第13話 僕が誘拐をした理由

第13話 僕が誘拐をした理由



「『スキル。聖者の行進発動!』ほーら、泣かない泣かない、大丈夫だよー」


 これはエスタルアーゼ様からもらった職号・聖者にくっついてきたスキルだ。


 いや、スキルというより権能かな?

 自分の努力で身に着ける『技能スキル』とは違って、職号にくっついてくるこれらは不思議能力だ。


 なのでその『権能スキル』を発動するとシャンシャンシャンという耳には聞こえない鈴の音が音楽を奏で、僕の周辺をなんとなくほっとする空気が漂う空間に切り替えてくれる。子供も安心なのだ。


「おいおい、どうしたんだい」

「うーん、なんか今日は幸せ」


 近くを歩いているカップルがより幸せになったようだ。

 子供以外も安心のようだ。

 名付けて『うっすら幸せ空間』である。


 女の子も落ち着いたみたいで、僕の顔をじっと見てて…と思ったら袖を握って、なんだよ、本気で見つめてるな。


《むむっ、ですよー、この子は助けを求めているですよー》


 いきなりしーぽんがそんなことを言った。


『迷子?』


《いいや違うぜですよー、もっとひっ迫した感じです。調べるです。

 ゲゲーです。人間死すべしですよー》


 なぜそうなる。


《この子は虐待を受けているです、このまま帰してはいけないですよー》


 なんだと?


 ついマジ声。念話だけど。

 そして鑑定解析発動!


 これは魔王の職号のおまけと言っていい能力で、魔素視と叡智さんによる分析で対象を精密解析するスキルだ。

 診てみると女の子は目につかないところにあざや内溢血がある。骨にひびが入っている箇所まである。かなり陰湿で、しかも他人に見つからないように虐待を繰り返しているのではないかと思われた。


「こっ、これは…」


 すぐに治さねば!


《まつですよー、ジジイに相談だんしてからにするべきですよー》


 ほへ?

 ・・・・・・ああ、なるほど。


 このお嬢ちゃんはいいところの子供みたいだ。

 今、怪我を治しても虐待の解決にはならないのだ。

 そしてマシス爺ちゃんは権力者だ。

 しかもよくわからんけど王様に文句言えるレベルらしい。


 なら爺ちゃんが状況を把握してくれるといろいろ役に立つ。

 爺ちゃんのことだ。きっと子供を虐待するようなクズは闇から闇に…

 よし、そうしよう。


「もう大丈夫だぞ」


 僕は女の子をひょいと抱き上げた。

 うん、ちっちゃい子だ。

 抱っこしたらニパッと笑った。

 えへへー、とか言ってる。むっちゃ可愛いな。ステフの次にランクインだ。

 こんな子供を攻撃できるようなクズは死刑でいいと思う。


《同感ですよー》


「お嬢様ーーーーっ」


「貴様何者だ!」


 とか思ってたら変なのが出たぞ。


「どこの子か知りませんがお嬢様を放しなさい!」


「一方的なババアだな」


 僕、ちょっと怒ってます

 本当の老婆ではないよ。嫌味だ。まあ、せいぜい中年といったところだろう。

 あと護衛が二人ぐらい。

 こちらは正式な騎士みたいだな。


《でも弱っちいですよー》


「うーんそうだな、大した脅威は感じない」


 びきっ。


 あっ、青筋が浮いた。

 さてどうしたものか。


 僕は女の子を見た。僕の服をしっかり握って、顔を押し付けている。

 これはもう、助けを求めていると考えていいんじゃあるまいか。

 となるとこいつらが味方と考えるわけにはいかないな。


「しーぽん。パス!」


《任せるですよー》


 僕は女の子を空に放り上げる。

 しーぽんが飛んできて女の子の背中にガシーンとドッキングだ。

 まるで往年のスーパーロボットに飛行ユニット(空飛ぶ翼)がクロスするようだ。そのまましーぽんの魔法で空の上にふわふわと滞空。

 女の子は吃驚しているけど喜んでいるな。

 うん、ええ子じゃ。


「なっ」


「貴様!」


「ウザイ」


 僕は素早く騎士に走り寄り、そのどてっばらに拳を叩き込む。相手は既に剣を抜いているのだ、遠慮はしない。


 べこっ。


「鎧じゃない! はりぼてだーーーーっ!」


 子供のパンチでべっこべこ!


「おのれ!

 なっ、どこに」


 もう一人が切りかかってきたからちょっと死角に滑り込んだら簡単に僕のことを見失った。

 相手に印象付けるように前進して、相手の目がおってきたら纏っていた魔素を残して反対側に鋭く動くんだ。

 物理分身『技能スキル』。教わった。


 相手の目は残像を追いかけて、でも残像は消えてしまう。

 その時には僕は既に別の位置へ。


「だりゃーっ」


 後ろから頭を蹴っ飛ばしてやるとその騎士はそのままバランスを崩して、ごろごろ転がって道端の荷物の山に突っ込んでいって眼を回してしまった。

 じつに情けない。こんなんで護衛とか意味あるのか?


「とう!」


 もうこれ以上相手にする必要もない。

 僕は高くジャンプすると空中にいた女の子を回収して、そのまま高い位置の屋根の上に。


 まだ飛行術とかは完成してないんだけど、姿勢制御があるから長距離ジャンプと空中での姿勢制御は簡単だ。

 そのまま建物の屋根を渡っていく。

 もちろん目的地は魔塔だよ。

 後ろでおばはんが騒いでいるけど無視だムシ!


「あっ」


《どうしたです?》


「フウカ姉置いてきちゃった」


 まあ、いいか。子供じゃないし、勝手に帰ってくるだろう。


◇・◇・◇・◇


「ん?、リウ太、どうし、たん、だ…その子は…」


 おお、竜爺じゃ、竜爺が居った。

 魔塔に帰ってきて、下から姿勢制御で上にぴょんぴょん登ってきて、マシス爺ちゃんの応接室に飛び込んだら竜爺がお酒飲みながらタバコ吸ってました。

 この世界の煙草はキセルなんだね。ちょっと様になってる。


 じゃなかった。


「竜爺、緊急事態、緊急事態。すぐにうちの爺ちゃん読んできて、この子怪我してる。結構ひどいの」


 一瞬女の子を見てびっくり。

 そうです、ちっちゃい子の怪我は放置してはいけません。


「何だと?

 よし、まっとれ」


 竜爺は即座に反応した。部屋を飛び出していったのだ。

 じつに素早い反応。

 

 でも女の子自体はなんか楽しそうにしている。結構活発な子なのかな? 屋根の上をぴょんぴょんしたり、魔塔の内壁を蹴りながら上に登ってきたのがかなり好評だった。

 楽しかったみたい。


 大変だ、怪我をしてるんだ。と言っても信じてもらえないかと思ったんだけど、本当に即断即決だった。

 なんかそれっぽいスキルでも持っているのかな?


「椅子の方にお移りになったらいかがですか?」


 そう声をかけてくれたのは公爵家のメイドさん。つまり爺ちゃんの弟子の一人。見るからに有能なメイドさん。

 というか、爺ちゃん弟子とか使用人とか鍛えるの趣味みたいだからな。ここで働いていると自然とできる人になっちゃうんだよ。

 その彼女が手を出すと女の子はまた僕にしがみついて顔を押し付けてる。


「ずいぶん懐かれましたね」


 スキルの効果があるからね。


「? どうかした?」


 メイドさんは女の子をみて不思議そうに目? いや、何か納得がいかない感じで眉をひそめていた。


「いえ、たぶんなんですが、わたくしこのお嬢さんを知っていると思います」


「え? ほんと?」


「はい、ふわふわのピンクブロンドって珍しいですから…

 それに眼の色も前に見かけたときのままです」


 目を覗き込みます。

 女の子もじっと僕の目を見る。


 そうか、これがあの有名な『あなたが深淵を覗き込むとき、深淵もあなたを覗き込んでいるのだ』というやつだ。


《いやいや、単に見つめ合っているだけですよー》


 的確な突っ込みありがとう。


 まあ、かなりきれいなエメラルド色の瞳だね。光に当たるとちょっと違った色彩がよぎる。虹の色がよぎるというか、奇麗な色だ。

 確かに特徴的ではある。


「お嬢ちゃん、おなまえはー?」


 今更だけど聞いてみよう。


「であねら」


「であねら…デアネラちゃんか…いい名前だね」


 なんかかっこいい?


「デアネィラさまですね。やっぱり…」


 お姉さん何か言いかけたんだけどその瞬間ドカーンと勢いよくドアが開いて竜爺が飛び込んで来た。

 マシス爺ちゃんを思いっきり引きずってるよ。


「医者を連れてきたぞーー!」


 うん、知ってる。


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『技能』と『権能』どちらも呼び方は『スキル』だよ。

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 オネガイ。

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