第5話 フィギュア作りに挑戦・・・させられる

第5話 フィギュア作りに挑戦・・・させられる



 レベルが上がった。レベルⅢである。

 まず操魔の制御魔力量だが…分かんなかった。いや、もう、いっぱい過ぎてね、数えるなんてとてもとても。


 影の箱庭世界はもう少しわかりやすかったな。どの程度のものが入るのか調べていったらたぶん15cmぐらい。

 で、ここからは推測だ。


 レベルⅠの時、制御量8で収納が2cm四方。

 レベルⅡの時に制御量64で収納が4cm四方。


 単純に倍という可能性もあるが立方根じゃないのか?

 64というのは4×4×4だからな。


 で現在収納が15cmちょっと。

 64が8の二乗だと考えた場合、レベル三は4096だ。

 これの立方根は16だ。

 多分レベルが上がると制御魔力量は乗倍になって、収納の大きさはその立方根。この考え方で間違ってないと思う。


《おおーっ、すごいですよー。難しいですよー》


 しーぽんは考えるのは放棄したらしい。

 で出力が上がってどんなものかとやってみたら薪なんか一瞬で灰になったぜ。

 加減しよう…。


 他に出来ることというとジャンプしたときに飛距離が伸びた。

 ぴょんとジャンプして頭のずっと上にある木の枝に飛び上がる事とかできた。

 飛び降りるときもふんわり着地。


 宙に浮くとかは無理そうだけどかなりすごい。

 試しにバク転をしてみたが楽勝楽勝。いやー、ついに俺もバク転を成功させましたよ。

 バク転できるってちょっといいよね。それにしびれるあこがれる。


 さて、下級魔法の話に戻そう。

 水の下級魔法は『ウォタ』というらしい。コップ一杯ぐらいの水を呼び出すもの。

 これはもう、収納で代用する。収納に水を入れておいて出せばいいのだ。


 風属性は『ヴィント』という、風を吹かすだけの魔法だ。

 これは操魔でどうとでもなる。


 まず魔力を並べてプロペラの形に力場を構成する。

 それを回転させれば…


 ブオーーーーーーッ


 まあ、扇風機だね。強風だった。加減しよう。


 土属性は『ソリダ』という土を固めて形にする魔法だ。壁の穴を塞いだり、ちょっとした竈を作ったりとかできる。

 これは昨日のあれだ。割れた水ガメを修理したやつ。

 そしてしーぽんが石を作ったやつ。


 そこら辺から土を集めて操魔でくっつけながら形にする。


「あはははははははっ」


《これなんですよー?》


 スライムでした。この世界のスライムはお饅頭みたいだけどこれは頭のとんがったゲームっぽいやつ。

 3cmぐらいの小さいやつだけどなかなかいい造形だ。

 よし、王冠付きも作ろう。


《もっと細かい粒子でやるときめ細やかになるですよー》


 むむっ、それもそうだ。今作っているのはちょっと表面がざらざらしている。


「でもどうやって?」


《分子、原子を結合できるならばらすこともできるですよ~》


「え? ほんと?」


《目に頼らないで魔力で物を見るですよー、そうすれば微も見ることができるです。そしてそれをつないでいる力を魔力で解いてやばいいですよ~》


 ふむ、それっぽい。

 俺は言われたとおりに目を閉じてそれを感じようとする。

 それだけだとよくわからないので直接土に触れながら。


「あー、なんかわかった」


 手に感じる粒粒が、頭の中に映し出される。それはさらに小さい粒子の塊で、それを手でさすりながらばらばらにしていく。するとポロポロ崩れてさらに細かくなっていく。


「これを丸めてー」


《まつですよー、手でやっては限界があるですよー。操魔で粒子を集めて一個一個結合させて、こうですよー》


 なっ、なるほど。

 しーぽんが積極的に教えてくれている。なぜだ?


 俺は操魔をフル稼働させて粉になった砂の粒子を集める。

 見た目は風で巻き上げられて渦を巻く砂煙みたいなもので、それが少しずつ積みあがって人形になっていく。


 ただ…


《ただなんですよ~?》


「すっごく時間がかかる」


 これは使う粒子が細かくなったからだ。

 分子一個分。ミクロの世界。

 それを操魔で運んで積み上げていくのだ。


 粒子の数だってどのくらいあるのか数えきれない。

 それを4000ぐらいの魔力粒子で集めて積み上げていくのだ。

 最初に細かい設定をイメージするとあとは全体としてふんわりしたイメージ通りに進んでいくのがせめてもの救い。


 結局3cmぐらいの小さな人形を作るのにまる一日かかってしまった。


《ふわわわわわっ、かわいいですよー、ありがとうですよー》


 あれ~、なんか趣旨が間違ってないかあ?


 しーぽんは俺の作ったフィギュアを大喜びで持っていった。


◇・◇・◇・◇


 翌日、それはたぶんお礼のつもりだったのだ。


《物を投げるときに操魔で投げるとすごく速く飛ぶデスよー》


 しーぽんがぽつりとそんなことを言った。

 なるほどなるほど。つまり操魔で石なんかを加速するわけだな。

 操魔で操られた魔力が物理的な作用を作り出せることは分かっているのだ。確かにそれは可能だろう。


「お母ちゃん遊びに行ってくるねー」


「気を付けるのよー」


 俺がもりに向かうと途中村長の孫が現れた。


「何だ能無しか、魔法なしの出来損ないがうろちょろしてんじゃねえ」

「「そーだそーだ」」


 悪党一人と取り巻き二人、定番だな。なんかおもろい。

 面白いが腹が立たないわけではない。

 自分が攻撃されたからというのではなく『この悪ガキどもが!』みたいな感覚だ。

 そうだ。


 俺は操魔で足元の石を拾う。石程度なら十分に動かせるのだ。

 拾った石をこれまた操魔で加速して…


 がさがさと音がした。


 おっ、結構うまく飛ぶじゃないか。

 俺が悪ガキどもの頭の上の木に石を投げ…この場合は撃ち込んだか? そのためだ。

 ガキどもはいきなり上を見て不安がっている。


 よし、もういっちょ。

 今度は少し改良して…


 バン!

 

 と盛大な音。何枚もの葉が吹き飛び、下に振ってくる。


 ミギャーーーッ!


 ついでに猫まで降ってきた。

 ブサ猫ドゴラだ。

 村に住んでいる猫のボス。体長50cmの巨大猫。

 ドゴラは村長の孫の頭に着地。後ろ足でその顔面を蹴り飛ばし空中で三回転して見事に着地した。


「10.0!」


 思わず叫んでしまったぜ。

 村長の孫は蹴り飛ばされた反動でこれまた後方三回転。

 地面に伸びたその顔には見事な三本線が。


「おおーーーーっパチパチパチパチパチ」


 拍手をせずにいられない。


「うわー、クラちゃん」


 取り巻きに起こされて運ばれていく村長の孫。

 ちなみに名前は『クラシビア・リューデガー・フン』君だ。クラちゃんと呼ばれている。

 誰が付けた名前かは知らない。キラキラネームってやつだな。


「畜生、覚えてろー」


 悔し紛れに投げた石はドゴラの方に。

 お前らコントロール悪いんだからやめろっていつも言って…まあ、なかったな。


『ふしゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ』


 よたよた逃げる人間が猫の足にかなうはずもなく。三人は怒ったドゴラの犠牲になりましたとさ。

 可愛そうに。


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