第17話 一先ず大団円

第17話 一先ず大団円



 いきなり目が覚めた。

 ゆっくり目覚めるとかの感覚もなくいきなりだ。

 パチッという感じで。

 で、目の前には空。果てしない空。


 まばらに雲が流れ、雲の隙間から降り注ぐ光がまるで幾筋もの帯のように地上につき立っている。


 コテンと右を向く。


「草だね」


 どうやら俺は草地に寝転んでいるみたいだ。

 しかしなんで草地に?


 起き上がろうとして違和感。


「そうか、左足がなかった」


 寝転がったまま左足を持ち上げてみたらものの見事に膝から下がなかった。


「だけど痛みはないんだ」

「うーん、ここはあの世かな?」


 記憶をたどればそんなような気がする。


「うん、今度は僕、頑張ったよね」


 けっこう自信を持って言える。本当に頑張った。


「ああ、本当によくやったね」


 僕以外の人の声。左から。

 顔を向けるとなんか兄ちゃんが立っていた。


 はっきり言ってイケメンだ。

 すらりとスマートでイケメンで、でもなんか身だしなみが不器用な感じでちょっとやぼったくてそれがとっつきやすくていい感じ。


 俺はその兄ちゃんにひょいと抱き上げられた。

 視点が高くなって景色が見える。

 素晴らしいところだ。


 緑の草原、波打つ大地。色とりどりの花。

 風は爽やかで水のにおい、草花のにおい、土のにおいが香しい。

 そして果てが見えない。


「ここはあの世かな。んで兄ちゃんが天使かな?」


「おっ、惜しいぞ。ここは神界で、俺は神様だ。

 ダイラス・ドラムって言うんだ」


 おおー、俺に加護をくれた神様じゃないか。

 つまり死んで神様の元に召されたってことか?

 ふーん、本当にそういうことってあるんだ…


 俺はそのまま瀟洒な神殿に連れていかれた。

 白亜の精緻な作りの神殿だった。

 威厳と歴史と理を感じさせる。


 のだが! そこになぜか炬燵が置かれていた。

 神殿のど真ん中に。どーんと。

 シュールだ。


 これって俺寝てるのかもしれないかな。


 夢かしらみたいな気分になった。それも仕方ないだろう。


 俺は炬燵に設置された座椅子の上におろされた。


「まあ、ゆっくりしてくれ」


「あっ、ありがとうございます」


 炬燵の脇には棚が設置してあって、そこにはいろいろなプラモデルが並んでいた。

 俺が夢中になったロボットアニメの主役メカもあった。

 かと思うと戦車のプラモデルもあった。

 クラッシックカーもある。


 つまりこの兄ちゃんはメカ好きのモデラーだ。つまり俺の同類だ。

 俺は兄ちゃんと見つめ合い、手を取り合ってにっこりと笑った。

 同じ趣味を持つ者同士、わかり合うものがあるのだ。


「そういうのは同病相憐れむというのじゃ」


 とそこにさらに人の声。今度は涼やかな女の人の声だ。

 振り向くとそこにはものすごい美少女が立っていた。


 兄ちゃんは見事な黒髪だったが、少女は見事な金髪で、奇麗なショートボブに整えられていた。頭には大きな帽子。和服のような雰囲気を持ったブラウスにプリーツスカート。

 腰には交差するようにベルトが二本かけられていて、一方には大きなメダル。もう一方には剣がぶら下がっていた。


「さあ、お茶が入ったぞ飲むがいいのじゃ」


 おまけにのじゃ姫だ。


『はーいお煎餅ですよー』


「あっ、しーぽんだ」


『ハイですよー、パパとママのお手伝いですよー』


 そう言うとしーぽんは炬燵の上にお茶請けの入った菓子鉢を下ろす。そして兄ちゃんの方に走っていって炬燵の上に正座した。


『えへへー、パパですよー、神様ですよー』


 うーん、どうやら本当にダイラス・ドラム神のようだ。


『ママですよー』


 と今度は女の人を紹介してくれる。


「初めましてじゃ、坊や、わらわはエスタル・アーゼというのじゃ」


「ぶっ」


 至高神じゃないか。

 エスタル・アーゼ神と言うのは今の世界で神々の王。と呼ばれる神の頂点だ。


「いやいや、それは違うのじゃ」


 と自己紹介によると、ダイラス・ドラム神とエスタル・アーゼ神は夫婦神であるらしい。

 ダイラス・ドラム神が創造を司り、その後エスタル・アーゼ神が世界を維持、管理し、最後にやはりダイラス・ドラム神が世界を破壊して元に戻す。

 そういう円環状の理の神様なんだってさ。


 同時にこの世界の神々や、精霊たちの生みの親。

 うーん、創造主。みたいな感じか?


「といっても妾たちがほかの神々より飛び抜けて優れているというわけではないんじゃよ。

 まあ、上司のようなものじゃな」


 ここら辺はよくわからないがきっとすっごく長生きする存在なのだ。人間の感覚で語ってはいけないのだろう。

 そのせいかどうか、なんとなく親しみやすい感じのする神様だったりする。


 ダイラス・ドラム神はどこかあか抜けない、なんか近所の人のよさそうな兄ちゃんみたいだし、女神はその兄ちゃんを『ダーリン』と呼んで追いかけまわしている少女といった感じだ。

 まあ、ラブラブではある。

 リア充爆ぜろの世界だ。


「うむうむ、なかなか物の分かった子供じゃの。よい子じゃ。

 しかし今回は迷惑をかけたの」


「うん、全くだね、僕もこれも君にああいうのを押し付ける気はなかったんだけど…」


「うむ、ああいうのの対処のために勇者だの聖女だのの祝福をある程度地上に、才能のありそうなやつに与えておるんじゃが…

 あんまり役に立っておらんのじゃ」


「まあ、仕方がないというのはあるんだよね、資質があっても適性があってもやっぱり人間。育てるのも人間。

 どんな風に育つかはやっぱり人任せだからね」


「でもじゃ、今回はいい感じのやつがおらなんだ。

 坊やがあれを倒してくれなんだらどこまで被害が広がったか想像もつかんわ」


「神官たちもちょっと気が緩んできていてアーゼたちの力をちゃんと受け止められないのが増えてきているし、神託も思うように伝わらなくなっているしね」


「じゃから坊やの存在はありがたかったのじゃ。

 世界の魔力が魔素が正しく循環すると世界が健康になるだけではなく世界と神界の距離も少し近くなる。現状では勇者なんぞより坊やの方が貴重な存在なのじゃ」


 神様のマシンガントーク。

 いろいろ溜まっているらしい。


「しかし、僕も死んでしまいましたし、やり直しですね」


 この世界がどうなるのか。お母ちゃんたちが生きている間ぐらいは平和であってほしいけど。


 そんなこと思っていたら神様二人は顔を見合わせて。


「問題ない」

「坊やはまだ死んでおらんよ」


 え? そうなの?


「あの、マシス・ノバという老人は『大医王』の称号クラスコードを持ったなかなかにすごい年寄りじゃよ。

 あれがおれば頭や心臓を破壊されない限りまず死んだりはしないじゃろ。

 部位欠損は無理じゃが助かることは間違いない」


 部位欠損か…

 俺は左足を見る。見事にない。

 食いちぎられてしまった。


 いや、助かっただけでもありがたいと思うべきか。

 なんといってもお母ちゃんにまた会えるからな。


 いきなりダイラス・ドラム神に頭をわしゃわしゃとなでられた。


「心配ないよ、それを治す方法を教えるためにここに呼んだんだ。操魔を使えば部位欠損ぐらい治せる治せる」


「え? ほんと?」


「勿論。魔素というのは万物の根源なのだよ、だから万素とかも言うんだ。手だろうが脚だろうが内臓だろうか万素で組み立てられる。

 万素に肉体のふりをしてもらえばいいのさ、正確に精巧に肉体のイミテーションをくみ上げれば時間経過で普通に肉体になっちゃうよ」


「おおー、それはすごい」


「まあ普通のやつには難しいんじゃがな、坊やは生物の設計図があることを知っておるじゃろ?」


「あとは叡智のスキルが役に立つよ、あれは超高性能のコンピューターみたいなものだから。

 しーぽんもそれと連動させておいたからしっかりサポートしてくれるよ。

 ぼくたちからのお詫びだ」


 ほうほう、スーパーコンピューターと。

 スキルってどうなっているのかね、一体どこにそんなものが?


「いやー。君の脳みその未使用部分をちょっと魔素の高次結晶体に作り替えてねそこにプログラムを書き込んであるんだよ。

 脳のわずか3%を魔素結晶体にするだけでなんと記憶容量が6ペタバイト、しかも魔力を情報伝達に使うからタイムラグ無し。

 もう、スパコンどころの話じゃないよね。超が付く補助脳だよ」


「うにゃーーーーっ」


 人の脳みそに何してくれてんのーーーっ。


『いい反応だ』『うん、いい反応じゃの』『さすが僕が見込んだだけはある』


 そんなことを言い合う神様ズ。なにを見込んだんだ。

 でもまあ、確かにすごい神様ズではあった。この後みっちり操魔の使い方を教わり、足の再生を手伝ってもらい。ついでに全身の怪我もきれいに治して、しかもいろいろ最適化とかもしてしまった。


 補助脳ってのもマジすごいんだよ。

 人間の脳の容量って1ペタバイト(1000テラバイト)といわれているから普通の脳の6倍だ。

 脳の情報伝達速度に至っては最高で毎秒120mぐらいと意外と遅いのだ。これがタイムラグ無し? 仮に秒速30万キロ(タイムラグ無しを控えめにとらえて)として計算すると、比較するのがバカらしいレベルだ。


 この補助脳が演算処理をしてくれないと確かに難しいのではないかと思われる作業だった。

 そして。


「まあ、タタリのことなんかは勇者なんかに任せなさい。

 ちゃんと手は打っているんだからそれをちゃんと使えるも使えずに被害を出すも人間しだいさ」


「まあ、そうじゃな。

 ほどほどならいい薬じゃ。

 坊やは自分の周りのことだけ考えておればいいじゃろ。

 とはいっても周りがうるさかろうから役に立つように【聖者】の称号をつけておくぞ。

 これは対人間と考えると非常に便利じゃ。

 色々使えるスキルがある。

 それに格も高いからの」


「僕の方からは特に何もないです。ごめんね。

 久しぶりに表れた神使いだったからその段階でいろいろくっつけちゃったから。

 あっ、でも影の箱庭世界は使いやすいようにチューニングしておいたし、こちらも補助脳で色々出きるよ。

 ぼくたちが君に期待しているのは元気に生きて、操魔を使って無事に長生きしてくれることだけだよ。それで世界は少し元気になる」


「さすれば妾たちももう少し地上に干渉できるようになるからの。ましにはなるじゃろう」


「まだ生まれて間もない世界だからね、僕たちとしても元気に育ってほしいんだ」


 俺は神様ズの見送りを受けて地上に帰還した。


◇・◇・◇・◇


 というわけでここからは語り部リウ君の登場だ。

 俺がタタリをぶっ飛ばした後そのままぶっ倒れたのでお母ちゃんは半狂乱だった。

 じつにありがたい話だ。


 でそのお母ちゃんをなだめながら大医王の爺ちゃんが俺を治療、食われた足までは治せなかったものの命の別状がないところまで持ってきてくれてベッドに直行。

 それが五日前だ。


 それからお母ちゃんは寝ずの番をしていたというぐらいに俺に付き添っていた。

 なので今、俺のベッドに(といってもお母ちゃんと俺の布団は一緒だけど)突っ伏して寝ている。


 かなり疲れているのだろう。

 俺は体を起こす。


 うん、ちゃんと左足も元に戻っているな。

 ついでにお母ちゃんにも回復をかけて置く。


 回復魔法というわけじゃない。操魔で操る魔素は生命力でもあるから、それで回復とか賦活とかの効果を付与するのだ。

 お母ちゃんの周りで魔素がぽよぽよ力を放ってお母ちゃんにしみこんでいく。

 いやー、さすが神様の知識だぜ。すごいの一言。


 するとお母ちゃんが目を覚ました。


 ガバッと起きて俺を見る。

 目と目でばっちり。


「お母ちゃん、おなかすいた」


「りうーーーーっ」


 おお、愛が重いぜ。というか苦しいぜちょっと。

 お母ちゃんの声を聴いて外にいたのかテンテン姉とかも飛び込んできた。


 やれやれ、大団円だな。



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