第20話 しーぽん語り・王都にて

第20話 しーぽん語り・王都にて



 じゃっじゃーん、しーぽんですよー、語り部をやるですよー。

 父様たちが王都の様子をお知らせですよー。

 今回は『りゅうじい』目線でお送りするですよー 。


「やれやれ、気の重いことだ」


「仕方あるまいよ、これもお前の選んだ道だ」


 思わず苦笑が出る。

 目の前でため息をついているのがわしの息子、つまり現国王だ。

 展開は早かったがその分、大騒ぎではあった。


 向こうでまとめた資料を見せ、証拠を突きつけると息子、いや、ここでは国王と呼ぶか。

 国王は頭を押さえてうなった。


 最初は信じられないような面持ちであったが、娘であるフェネルがさめざめと泣く姿を見せられては一概に否定もできなかったようだ。


 とにかく情報収集だということで、リュメルクローテ公爵を呼び出そうとすれば、なにやら会合だということで留守にしているという。

 こりゃなかなか運がいい。


 これ幸いと公爵家に人をやり、屋敷で働く者の身柄をまとめて確保する。

 そして神官たちの協力を得て嘘をつけないように細工をする。神官たちは嘘を見抜くようなスキルをもっておるのじゃよ。まあ、リウの方がすごい気がするが…


 かくして、事情聴取を徹底すれば、儂の持ちこんだ話が事実だと簡単に証明することができた。できてしまった。


 エーリュシオンがデアネィラをいじめ…というよりは虐待じゃな。していたのは間違いないことだった。状況から子供の喧嘩と片づけられるような話でもない。


 否定しようのない現実を前にしてフェネルがまたぶっ倒れたぞ。


 かなり無茶な強硬策で、国王と言えども根拠もなしにできることではなかったが、まあ、そこは我が儘ジジイのごり押しということで、押し切った。

 こういう操作を国王がやってはまずいのじゃが隠居したジジイが無理を通したなら王家に傷はつかん。


(きっと面倒くさかっただけですよー)


 取り調べの結果、叩けばまあ、いろいろと埃の出そうな状況ではあったのだが、今肝心なのは勇者であるエーリュシオンの人格に関する問題だ。

 これが大人であれば処罰を考えないといけないところなのだが、エーリュシオンは現在10歳。この年なら矯正を考えるべきだろうな。


 かくして様々な証拠を揃え、状況改善の手を打つために公爵と勇者を呼び出して話し合いをせねばならんと、国王はこれから両者との引見に臨むところなのだ。

 そりゃ頭もいたくなろうさ。


「陛下、ルーザー・リュメルクローテ公爵様、御子息のエーリュシオン殿が見えられました」


「ああ、わかった、通すがよい」


 侍従が公爵の来訪を告げる。出先に日時指定で呼び出しをかけたからさぞかし驚いただろう。


 そして国王がわしに目配せをする。最初からわしがいるのはちと不味いからの。

 わしは一旦続きの部屋に、フェネルとともに移動する。しばらくは様子見だ。

 続部屋からは二人を呼び出した小会議室がのぞけるようになっている。


 国王の玉座の後ろに掲げられた磨き抜かれた王家の紋章。それが裏側からは素通しなのを知る者は少ない。

 ここはそういう部屋じゃ。


 さてどうなることやら。


 ◇・◇・◇・◇


 入ってくるなり公爵は落ち着いた様子で前に進み、国王の前で跪く。


 エーリュシオンの方も、最初少し物珍しそうに室内を見回したが父親に従って前に進みその横に跪いた。

 いやなんというか、我が曾孫ながら、だらしない格好じゃのう。鍛えている様子が全く見えない。肥えている。

 これで勇者とか、無理がないか?


 国王の眉がピクリと動く。


「我らが偉大なる王国の太陽、国王、ミナスⅢ世陛下に置かれましてはご機嫌麗しく、恐悦至極にございます。

 ルーザー・リュメルクローテ、お召しにより参上いたしました」


「へ、陛下にごあいさつをいたします」


 公爵が挨拶をするとエーリュシオンも続けて挨拶をした。

 隣でフェネルが頭を押さえた。

 礼儀がなっとらんということだな。


 二人が別々の家門であればこれでいい、だが二人は同門だ。というかセットだ。

 立ち位置も代表である公爵の斜め後ろに控えるのが作法であり、代表である公爵が挨拶をしたならば、エーリュシオンが挨拶をする必要もない。


 そもそも公爵が個人ではなく家門の代表として息子の分も合わせて挨拶をするべきなのだ。

 つまりこの場合常識がないのはまず公爵の方であり、息子に正しい教育をしていないということになる。


 エーリュシオンに関しては十歳ということを考えればこの程度の粗忽は仕方ないと言えなくもないが、それでも部屋に入る前に多少の注意点をレクチャーすることぐらいはできたはずなのだ。


『すみません、こんなにひどいとは…』


 私の横でフェネルもこめかみを抑えている。

 彼女から見てもこのお作法は落第に見えたようだ。


 考えてみれば揃って堅苦しい場に出る機会などあまりなかったからのう、国王に可愛がられる元王女の弊害というべきか。


 国王はいろいろ言いたいことをすっ飛ばして本題に入ることにしたらしい。


「さて、公爵、まずこれに目を通せ」


 渡された書類はエーリュシオンの行状に対する報告書だ。エーリュシオンの行動と、公爵自身が家人に命じた見て見ぬふりをするようにという指示の証言をまとめたものだった。


 ちなみにわしがまとめた。はっきり言って面倒臭かった。


「へ、陛下、どこでこのような、全く根も葉もない虚言にございます」


 公爵は青くなりながらも言葉を紡ぎ出した。

 だがこれは当然悪手だ。


 この書類の最後には『これが真実である』という証言者の書名と神殿の保証とが記されている。


 それを指摘されて公爵の顔色は青を通り越して白くなった。


「リュメルクローテ公爵よ、その方は予言にかんがみ、勇者は己が家で育てた方がより確実に予言にかなうといったのを覚えておるか?」


「はっ、はい…」


「必ず心血を注いで最高の勇者に育てますといったのは?」


「はっ、お、覚えております」


「で、その方が心血を注いで育てた結果が幼女虐待か?」


 国王はけだるげに玉座の肘掛けに体重を掛け一段下に控える公爵を睥睨した。

 国王の周辺には腕の立つ騎士や高位の文官が侍り、一緒にプレッシャーをかけているがあやつのプレッシャーが一番だな。

 親の欲目と言われるかもしれないが、こうしてみるとあやつもなかなか国王が板についているではないか。


 善哉善哉。


 しかし公爵の方もただの小心者ではないようだ。素早く思考をまとめると国王に自分の意見を述べてみせた。


「陛下、誠に申し訳ございません。

 まず、家臣に口止めをいたしましたのは、余計な雑音で勇者の生育が滞るようなことがあってはならぬと考えたからでございます。

 勇者に関しましては、まず戦闘能力の強化を優先し、基礎的な能力を充分育成してからメンタル的な教育をと考えておりました。

 もちろん娘に対しましても、早急に対策を取る心算こころづもりでおりました」


「ほう、面白いことを言う。

 大医王の診断によれば、その方の娘の怪我はなかなかに深刻であったと報告を受けているぞ」


「なんと!

 そのような!

 エーリュシオンもまだ子供でございます。悪ふざけのつもりで加減を誤ったのやもしれません。

 もちろん大したことではないと、高を括ったそれがしの不明こそが罪。

 勇者に罪はありませぬ。

 何卒お叱りはそれがしに賜りますよう。伏してお願いを申し上げます」


 本当になかなか面白いことを言う。


 隣で聞いていたフェネルが、ふらふらっと出て行きそうになるのを拳骨で止める。

 全くあほどもが。


 こやつもちと甘やかされておったからな。


 だが国王には通じない。そこらへんはきっちり仕込んだんじゃ。


「もちろんその方にも罰をあたえるさ。

 だが幼い勇者が罪を犯したことも間違いではない。

 特にその方の言によれば情操教育が立ち遅れているとのこと。

 やはり王国において優秀な教師陣を揃え教育専門の部隊を整えるべきと思うがどうじゃ?」


「あいやそれはお待ちください。

 幼いとは言えそれがしが、それがしたちが心血を注いで育てた勇者。すでに戦闘力はなかなかのものと自負しております。

 今ここで、幼い我が子を、幼い勇者を手放すことは、あまりにも無念。

 今しばらくの猶予をいただきたいと愚考いたします。

 それに幼いとは言え十歳、そして勇者。

 それがしたちはそろそろ勇者の初陣を考えておりました。

 実際に民草のために戦うことをなしていればおのずと人を慈しむ心を覚え、自らの罪を悔いることが叶うでありましょう」


「ふむな、確かに難しい問題ではある」


 国王しばし黙考。


 言い逃れのように聞こえるが、確かにその教育方針は悪くない。うまくいく可能性もある。

 エーリュシオンが勇者であることは紛れもない事実なのだ。


 そして勇者である以上、立派に育てれば国家の安定、民の安寧に寄与する力となる。ゆえに正しく育てねばならん。


 勇者というのは資質だ。主に戦闘力の資質、決して人格者が選ばれるわけではない。というか幼い子供の人格なんて当てにならん。


 だからこそ、人となりを定める教育は重要だといえる。

 ここは公爵が何と言おうとも、国の管理下に置くのが上策だろう、それに戦闘力が伸びているというのは…あのぷよぷよの腹を見ると信じられんしな。


「よし、わかった。ではもう一度チャンスをやろう。

 といっても今までのようにすべてをまかせて放置するわけにはいかん。

 まずそのほうらには魔物の被害の多く出ている地域での救済活動に従事してもらう。

 これは国からの要請を受けて活動する形にしよう」


「はっ、いや、しかし、勇者とはいえまだ10歳に…」


 ついさっき初陣をといったばかりではないか。やはりバカなのか?

 公爵は国王の話に口を挟もうとしたが国王はそれを無視して続ける。


「別に勇者だけで対応せねばならぬという話でもないだろう。

 エーリュシオンがどんな勇者になるかまだそれも判然とはせぬ。

 ならそのほうが万全の態勢でフォローするがいい。

 別に勇者が軍隊を率いてはいかんということではないのだ。

 その方が普段からやっている仲間集めはそのためのメンバーだったと記憶しているが?」


 公爵がちょっと呆けたような顔をした。

 国王も意地が悪い。

 しかしふむ、勇者の育成という面で見ればちと心許ないが、こやつらを勇者の従者として戦場に送るのは悪くない考え方だ。

 そして勇者を鍛えねば収拾がつかなくなるだろう。


「エーリュシオンが、我が孫が世界を救うものであるならば、予言の子であるならば、必ずや大きく成長してくれるだろうと信じておるよ。

 公爵家の軍と、そのほうに従う派閥の軍を、勇者軍として編成し共に戦うようにするがよい。勇者を中心とした派閥を作ろうとしておっただろう?

 これこそ本懐というものだろう」


 そして続ける。


「だが今までのように放置はせぬ、すでに一度問題を起こしているのだ。王国から督戦隊をつける。

 勇者の功績、成長は王国の一大事なのだからな。

 勇者が、勇者として、世界を救う者として、成長し、ふさわしい功績を上げることを期待するぞ」


 公爵の方はまた顔色を悪くしておるな。

 おそらくのらりくらりと言を左右して面倒ことを避けようと考えていたに違いない。

 そういうやつだからこそ、わしは色々と任せることが不安なのだが、ここは国王の作戦に乗ってみるのも面白かろうな。

 功績を上げればよし、もし不味いようなら勇者を引き上げてこちらに取り込めばいいのだ。

 あやつは昔から慎重すぎるきらいがあったからの。


 だが、デアネィラのことはきっちりとせねばならぬ。

 これができぬようならば、国王といえどもぶん殴ってやる。


「ああ、そうそう、フェネルとデアネィラのことだがな…」


 ふふふっ、2人の処遇を聞いた公爵の豆鉄砲をくらったような顔は実に見物みものだった。


 ◇・◇・◇・◇


 というわけですよー。


 え? 分からないです?


 えへへ、じつはわちしもよくわからないですよー


 ◇・◇・◇・◇


「ダイラス・ドラム神よ、我がダーリンよ。ちとあの子は能天気すぎやしませんか?」


「大丈夫大丈夫、いい子だよ。心配しなさんな、我が最愛よ」


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