第3話 リウ君、空を飛ぶ!(不本意)

第3話 リウ君、空を飛ぶ!(不本意)



 もともと爆走と言っていい状態だったんだけど、マシス爺ちゃんはさらにスピードを上げた。グオオオオッて感じ。

 後ろに飛び去る風景がすごく速い。


 道路が舗装されていないことや、車自体がクラシックカーであることなどから魔動車は早いといっても限界はある。と思っていたんだけど、すっごく速いや。

 あとで聞いたら大賢者謹製はちょっと特別なんだってさ。

 オープンカーなんだから加減はしてほしかった。


 そしてあっという間に現場が近づいてきたんだ。


「ああ、やはり盗賊だな。上等な感じの馬車をならず者が集団で取り囲んでいるようだ」


 斥候らしくニニララさんが状況を解説してくれた。

 まだかなり距離があるのにすごい見えてる。

 それはいいんだけど、それ以前に盗賊を見分けた爺ちゃんってどうなってんだろ?


 ぼくがそんなことを考えていると。


「よーし、まずは先制攻撃だぜ」


 と爺ちゃんが言った。

 相変わらず思い切りがいいなあ、なんて思っていたらひょいと持ち上げられた。僕が。


「う?」


 あ、なんか嫌な予感がする。


「よーし、リウ行ってこい」


 そう言うとじいちゃんは僕を思い切り、前方に向かって投げ放った。


「うえ?」


 普通に物理法則を考えると、すぐに失速して地面に落ちることになるんだけど、さすがにそれは嫌なので自分でフォローする。

 じいちゃんはたぶんそれも計算でやってるんだよね?


 僕は自分の周囲にある魔素を操って自分を守りつつ、姿勢制御を行う、ついでに推進力を作ってそのまま戦闘領域まで突進した。


《きっほーですよー、とんでいるですよー。ひこうしょうねんですよー》


 しーぽんがなんか不穏なことを言ってる。マジやめて。

 そして盗賊たちの手前に着地。


 しーぽんのサポートで姿勢制御とかは安定していて安心安全な空の旅。

 そして。


「たっちだうーん」


 どうーーんっ! て感じで風が巻き上がった。

 身に纏ったとった魔素がクッションとなって衝撃を和らげると同時に周囲に押し出されて渦を巻く。その魔素の風は近くにいた盗賊たちをな巻き込んでなぎ払ったんだ。それは透き通った緑の風が敵を蹴散らすような感じだった。


《魔風と名付けるですよー》


「ブワー」

「べぼっ」

「うひい」


 吹き飛ばされた盗賊たちが地面にたたきつけられた。


「何事だーーーっ!」


 跳ね飛ばされなかったのが騒いでる。うん、間違いなく盗賊だ。

 なんというか、ちょっとばっちい。

 しかも臭い。

 着の身着のまま、お風呂にも入らない身だしなみにも気を使わない感じ。


 とりあえず武器を持った。THE野盗といった感じの人たち。あるいは蛮族バーバリアン


 その中でも割とまともな格好をしたやつが。こっちを向いて叫んでいる。


 襲われている側は結構被害も出ているみたい。血を流して倒れている人とか、倒れてうめいている人とか。

 僕が飛び込んできたときも、今まさに切られそうになっている人がいて。それに関してはいい妨害になったみたい。


 爺ちゃん、これを承知で僕を投げたな。


 でもこれだったら遠慮はいらないよね?


 僕は軽く腰を落とし正拳突きを繰り出す。


「はっ!」


 僕の周りを取り巻いている魔素がその動きに導かれ、偉そうな盗賊に向かって打ち出された。


 まるで見えない何か(とは言っても、うっすら緑の風のようなものが見えているんだけど)がドリルのように撃ち込まれ、それを受けた盗賊がふっ飛ばされる。


「ぎゃひーーーっ」


「頭!」

「てめえ、なにしやがる!」

「どこのど…ガキだ?!」


 盗賊の一部がこちらに殺到してきたんだけど、そこにいたのが僕みたいな子供で戸惑っているな。

 そのスキが命取りだ。


 僕は足を上げてついで強く地面を踏みしめる。


 ズン!

 震脚っていうんだ。


 だけど僕の周りには高濃度の魔素があって、震脚によって押し出された魔素が、周囲の魔素を巻き込み、複数のつむじ風のようになって盗賊に襲い掛かった。


「ぼへっ」

「ぎゃふっ」

「べしっ」


 また勢いよく弾き飛ばされる盗賊たち。

 うんうん、まるで一騎当千系のゲームみたい。面白いや。


 さすがに盗賊たちが固まったように、こちらを見つめている。


「うん、実戦は初めてだけど結構いけるね」


 実はこの技、神威心闘流の技に操魔を合わせて作った戦闘術だったりするんだよ。

 もちろん僕一人で考えたものじゃなくて、父さんとか爺ちゃんとかが、僕の操魔という力を前提に考えてくれた戦い方なんだ。


 実はこれ、恐ろしいことに手加減モードなんだよ。


 ブーメランスラッシャーとかクロススマッシャー(タタリとどめを刺したビーム攻撃)だと殺傷力が強すぎてお手軽に使えないから。


 だから魔素を使ってほどほどに強力で殴る蹴るレベルの攻撃ができるようにと考えてできたのがこれなんだ。


 実際かなり便利。


 僕は呆けで見ている盗賊に対し、パッと手を振る。


 また魔素が渦を巻いて盗賊に襲いかかり、バチコーン! とはじきとばす。


 多分、父さんが軽くぶん殴ったぐらいの威力はあるよ、二、三m吹っ飛んだから。完全に伸びてるし。


「このやろうふざけたガキだ。おうてめぇらこいつは俺に任せて馬車の奴らをたたんじまえ」


 さっきふっとばしたはずの、少し上等な盗賊が。武器を構え肩をいからせて。のっしのっしとやってくる。


 頭とか呼ばれていたやつだ。


 堂々と向かってくるところを見るとさっきは不意を突かれたとかそんな感じで思ってるのかもしれない。多分、まともにやれば負けないと思っているんだ。


 なめられたものだと思う。


 でも僕の出番はここまで。


「ひゃっはーーーーーーっ」


 マジでヒャッハーはやめてほしい。


 モヒカンでないのがせめてもの救いかな?


 走りこんで来た魔動車は僕の脇を走り抜け、盗賊を霞めるように進行し、そのときに爺ちゃんが持っていた棍棒が盗賊のかしらあたまを殴り倒した。


「もげらっ!」


 ギュルギュル、キリモミしながら飛んでいく盗賊。危ないので絶対真似をしないでください。よい子も悪い子も。


「ふははははははははっ、汚物は消毒だーーーーーっ!」


 そう叫びながら車から飛び降りるじいちゃん。

 次々と盗賊を殴り倒している。

 どっちが凶悪犯か区別がつかない。


 他のみんなも車から飛び降りると、行動かいし、あっという間に盗賊たちを制圧してしまった。


「ちょっぱや」


 まあ、みんな超一流の戦士だからね。強いんだよ。


 もちろんフウカ姉ちゃんも超強い。


「よっしゃー、てめえら治療だ、気合入れていくぞー」


 いや、マジで治療行為が始まるんだけどね。リーゼントのヤンキージジイが言うとなんかろくでもないことのように聞こえる不思議。


 ◇・◇・◇・◇


 ただ大医王とか言われるだけあって、マシス爺ちゃんの指示は的確だ。

 軽傷のやつは僕の方に放られて来て、ぼくが治療する。

 自分は重傷者の治療にあたる。


 僕は魔法は使わない。


 僕の魔法はあまり大っぴらにしない方がいいといわれているんだ。まあね魔法じゃないし。


 だから医薬品や魔法薬を使って手早く治療をしていく。

 手順は地球のそれと大して変わらないかな。

 きれいな水で傷口を洗い。薬を塗り込んで。縫合の代わりにすごい粘着力のあるテープで傷口を固定し、その上から包帯でさらに固定。

 ちなみに粘着剤が傷薬になってます。よく作らされるんだけどすっごく臭い。でもよく効く。だから許せ。


 地球と違うのはこの手の薬品に魔法的な効果が付与されていることだろうか。魔力というよりこれに関しては魔素が練りこまれているんだよね。

 魔素もそういう形でなら利用されている。


 普通の傷なら弱めのもので、深めの傷なんかは、魔法薬と呼ばれる強力なやつを使う。いろいろしゅるいがおおくて大変。でもそれが僕の仕事。


 爺ちゃんの方はというと、魔法も使って治療をしている。


 骨折とかはぐりぐりやって骨を元の位置に戻し、その上で回復魔法をかけてある程度回復させる。


 ここでのポイントは全回復とかはさせないことだ。


 それをすると魔力がかなり無駄になるらしく効率が悪いんだって。

 あと自然治癒力をダメにしてはダメって言ってた。


 たから、あくまでも自然治癒を利用する形でやっていく。

 あと怪我人に怪我の痛みを教えるのも大事なんだってさ。


 うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ。とか言ってる。


 こうしてどんどんけが人を片づけていく。


 盗賊たちは他のみんなに拘束されているけど、やっぱり怪我人も多いのでそちらの処理もする。


 そうしているうちに困ったちゃんが再起動した。


「貴様ら何をしていたのだ? なぜさっさと助けに来ない?

 ワシはグーブノーグ子爵なのだぞ」


 ちょっと太ったバーコードハゲの兄ちゃんがわめき出した。

 若いのにデブではげ、これで○○だったら三重苦だ。


 どうやらこいつがこの馬車の持ち主で貴族らしい。

 うわーーーっ。


 今まで盗賊に襲われたショックからか、目を回してお供の人たちに介抱されていたのだ。

 お供の中にも空気の読めない奴はいたんだよね。


 治療をしている爺ちゃんの所にきて、子爵様を先に見ろとかわめいてさ、そんで爺さんの攻撃で悶絶してリタイアしていた。


 爺ちゃんはお医者さんだから、けがをさせずにものすごい激痛を与える方法とか熟知しているんだよ。


 その空気読めないマンは痛みで気絶しておとなとしてはダメな色々を垂れ流して昏倒していたりする。

 臭いから端っこで。


 もうそうなるとほかの護衛も遠巻きに見ているだけ。爺ちゃんを恐れて近づいてこないな。

 でもこいつら本当に貴族の護衛か?

 爺ちゃん公爵様だぞ?

 誰も知らんのか?


 しかも貴族とか言う以前にただ黙って見ているだけでなんもせんから爺ちゃんの機嫌はウナギ下りだ。


 だからバーコード禿のデブ兄ちゃんに爺ちゃんは返事もしない。


 それが気に障ったんだろうな。


「貴様、貴族に対する礼儀も知らんのか? このクソジジイが、町に戻ったらただではおかん。ワシの権力で全員牢屋にぶち込んで…」


 と言った瞬間そのデブは宙を舞った。


 ふわりと浮き上がり、勢いよく背中から地面に叩きつけられた。


 イタソー。


「かはっ」


 とか息を吐いているし。


「子爵様ー!」


「貴様、いくら何でも無礼だぞ、こちらはクーブノーグ子爵家のご当主、クープ・グーブノーグ子爵様だぞ」


「しょ、しょうだじょ…わしは偉いんじゃ! げぶう」


 はい、追撃が決まりました。


「おう、そういや、最近代替わりしたって聞いたな。まあ、若造じゃ儂を知らんでも仕方ないがよ、てめえの親父はまだまともだったんだがなあ…」


 爺ちゃんのセリフにその場が凍り付いた。


 まあ、爺ちゃん貴族に見えないしな。


 おデブ子爵はまだ若いみたいだし。会ったことないのかも。


 でも知っている人はいたみたい。


 爺ちゃんが治療していた重症の騎士さん。年配の立派な感じの人が止めに入った。


「わ…わか…その方は…大医王マシス・ノバ公爵閣下であります」


 おデブ子爵は一瞬で真っ青になって魔神様のような爺ちゃんを見上げてがたがたと震え出した。

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