第36話 帰還前、なのに怪しげな神官登場

第36話 帰還前、なのに怪しげな神官登場



「あっ、軍曹殿だ。おはー」

「やあ、軍曹殿、昨日ぶりー」


 軽い、軽すぎる。軍曹殿が二束三文になっている。


 冒険者ギルドで出迎えてくれたのは件の子供冒険者達。

 でも、口で言うほど軽く扱われているわけではないと思う。なんというか、僕のことを恩人と思ってくれているのは間違いないのだろう。

 丁重に迎えてくれて椅子をすすめてくれたりはする。


 ただ『軍曹殿』のイメージを共有できない感じが悲しいだけ。


「あっ、新しい装備だな」


「うん、そうなんだ。山狩りの時の報酬で、一新したんだよね。ちょっとお金も時間もかかったけど」

「後方支援として走り回った甲斐があったよね」

「大医王様がみんなによく頑張ったって、ご褒美上乗せしてくれたんだな」


 見た感じ革の簡単な鎧、ブーツ、ショートソード、あとは皮のベルトポーチ装備でちょっと誇らしそう。


 中古とかも混じってそうだけど、しっかりした物みたいだからいいんじゃないかな。それに子供じゃすぐに着れなくなる。

 その時は下取りに出してグレードアップがいいと思う。いいチョイスだ。


 あと飛び道具があればいいと思うんだけど、弓矢とか、矢が消耗品だし、結構お値段するんだよね。

 だから無理はしない。

 こいつら結構いい冒険者になるかもね。


「実は今日はお前たちに渡す物がある」


 と言っても大したものじゃない。解体用のナイフだ。

 僕もそろそろ村に帰るし、まあ、記念品?

 そんな感じ。


 魔塔で普通に売っているものだからそれほど高いものでもない。


 だから一人一人にナイフを渡す。


「うおおっ、これって結構お高いのでは?」

「いいんすか、もらって」

「返さないぜ」

「うおーい」


「気にするな、もらっておけ」


 あとは軍曹殿権限で必ず読み書きと計算だけは覚えろと厳命しておく。それなしではどのみち三流にしかなれない。

 ちょっと和気あいあいと話をしていたんだけど…


「あっ、また来た」


 一人が入り口の方を見てそうつぶやいた。当然振り向くわけだけど、そこにはちょっと変わった人がいた。あるいは変な人がいた。


 基本白いローブで、首を通す形の細かい模様の入った帯を体の前後に垂らし、それを腰の所できれいなベルトで止めている。

 頭には円筒形の中心に炎のようなシンボルが付けられた長い帽子をかぶり、その帽子を入り口の鴨居にぶつけておっこどして慌てて追いかけている。


 なんかちょっとコロコロ太っていて、あまりそうは見えないがたぶん神様関係の偉い人なんじゃないかな?


「なんかどっかの神官だって聞いたけど、何日か前からこの辺りで、この前の山狩りの話を聞いて回っているみたい」


「ほほう」


 その神官は、あっちにフラフラ、こっちにフラフラしながら冒険者たちに話しかけている。


 そして当然、僕の所にも。


「やあ、君たち、先日はありがとう。そっちの子は初めてだよね。実はちょっと話を聞かせてほしいんだ。はふーっ」


 あれ、この人、話をした人は覚えていて、初見の人にだけ話しかけているのか?

 何気にスペック高いな。


《リウ太は人の顔を覚えるのが苦手ですよー》


 にがてちゃうもん、普通だもん。あったことは覚えてるもん。顔と名前が一致しないだけだもん。

 だからこの神官さんがみんなの名前を憶えてなかったら僕と同等と言う話だ。うん、きっとそうだ。


「実はね、先日の魔獣掃討戦の時にドラゴンが出たって聞いたんだよ」


「うん、そうみたいですね。でもみんな信じてないですよ」


 その瞬間、神官はちらりと自分の胸を見た。

 底にも炎をシンボル化したようなペンダントがかけられている。


《リウ太、話に気を付けるですよー、あれは嘘を見抜く魔道具ですよー》


 なんと、そんなものが!

 あー。あるのは知ってたわ。


「その時にドラゴンをぶっ飛ばした、すごい魔法使いがいたって聞いたんだよね。実はその人と話がしたいんだ。ふーっ。

 ああ、ごめんね、ぼくは鍛冶神ウルゴーの神官で、コロッコというんだよ、はーっ、何か知らないかなー?」


「そんな魔法使いは…知らないですよ」


 うん、心当たりがないわけではないけど、少なくともあれは魔法使いではない。魔法使えないだから。


「たぶん宮廷魔術師の人たちなら何か知ってるかもよ。なんか大騒ぎしていたから」


 そう、少なくとも彼らは『その魔法使い』を、知ってはいるよね。


「ああー、そうなんだね、実は彼らからは既に話は聞いたんだ…まあ、あまり話してくれなかったけど。だからいま一生懸命話を聞いて回っているんだよ」


「なして?」


「ドラゴンを倒せるようなゆう…いやいや、確かめないといけないことがあってね。僕の所属する神殿にとって大事なことなんだよ。ふひーっ。

 あっ、あの人もまだ話を聞いてない」


 神官は会話の間もちらちらと胸の魔道具? あるいは神器なのかな? それを確認しながら話していたけど、また新しい人を見つけてそちらに突進していってしまった。


 動く度に『むふー、ふひー』と鼻息が荒いのが気になるな。健康のためにも痩せろ。


「でも鍛冶神の神殿ってあったか?」


「いやー、軍曹殿、俺は聞いたことねえよ」

「そうなんだな、僕も初めて聞いたんだな軍曹殿」


 あっ、わかった。こいつら『軍曹殿』を固有名詞だと思ってやがる。

 通りで発音が変だと思った。『グンソウドノ』に聞こえるもん。


《神様は結構色々いるですよー。なのでいろいろな神殿があるですよー。でもこの国では大体エスタル・アーゼかあさまの神殿に合祀されることが多いですよー、母様の像の脇に二人ぐらい神様の像があるですよー》


 あー、なるほど、三尊像の形になって居るのか。そういう個々の神殿って気にしてなかったなあ。


《村には神殿なかったですから仕方ないですよー

 その神殿によって祀られている神様が違うから面白いですよー

 でも父様の像はないですよー。

 父親とは悲しいものなのですよー》


 そういや村に神殿ってなかったな。偶に神官が回って来るぐらい。まあ、超ど田舎だったからな。それに神殿とかあると村長がお山の大将できなかったろうから、それで故意に神殿を作らなかったのかも。


 今はギルドにお祈り場はあるけどね。


 でも神殿がないならちょうどいいや、ダイラス・ドラム神を祀っちゃおう。


《いい考えですよー、神様色々いっぱいだから人間はあまり脇役を気にしないですよー》


 それもひどいけどな。


《でも鍛冶神の神殿というのは変ですよー、特定の神様を崇める教団は、この国にはないと思ったですよー。別の国から来たですか?》


 まあ、そういうこともあるでしょ。

 そして優秀な魔法使いがいるなんてうわさを聞けば情報収集の一つもしたくなろうってもんだ。


 よし、とりあえずギルマスにも挨拶はしたし、ここでのミッションはあと一つだな。


 ◇・◇・◇・◇


 とか言っているうちに時間が過ぎて、いよいよ明日は帰還の日。


 困った。ミッションがクリアできない、タイミングが悪い。


「あっ、リウお兄ちゃん。こんにちは」


「はい、こんにちわ」


 心の傷が言えたというわけではないと思う。だけど楽にはなったんだろう。デアネイラちゃんはにこにこお話しできるようになった。

 まあ、ここではみんなが猫かわいがりだったからね。


「いま、お時間ありますか?」


「ごめんね~リウたん、今出発の準備で手が離せないのよ」


 すっかりデアネイラちゃんの世話係が板についてきたフウカ姉に首を振られた。

 まあ、仕方がないんだよね。


「きゃははははっ」


 仕方ないのだから去り際に僕を拉致るのやめい!

 デアネイラちゃんが大喜びしとるやんけ。


 ◇・◇・◇・◇


 しかし困った。


 このままではミッションが達成できなくなってしまう。せっかくエスタル・アーゼ様が気を使ってくれたのに。いよいよ明日は出発だ。


「うーん、本当に困った」


「なにが困ったの~?」

「こまったの?」


 カラカラとドアが開いて人が入ってくる。

 まあ、フウカ姉とデアネィラちゃんだ。


 歩くたびにフウカ姉の大きなおっぱいがゆっさり、ゆっさりと揺れている。

 大きいのに全然たれてないのはすごいな。

 というかここはお風呂だゾ。


「いやー、明日からしばらくリウたんに会えなくなっちゃうしー、リウたん成分補充ってことで、一緒にお風呂に入りましょうねー」


 そういうとフウカ姉はずかずかと歩いてきてデアネィラちゃんを抱えたまま僕の浸かっている湯船に入って来る。

 ちなみにオッパイはお湯に浮きます。


 デアネイラちゃんが不思議そうにそれを見ている。


 まあ、いいだろう。確かにこれが最後だと思う。次に会うときはもう僕もフウカ姉とは言え一緒にお風呂に入るような歳ではなくなっていると思うし。


 いやそもそも、王女様(おそらく)となるであろうデアネイラちゃんの側近だ、会う機会自体無いかもしれない。


 ステフのことも随分かわいがってくれていたが…


 ちょっとしみじみして、並んでお湯に浸かって『はふうー』とか息をついてっ…つてそうじゃない。

 これはチャンスだ。


 僕はざばっと立ち上がった。


「あら~」


 嬉しそうに一部を見るな。


 それはそれとして僕はデアネイラちゃんをお湯の中に立たせる。そして向かい合う。


 フウカ姉は不思議そうに、それでいて何かわくわくした感じで見ているわけだが、できればフウカ姉にも秘密にしたかったんだが、彼女なら余計なことは言わないだろう。


職号クラスコード、聖者発動!」


 僕の発したキーワードに従って光が踊る。


《変身ですよー》


 そゆこと。

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