第17話 水中冒険
第17話 水中冒険
冒険者たちは門をくぐってそのまま北に。あれだとやっぱり森の方だ。
さて、できれば見つかりたくない僕はというと…
《あっ、リウ太、ダメですよー。壁には変な魔法が通っているです》
がーん、脱出失敗!
壁を乗り越えようと思ったら、たぶん結界に付随する警戒システムだと思うんだけど、なんか魔法が動いている。
これに引っかかるとすぐに見つかってお説教コースかな?
門が通れるといいんだけど…無理かな…無理だろうな…
「おっ、なんだい、遅刻かい?
お仲間は先に行ったみたいだよ。
少し行ったところにある休憩所にいるってさ」
はて、なんじゃべか?
「ありがとう」
でも冒険者証で普通に門を出られたからいいか。
僕は門番の兵士さんから冒険者証という名前のドッグタグを受け取ってそのまま外に出ました。
これ一見、金属製のプレートで出来ていて、でも実はなんかハイテクらしくて、ギルドとかにある魔動具を使うとかなりの量のデーターが出てくるんだって。
多分アイシーチップ付きのカードみたいなものだろう。
はっきり言って理屈は分からんのよ。
ただ機械に通すと本人かどうかは確認できるし、確認できれば僕がブロンズ冒険者というのは分かるわけだ。
ブロンズなら町の外に出ることはできるみたいだね。
でも子供だから『あまり無茶するなよー』とか声をかけてくれた。
よし、とりあえず脱出は成功だ。
僕はトテトテと先行する冒険者たちを追いかけた。
そして追いついた。
『さささっ! ささささっ!』
敵(?)はどうやら湖のほとりにある木陰で休憩中のようだね。
ベンチとかあるし、町からもそんなに離れてないから散歩コースとかになっているのかもしれない。
道なりに北上すると湖を回り込むようにして森に着くようだ。
《しかしこのままでは見つかるですよー》
『心配無用、任せなさい』
せっかく追いついたのだ、このまま気づかれないように追いかけたい。
僕は湖に足を突っ込む。
濡れる? イヤイヤ心配ないよ。魔素で身体を包んでいるからね。宇宙服を着ているようなものさ。水の中だって毒空気の中だって活動できる。たぶん。
チャプンと身体を沈めて冒険者たちのたまり場まで移動。
近づくといい感じに陸からは見えないぐらいの段差がある。縁によって息をひそめる。
「まだ来ねえのかな?」
「ばっかやめろ、わざわざ引率してくれてんだぞ!」
「わはは、気にするな。ちゃんと報酬はもらう、気合入れて狩れよ」
「ごにょごにょ・・・」
「はにゃはにゃ・・・・・・」
ふむふむ、話の内容からすると、どうやら知り合いらしい。
そして子供だけではちょっと心もとない良い狩場へと引率してもらう代わりに荷物持ちのような雑用を引き受けたと。
そんで現在は遅れてくる大人冒険者の仲間を待っている所のようだ。
何で収納袋を借りないのかな?
《あれもただではないですよー、確か定額料金を払うか、収益の二割を払うとかだったと思うですよー》
むむっ、そう言えば父さんがそんなことを言っていたような、いなかったような?
確か冒険者って税金関係で3割ぐらいもっていかれるんだよね。ちょっと高い?
《そんなことないですよー、普通の税金は四公六民ですよー、三公七民なら危険手当を考えても良心的ですよー》
おおー、しーぽんよく知ってるな。そう言えば日本でも昔は四公六民がベースで、非常時は七公三民まであがったりとか? そんなのを読んだ記憶があるぞ。
収入の七割? マジか!
しかしそうすると税金三割の、魔法袋の賃貸料で二割。うん、これはちょっと大変かも。
いやー、世の中世知辛いねー。
あんまり世知辛いから彼らを見ているのがつらくなったよ。このまま水中を移動して森に入ってしまおう。
ちょっと普通の子供冒険者ってのに興味があったんだけど、見ると悲しくなりそう。
僕は再びトプンと水に潜ってそのまま移動した。
僕の知覚にはその音に気付いて振り向いた子供冒険者が
◇・◇・◇・◇
《しかしリウ太は泳ぎが上手ですよー》
いや、これを泳ぎといっていいのか?
自分の周りを魔素の力場で包んで水をはじく。力場の中には多少の空気も含まれているから10分ぐらいは普通に呼吸ができるみたいだね。
そのうえで姿勢制御で水中を進むから…
うん、泳いではないよな。感覚は宇宙遊泳みたい。おもろいぞ。
たまに水面に顔を出して空気を入れ替え、水中遊泳を楽しむ。ここの水は澄んでいてきれいなので青く透き通って潜っていて楽しい。
ただあまり深く潜りすぎてはいけない。結構水深があるのだ。
特に湖底はいけない。
いや、魔素視があるから周辺の把握はできるんだ。真っ暗でもね。でもそれで周りを観察すると、どう見ても人間の骨みたいのとかあるよ?。
『うわひー』
うひーとっなっている所に魚の群れが通ってうわーとなりました。
まず一番に目についたのがグッピーの群れ。カラフルできれいでまんまグッピーだよね。でも大きさが30cm。
それが群でどわーーーーってさ。きれいなんだけどね…
それを『おおっ急いでんな』とか思ってみてたら後ろからベタに似た魚が追いかけてきました。
羽衣いっぱいのきれいな魚だ。
グッピー追いかけてばくんって食べてる。大きさ100cm。
『みんなでっかいね』
《水には魔素がよく溶け込むですよー。生き物には魔力が沢山作れるよい環境ですよー。なので水の魔獣は大体大きくなるですよー》
この世界には魔素というのが満ちていて、万素ともいうんだけど、呼吸なんかでこれを体内に取り込むと魔力になるわけさ。
つまり魔素を取り込みやすい環境だと魔力が沢山作れて、それで身体の強化とかが発生するから魔獣は大きくなることができるってことなんだ。
ということは…
あっ、一瞬巨大ミジンコを想像してしまった。いくら何でもそれはないだろう。サイズ的に。
《きゃーーーっ、食べられたですよー》
はい、暢気なことしてたら何かに飲み込まれてしまいました。
魚だな魚。
魚は基本丸のみだからダメージはない。
そしてここはたぶん胃袋の中。
こういう時に魔素視はいかんな、暗くてもはっきり見えるから。
『おお!』
巨大生物の体内で攻撃とか!
定番じゃないかこれ。
ちょっと憧れのシチュだよ!
ここは定番の電撃…はできないんだっけ。
ズババババッとかやってみたかった。今度電気を起こす方法を考えよう。
《どうするですよー》
ふむ、しーぽんがビビってるな。魔素のバリアがあるから平気なんだけど…
仕方ない。
『凍結!』
しゅわっ!
魔素を針のように伸ばし、胃を突き抜けたあたりで周辺を凍結させる。
体のあちこちで血液が凍り付いて流れが止まるのだからこりゃ致命的だ。
しばらく震えた後、謎のお魚はその動きを止めた。たぶん苦しがってたね。
口からはい出したら湖の真ん中辺で浮かんでました。
果たしてその魚の正体は!
なんかリュウグウノツカイみたいなやつだった。
でも大きさはたぶん10mぐらいある。
鰭とか長くってオリジナルより派手だね。
おまけにとってもカラフル。かなりきれいな魚だ。
唯一いただけないのが口かな。なんか針みたいな鋭い歯がびっしりにょきにょき。かなり凶悪。
「これ食べられると思う?」
命を奪った以上は責任があるんだ。
《ちょっと待つですよー、調べてみるで…あっ、食べられるですよー。白身で大変美味となっているですよー。また皮はとても丈夫で薄くて装備の補強に大人気です。
卵は滋養強壮に大変良いとなっているですよー。
高く売れるです》
名前は『ニジリュウノツカイ』というらしい。
まあ、ギルドとかに持っていくと騒ぎになりそうだから爺ちゃんに買い取らせよう。
ものすごく奇麗だからただ食べるのももったいない。勿論食べるけど。おいしいなら食べるけど。
「さて、冒険はここまでか」
《なんでですよー?》
何でってこれを担いで森の中を移動とか無理じゃん?
僕の収納【影の箱庭世界】にはまだ入らない大きさだ。
《問題ないですよー》
そう言うとしーぽんは影の箱庭世界にニジリュウノツカイをしまってしまった。
なして?
《今リウ太の操魔はレベルⅤですよー、この前上がったです。だから収納もでっかくなったですよー》
「えー、ちょっと待って、メッセージ来てなかったよ?」
《メッセージはオフにしてあるです。わちしが管理しているですよー》
いや、それ意味あるのか?
《用があれば思い出すですよー》
「ダメだこりゃ」
忘れるのが前提になっている。
《さあ、冒険を続けるですよー》
重要な更新はお知らせしてください。あと、ステータスはちょくちょく調べるようにしよう。
でもまあ、まだ冒険が続けられるということで…
「よし、じゃあドムドム行こうか」
僕は水の上に立ち上がる。そのまま少し腰を落として姿勢制御をフル活用。水の上をすべるように移動を始めた。
ホバー移動だ。これが気持ちいいのよ。
「水上だろうが、陸上だろうがこれで行けるのさ、いえーっ」
《いえー、リウ太はちょっとジジイに似てきているですよー》
え? マジ? それは嫌だなあ。
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魔法袋の賃貸料ですがリウたんは勘違いをしています。
冒険者の収入は基本天引きで、三割引かれた後の金額が報酬になるので普通の冒険者はその存在を意識していないです。
賃貸料は手取りを100%としてそのうちの二割なので、まあ、数字ほど損をした感じはないはずです。
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