドラム神の権能〝操魔〟は世界に満ちる
てもそうなると魔力がなくなるです。ゼロになるですよー》
ぐらぐらっとめまいがした。
そうか、そのせいか…
つまり魔素というのは魔力の素でもあるらしいのだ。
生き物は魔素という世界の生命力を取り込んで、自分の中で制御しやすい形、つまり魔力に作り替える。
そして魔法を使ったりするわけだ。
変換する必要がないから俺の場合魔力がゼロになる。
そもそも魔力を必要としない。
そういうことらしい。
だが物は考えようだな。
ない物ねだりをしても仕方がないし、聞けば操魔というのもいろいろできそうな感じである。
「だよね?」
《そのとうりですよー、昔はまだ魔法がなかったから人間はこの操魔で世界を渡っていたですよ~。鳥より高く飛び、指で岩を持てたですよー。
慣れれば自在です?》
最後の疑問形か不安だ。
《しかし会えてよかったですよー、これぞ天の配剤ですよー。これからはわちしが少年のサポートをするですよ~。
少年お名前は?》
「リウだよ、リウ・ソス」
《分かったですよー、よろしくリウ太、ですよー》
俺の名前はリウ太らしい。
♪――大神ダイラス・ドラムの
♪――クラスが魔操士から魔王に進化します。
おいおい、大丈夫なのか魔王なんかになっちゃって…
◇・◇・◇・◇
「お母ちゃん、魔王って知ってる?」
「マオウ? 生薬の」
いや、それとは違う。
「魔の王様? 魔法のなんか偉い人?」
よかった、この世界には人類の敵としての魔王はいないらしい。
「でも魔物っているよね?」
「ああ、テイマーのすごいバージョンかな?」
うーん、たぶん違うな。
今まで気にしなかったがそもそも魔物って何だろう?
聞いてみた。
「魔物というのは魔力を活用できる生き物のことね」
ということでお母ちゃんがいうにはこの世界には魔力がある。
そして魔力を使っていろいろ、例えば身体強化とか、水を操るとか、火を操るとか、そういうことをできる生き物がいて、これが魔物と呼ばれる
別に特別な生き物というわけではない。
ちょっと寒さに強いとか、そういうことでも魔力でなされているのならそれは魔物だ。
どうも普通の人の感覚だと魔素と魔力がごっちゃになっているようだな。
「だから人間も広い意味では魔物なのよ」
あー、いわれてみればそのとおりだ。
この辺りでも魔物は当然に存在する。中でも身近で有名な魔物というとまずスライムが出てくるな。こいつらは各家のトイレに生息している。
結構フリーダムで村を歩き回ったり、田んぼに出張して水草とか害虫とか食べている。
農村にはいなくてはいけない相棒だ。
獲物というのであれば森に角兎とか丸鳥とか色々いる。
彼らもなくてはならない存在だ。お肉として。
他にはドーリーとか言うでっかい鶏みたいなのもいる。
人間が乗れるぐらい大きい。
もちろん騎乗用の動物として可愛がられている。
「リウは魔物とか興味があるんだー、でも森の奥とか行ってはダメよ。アームベアとかハイドバイパーとか危険な魔物もいるから」
見たことはないがいるらしい。
「あと、そうね、タタリとかには絶対に近づかないこと」
タタリか、定番だな。子供のころから悪い子の所にはタタリがやってくるぞ。みたいな使われ方をする。
非常に良くない存在としてとらえられている。
ただ話を聞いてもよく分からない
というわけでこの世界での魔物は野生動物的なポジションであるようだ。
そこら中にいて、危険なものもいるし、役に立つものもいる。野生であれば不必要にちょっかいを出さなければあまり問題にはならない。
ところがタタリというのは問答無用で人間を襲ってくる。
大物とか出たら国から騎士とか、冒険者とかが派遣されてきてみんなで討伐する。
村人はとにかく安全確保を第一に。そんな感じらしい。
ただこんな田舎ではまず出くわすようなことはないだろう。
俺はそんなことを考えていた。
フラグ?
いやいやまさか~。
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