第15話 予言

第15話 予言



「おう、リウ、ちっとたのまあ」


「はーい」


 オレ、復活!

 元の部屋に呼び戻されました。

 そして行きます。


権能スキル起動、【聖者が町にやって来た】!」


 別にふざけてないよ。そういうスキルなんだよ。

 でも、まあ、こういうのを作っているのが日本マニアの神様たちだから…そういうことかもしれないけどね。


 そしてスキルの起動と同時にかすかな音楽がどこからともなく流れてくるわけさ、でもこれは本当の音じゃなくて、スキル圏内にいる人の脳に直接響いているんだと思う。

 しーぽんそう言ってた。


 そして声が聞こえる。


『ここは聖者のまします処、聖者は真実を貴ぶぞ。嘘はだめさ、嘘はダメさ、ここでは形を保てない。紡がれるのは全部真実さ』


 これがスキル効果。

 一定範囲内において、嘘が存在できなくなるというスキル・・・らしいね。うん。


 爺ちゃんたちと実験はしたけど嘘をつこうとしてもこの中だと音として存在できないんだ。

 それどころか嘘のお手紙なんかも書けない。書いても形にならないの。真っ白な紙のまま。

 もし形にできたならそれは本当のことということらしい。


 これも聖者スキルなんだよね。ちょっと発動条件が難しいんだけど。

 そして尋問開始。


 まず最初にやるのはみんなに納得させるためにそれぞれに真実と嘘を口にしてもらうこと。

 そうすれば効果は一目瞭然だから。

 というか、みんながそういうものだと納得してくれないとやる意味ないしね。


「お嬢様に対するいじめが始まったのは、お嬢様が3歳になられたころでした…

 偶々殴ったお嬢様がお泣きになるのが面白かったようで、たびたびお嬢様に暴力を振るわれるようになりまして、その都度、自分は勇者だから、自分のすることは正しいのだから、殴られるお前が悪いのだと、もし勇者である自分に逆らうのなら、よりひどい罰が、ご自身とお母様に与えられると、ひどくいじめられるたびに繰り返して…」


「そんな・・・・・・・・・・・・・・・・うそよ、うそよ…嘘よ…」


 おばさんの自供にフェネルさんは茫然と信じられないを繰り返している。

 まあ、本当に信じられないのだろう。信じたくないのだろう。


「それを見ておられた旦那様が…子供の戯れだから気にする必要はないと…決して口にするなと…口にすれば…私も家族もただではおかないと…


 私だって本当はーーーーーーーーっ!」


 本当は助けたかったとか、出来ることをしたとか。たぶん自己弁護なのかな、それは声になることなくむなしく消えていって、そしておばさんはさらに泣き崩れた。


 護衛の反応もほぼ同じ。

 面倒ごとに巻き込まれたくない。

 公爵様の命令だから仕方ない。

 文句を言えばどんな目にあわされるかわからない。


 護衛だってこの二人だけではなく他にもいるわけで、メイドだってたくさんいるのだろう。何と言っても公爵家だというし。


 文句を言うやつだっていることはいた。でもそういう人はいつの間にかいなくなっていた。

 そうなると残るのは我が身可愛さに口を拭う人ばかり。


 というのが今の状況のようだ。


 竜爺はすぐに動き出した。

 何やら手紙を書いて、それを早馬? みたいなやつでどこかに送る。何か手を打ったのだろう。うちの爺ちゃんと連名だね。きっと効果があるんだと思う。


 デアネィラちゃんのおつきだった三人に加えて、フェネルさんと一緒に来ていた6人も、まあ、同じ穴の狢だったようで、全員が身柄を拘束された。


 今回フェネルさんが『不調』ということで、直接大医王の診察をということでここまで来たわけなんだけど、実はデアネィラちゃんを留守番にという話もあったらしい。

 つまりまかり間違って診察なんかされると困るということなんだな。

 でも、デアネィラちゃんに関しては竜爺が合うのを楽しみにしているという事情から同行は確定。

 そして今回くっついてきた使用人たちは『余計なトラブルを回避するように』と命令を受けていたことが発覚したのだ。

 特に従順な人たちだったということだ。


 ここら辺は爺ちゃんズの御手柄だろうね。


「こういう手合いの考えることは大体同じようなもんさ、しかも底が浅いぜ」


 とか、自慢げでした。


 ただ現実を認められないのが一人。


「嘘よ、嘘よ…ありえない、あの子は勇者なのよ…」


 ちょっと茫然自失でぶつぶつぶつ。


 おお、なんとエーリュシオン氏は勇者だった。


◇・◇・◇・◇


 エーリュシオン君、当年10歳。

 僕と同い年だ。


 平たくいうと傲慢な豚だという。外面はちょっとはいい。

 竜爺はあの性格なので、小さい頃はかわいがっていたらしい。

 でも長ずると性格に問題のある行動が増えてきた。もともとあまり会えない関係なので父親にしっかり教育するように文句を言うわけだが、父親というのがまたろくでなしだそうな。


 竜爺の助言をうっとおしがって政治的に文句を言う。

 なので竜爺はさらに孫たちに会いづらくなってしまった。


 ここまでエーリュシオン君が気を使われるのは事情がある。


「ずいぶん前に予言があったのさ」


 予言したのは竜爺のお姉さんに当たる人。有名な予言者だったんだってさ。リリーシャ・ノートルダム女侯爵。という人らしい。

 彼女の予言は何度も国の危機を救い、利益をもたらしたみたい。小さなものの積み重ねだけど、積み重ねこそは力だ。

 彼女がどこかに嫁に行ったりすることなく、自身が『侯爵』の位を与えられたのはその功績ゆえだろう。


「まあ、彼女の能力を一貴族家が独占するというのを嫌ったったのはあるんだろうけどな」


 爺ちゃんの見解が辛らつすぎる件。


 こうして侯爵夫人ではなく女侯爵となった彼女だが、その生涯の最後に大きな予言をしたらしい。


『夜空の星が壮大な歌を歌う夜。王家の血を引く娘。その娘の盾となる男。二人の間に生まれる子供。世界を滅びの危機から救うだろう』


 とかいうものらしい。

 彼女にはそういう光景が断片的に見えたのだそうな。


 王家の娘がフェネルさんらしい。


 え? 王家? 貴族とちゃうの?


「予言てのはあやふやなところがあってな。予言をベースにどういうものか解釈して行かにゃならねえんだが…」


 当時王家の血を引く娘。というのはフェネルさんだけしかいなくて、当然彼女のことだと考えられた。

 そして王都で騒乱があった際にフェネルさんの盾となり、彼女を守ったのがリュメルクローテ公爵(当時は伯爵)だったらしい、しかもこの時、八面六臂の大活躍で王都の民を救ったとか。

 その時の功績とプラス予言の効果で王女の降嫁が認められて現在に至るとか。


「でもそうすると当時の王様って竜爺なんじゃないの?」


「いや、俺はよ、割と早く王位を息子に譲ってよ…」


 つまり爺ちゃんたちと冒険にうつつを抜かしていたと。


「俺は最初からあの伯爵ってのが気に食わなくてな、反対はしたんだが、引退したジジイとの相性を反対の理由にするわけにもいかねえだろ?

 国王は賛成だったしな。王国議会なんてのもあってよ」


 竜爺の反対は孫娘を溺愛するジジイのわがままみたいな扱いで貴族たちの議会に蹴飛ばされたんだそうな。

 それほど予言が信じられていたということらしいね。


 おまけにネフェル王女がリュメルクローテ伯爵にほれ込んでいたというのもあってこの婚姻が現実のものになる。

 そして生まれたのが件の『エーリュシオン・リュメルクローテ』君だった。


 このエーリュシオン君は生まれながらに魔力が多く、しかも最初の魔力判定の時になんちゃらいう神様の加護と、勇者の職能が発現。王国の貴族たちは『それ見たことか』みたいに騒いだらしい。


「まあ、こいつは気にしなかったがな」


「ふん、勇者なんてのは可能性だ。功績がなければただのお飾りでしかない」


 ジジイ二人で気の合うことだ。

 でも曾孫がいるってことは竜爺も結構年なんだな…


 それはさておき、勇者が誕生したわけで、前にも話が出たけど勇者が生まれると国は優秀な教師とか導師とか、惜しげもなく支援してハイスペックに育てようとする。

 でも今回はそうはならなかった。


 これも予言のせい。


 世界を救うと予言された子供に余計な干渉をするべきかどうか。

 もちろん予言は一般に公開されたものではなかったみたいだけど、それでも国の重鎮は知っている。


 なので現国王、この人は竜爺の息子でフェネルさんのお父さんらしいんだけど、そこら辺の経緯はよくわからないんだけど、この勇者の養育を親元であるリュメルクローテ公爵に任せるという決断をしたみたい。


 それで現在の惨状なわけだ。


「やれやれ、こりゃいったん王都まで戻らにゃいかんな」


「まあ、仕方あるめえ、これもお役目だ。頑張ってこい」


 竜爺は王都というところに向かうつもりみたい。

 そして前準備として今回捕まえた護衛やらメイドやらを締め上げて証言をまとめて資料づくりとかしている。


 なかなか大変そうだ。


「うちの爺ちゃんだったら出かけていって拳固で解決とかしそうだけど」


「バカ言ってんじゃねえよ」


 さすがにそうか。


「その方が簡単だろ?」


 え? そっち!


 ちょうどそんなころフウカ姉ちゃんが帰ってきました。


「リウたんひどいよー、私を置いていくなんてー」


 泣き付かれました。

 苦しい。

 おっぱいを押し付けるな!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る