第1話 うううっ、魔法が使えないなんて…
第1話 うううっ、魔法が使えないなんて…
「うううっ、魔法が使えないなんて…」
俺は落ち込んでいた。
それはもう、これ以上ないぐらいに落ち込んでいた。
剣と魔法の世界で魔法が使えないなんて…
すっごく楽しみにしていたのに。というわけだ。
「りーう、大丈夫。落ち込まないで、確かにあなたは魔力が少ないけど、リウが素敵な子なのはお母さん、ちゃんと知っているわ。
神様だってしっているわ。
だからちゃんと加護をくれた方がいるじゃない」
お母ちゃんのやさしさが心にしみるぜ。
俺はムクリと起き上がってお母ちゃんに抱き付いた。
リウ・ソス5歳、初めて挫折を知った春だった。
え? 五歳に見えない?
失礼な、このぷにぷにしたパーフェクトとプリチーボディーが他の何に見えるというのだ。
あ? 中身? 中身はしょうがないよ。俺、転生者だし。
日本で暮らしていた時は30代前半だった。
まあ、お一人様だったので詳しい年は勘弁してくれ。
いきなり記憶が戻ったってわけじゃない。
ずいぶん前から少しずつ前世の光景がよみがえってきて、気が付けば今の俺になっていた。
前世の人生の続きに今の5年間がくっついたような感じだ。
ひょっとしたら俺が魔法を使えないのはそのせいかもしれないな。
そう、この世界は剣と魔法の世界なのだ。
気が付いた時はテンション上がったよ。
『今日はなんでこんなに興奮しているのかしら?』とお母ちゃんが首をひねるほどだった。
だって魔法だぜ。普通はしゃぐだろう?
だがその夢もついについえた。
大きな町とかからやってきた神官の手によって。
いや、あのジジイが悪いわけじゃないのだ。
この世界は魔法というか魔力が文明を支えている。
地球で言えば化石燃料と電気を合わせたような位置に魔力と言う物が居座っているのだ。
つまり魔力の強い人間がえらい人間なのだ。
まあ、歩く燃料タンクだからな。役に立たないはずがない。
なのでこの国では5歳になると子供の魔力判定というのが行われる。
どのぐらいの魔力を持っているのか。
そういうのを調べる(たぶん)魔法道具、神官がいうには(神器)があるのだそうだよ。
でそのランク分けは簡単で超級(超すごい)上級(すごい)中級(普通)下級(だめ)最下級(すごくダメ)の五種類だそうだ。
まじめにやっているのか疑いたくなるが…たぶんやっている本人は大まじめ。
多いのは当然中級と下級で全体の八割を占めている。上級が残り二割。
超級と最下級はめったにいないらしい。
で俺の判定はこの最下級。
魔力がほとんどなくて魔法は使えない。魔道具の使用もかなり困難らしい。
ああ、魔道具というのは魔力で動く生活雑貨みたいなやつだ。
ライターとか懐中電灯みたいなやつがある。
つまり最下級というのは生活雑貨も家電もなしで暮らしていかないといけないということなのだ。これはきつい。
しかも神官のやろう、『ダイラス・ドラム』ですか…聞いたことないですな。おそらくそこらの妖精でしょうとかぬかした。
いや、よしんばそうだったとしても言い方が…え? 意味が分からん?
すまんすまん。これは加護の話だ。
この世界の子供は5歳になると加護を得るということになっている。
加護をくれるのは『神』『大精霊』『
例えばだ。ある子供が剣の守護精霊(ガーディアン)の加護を受けたとする。するとその子は剣の道に進むと才能を発揮するわけだ。つまり才能の方向性だな。
他にも魔法の守護精霊・鍛冶の守護精霊・料理の守護精霊。実に色々いるらしい。そして守護精霊はその才能に合わせたスキルも人間に与えてくれる。
なので大概は守護精霊の導くままに人生を歩む。まあ、大体はだ。
大精霊というのは六代精霊と呼ばれる精霊王のような存在だと考えられる。
【火】【風】【水】【土】【光】【闇】の六属性があると言われていてそれぞれの王様だな。
そして神様はもちろん神様だ。すごいらしい。見たことはない。
加護は上位の存在からもらった加護の方が強力なのだそうな。
まあ、当然だろうね。
そして俺に加護をくれたのは【ダイラス・ドラム】という存在だった。聞いたことがない。
それは神官のジジイも同じようで聞いたことがないからどうでもいい存在だろうと断じやがったわけだ。
失礼なやつである。
まあ、スキルなどもなかったからそうなのかもしれないがね。
今日はそんなことがあったのでひどく落ち込んでいるわけだ。
俺は背中を叩いてくれるお母ちゃんの手を意識する。
安心できる。
お母ちゃんがいるうちはきっと俺を守ってくれるだろう。
だがお母ちゃんもずっと俺にかかりきりというわけにはいかない。
俺に縛り付けたりしては申し訳がない。
どうしたものか…
結局名案が浮かぶこともなく俺はそのまま寝落ちしてしまった。いや、こういうのは泣き寝入りというんだな。
◇・◇・◇・◇
そのせいか夜中に目が覚めた。
この世界の夜は暗い。
不夜城を作り出せるほどの文明がないのだ。たぶん中世よりはまし。近代ぐらいかな。
なので夜は真っ暗。常夜灯などはない。もったいないから。
ここど田舎だし。
なので月のない日は本当に暗いのだ。
目を開いても見えるのは暗闇。
そこに地球の光景が浮かんでは消える。
俺は技術者だった。
まあ、オタクでもあった。
いつか自分の手でかっこいいロボットを作りたい。そんな夢を見て機械工学、ロボット工学などを学んだ。
充実した日々だった。と思う。
まあ、少なくとも嫁さんを後回しにするぐらいには楽しい日々だった。
そうだな。
俺は魔法もスキルもなかった。
だが前世の記憶と知識があるじゃないか。
魔力がなくても動く便利道具なんていくらでもある。
やり様はあるかもしれないな。
何か考えて…
むぎゅっ。
おおう、お母ちゃんが抱き付いてきたぜ。
五歳だから一緒に寝ているんだぜ。
顔に感じる温かさといいにおい。
これは母の象徴。THE。オッパイ。
お母ちゃんは美人でスタイルもいいのだ。
しかも御年23歳。
若いなー。
親父の話は聞いたことがない。聞くと返答に困る様子があるので聞かないことにしている。
そのお母ちゃんにとって俺は抱き枕だ。うん、幸せな役どころである。
女手一つで俺を育ててくれているお母ちゃんのためにもできることを…
スーーーーーーーー…
おっ蛍だ。
部屋の中を光が飛んでいた。
いやー、この世界にも蛍とかいるんだな…こっち来ないかな…
と思っていたら来たよ。きて俺の顔の周辺を…あれ? こいつ蛍じゃないぞ。
というか虫じゃない。
光だけだ。
するってえと…精霊とかかな。ファンタジー世界だからありそうだ。
そいつは俺の周りを飛び回っていたんだが。なんとなく感じるものがあった。
どうも俺のイメージ通りに飛んでいるような感じがするのだ。
よし、試してみるか。
俺はその光の跳ぶ軌道をイメージしてみる。
その光はそのイメージをたどるように飛んで行った。
おほーっ、おもしれー。
まるでドローンを自在に動かしているみたいだぜ。
しかも光のとんで行った辺りはほんのり照らされてちゃんと見える。
じつに面白い。
『ぎゅいーーーーん、きゅうーーん』
なんかすっごく楽しい。
俺は中身大人のつもりなんだけど、普通に暮らしているとみょうに情動が激しいなと感じることがあるんだよね。
こういうときもそう。
知識は大人。心は子供。とかなのかもしれない。
しかし、今日あったあれやこれやがお母ちゃんとこの光の精霊のおかげで癒されたような気がするぜ。
焦っちゃだめだな。気楽に行こう。
ほれ、インメルマンターン! あははははは。
♪――権能・操魔のレベルが1になりました。
♪――条件を満たしました。大神ダイラス・ドラムの加護が発動します。
♪――スキル【影の箱庭世界】を取得しました。
♪――スキル【叡智】を取得しました。
♪――
「ふわっ!」
あばばばばっ、大声を出してしまった。
お母ちゃんは…あっ、大丈夫だ。ねてる。
♪――システムの再起動を行います。
いやちょとまて、なんだそりゃ…ぐう…
俺の意識は一瞬にして落ちた。
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