第33話 スィームルグ(中)

第33話 スィームルグ(中)



 おお、これがハヤブサの急降下か!


 以前、と言っても地球にいたころだけどね、読んだ資料に地球最速の動物というのがあったんだよね。

 そこで出てきた一位がハヤブサ。

 なんと時速320km/時も出るそうな。普通に。

 急降下時はもっと早くて350km/時を軽々と超えるらしい。自動車なんか目じゃないぞ!


 スィームルグは体がでかいからもっとかもしれない。


 そんな速度でスィームルグは突っ込んで来たから、はい、お辞儀。

 べたーっ


《それは五体投地ですよー》


 はい、おしりから尻尾の生えている形状の生き物(じゃねえけど)が、お辞儀した場合、尻尾はどうなるでしょう。


 正解⇒ぴょこーん。


 ズダーーーンッ


 ピィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィッ!


 よしっ、決まった!


 やっぱり高速移動する相手には進路上になにかを置くのがいいみたいだね。

 跳ね上がり、空中でうねくるシッポに自分から突っ込んだスィームルグは壁に突っ込んだ小鳥みたいに跳ね飛ばされて地面に落ちた。


 シッポも三分の一ぐらいのところでちぎれて落ちた。


 ジタバタジタバタ。トカゲのしっぽ。


 シッポの方はすぐに回収。もともとが僕の操魔だからね。のたうち回りながら近づいてきて、ある程度近くなったらドッキングだ。


 細いソーマの線が伸びて、接触したらひっぱって〝がきーん〟みたいな。

 がっちり固めてあるから分解して再構築よりこっちの方が効率がいいの。


『でもこれだったらロケットパンチとかできんじゃね?』


《あとで考えるですよー。今は忙しいですよー》


 そらそうだ。

 ていうか今、スィームルグが地面に落ちて暴れまくっているからちょっと手のだしようが…


 とか思ったら、横の方から魔法が飛んできた。

 魔導士君たちだ。


『なんかこの人たちって、支離滅裂じゃない?』


《ドラゴンのせいで恐慌状態になっているですよー。軟弱ですよー》


『ああ、なるほど竜の威圧がちゃんと効いてるわけか』


 つまり武器を持っている人がパニックになってひたすら武器乱射しているような状態なわけだ。

 どうりでこっちにも攻撃が飛んでくるわけ。


 でもじいちゃんが平気なのは当然のような気がするんだけど、クエルさんが恐慌状態に陥っていないのはさすがという感じがするな。

 クエルさんも兄弟子だし、そういう人のちょっといいところが見れるのは嬉しかったりする。


 さて、そろそろ大技でも決めようか。

 というかそれ以外にできることがない。


 僕は周囲の魔素を意識する。


 レベルがⅤに上がったおかげで制御できる魔素の量は…考えるのも面倒くさいぐらいになった。

 魔素が集まり始めると、怪獣の背中にある後光のようなリングが〝バコン〟と展開する。


 中心の円盤とその周りの二重のリング。

 そしてリングが回転をはじめる。


 正確にはリングの中に取り込まれた魔素が回転しながら加速しているのだ。


 以前タタリと戦った時と同じ、必殺の光線技。

 冷静に考えると〝魔素〟というエネルギー粒子を亜高速まで加速して撃ち出す粒子砲なんだと思う。


 ヒイィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィン!!


 という甲高い金属音のような音が響き、怪獣の口の部分に淡い光が灯る。

 そう、加速されたエネルギー粒子は口に集まり一気に打ち出されるんだ。


 ズバババッ!!!


 と撃ち出される閃光。平たくいうと薙ぎ払い型の光線。


『だめだ。ちょっとずれた』


 撃ち出すときに〝薙ぎ払え!〟を思い出したのがまずかった。

 ちょっと顔の向きを変えたのが大失敗。

 光線はスィームルグをかすめるようにして、森を薙ぎ払ってしまった。


 怪獣が変えた顔の向きはほんのちょっとだったけど、放たれた光線は、距離が離れるほど広く動くことになり、遠くの方で結構な範囲の森が〝ちゅどーん〟とか言って逝ってしまった。


『結構難しいなあ』


《だめだめですよー》


 でも掠めただけだったけど、ドラゴンにだって相応のダメージが、あっ!

 治っていく!


 その巨大な翼にできた裂傷と火傷が、僕の見ている前で徐々に修復されていく。


『すごいな、ドラゴンってこんな回復能力まで持っているんだ』


 そういえば羽に回復の力があるとか言っていたような?


 そしてスィームルグの反撃。


 クルオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!


 スィームルグが高らかに咆哮を上げる。

 風が巻き上がり周囲の木々をなぎ倒す。


《ブレス攻撃に竜の威圧を乗せた攻撃ですよー。

 ほぼ自爆攻撃ですよー》


 スィームルグは自分のいた場所に最大出力ブレスを放ったみたいだ。


 放たれたブレスは彼を中心にドーム状に周囲を薙ぎ払う。そしてその巻き起こる風にはドラゴンフィアーが乗っていた。


《なかなかやるですよー、ただのブレス攻撃より威力が落ちるですよー、でも精神攻撃が乗っているですよー》


 ちらりと横を見ると、持ちこたえているじいちゃんと、辛そうなクエルさん。

 そして〝わー〟〝きゃー〟言いながら風で転がされている魔導士の人たちが見えた。


『なるほど、周囲みんなを巻き込んでこその自爆攻撃か!』


《感心してる場合じゃないですよー》


『あっ、まって、なんだあれ?』


 ◇・◇・◇・◇ しーぽん語り


《おっ、ナイスタイミング》


 父様の声が聞こえたですよー。何のことですよー。あっ、リュメリュメさんの方に動きがあったですよー。リウ太が声を上げた瞬間だったですよー、ちょっと気になるから見るですよー


 ちょっと前のことですよー。


「なぜだー、なぜこんなことになる!」


「公爵様、叫んでいる暇があったら魔法を撃ってください」


「くそー、あのマンティコアを狙えばいいのだな!」


「何言ってんですか! あそこは冒険者が囲んで戦っているじゃないですか! その向こうの魔物の集団を蹴散らすんですよ、コノノータリン…」


「よし分かった、まかせ…何か言ったか?」


「なんのことですか、忙しいのであとにしてください」


 ふおおっ、レッサーマンティコアの群れが突撃してきて大乱戦ですよー。

 ただ冒険者が戻って来たですよー。

 さすがにここを抜かれると彼らの町自体に被害が出るので放置できなかったみたいですよー


 リュメリュメさんはわめき散らしているけど、それなりに使える魔法使いだったみたいですよー


「くっ、乱戦で! ウェザレル伯爵はどうした!」


「はっ、都市の防衛を固めると言って後退しました!」


「ほかのやつらは!」


「ウェザレル伯爵に協力すると一緒に後退しました」


「ぬおぉぉぉぉっ、バカかあいつらは! ここで功績を上げねば後がないというのが分からんのか!」


 その説明はしなかったですよー。


「はっ、そうだ! エーリュシオンはどうした、勇者は無事か。勇者になにかあれば!」


 いまさら思い出したかですよー。


「はっ、現在別の群れと戦闘中ということです。戦闘しながらこちらに向かっていると報告が入っております」


 物は言いようですよー、でもこの伝令のおっちゃん、キレものですよー。


 その時北から強い風が吹いてきたです。

 そして北の方から魔物とは違う土煙がやってきたですよー。別のものも…


「なんだ、かぜにのって、このにおいはなんだ!」

「う、くせえ、誰か漏らしやがったな!」

「戦場だ、そういうこともある。気にしてやるな」

「だが臭すぎる!」


 確かに戦場というのはそういうことがあってもおかしくはない世界なんですよー

 でも今回に限り、原因は…


「「「「「「「わっしょい、わっしょい!」」」」」」」


 ズドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!


 かぐわしい臭いとともに重量級の何かが多数突進してくるような音が聞こえたですよー

 そうですよ。みんなお待ちかね、あれがやってきたですよー


「おお、あれはエーリュシオンの親衛隊か!

 よし、あの重装歩兵部隊が加われば、マンティコアとて!」


 勇者真っ青。目が点。ガックンガックン。

 つまりエリュシオンのガックンガックンですよー。


「公爵様、あの後ろからさらにマンティコアが!

 しかもレッサーではありません。

 本物のマンティコアです」


「なんだと!

 本物とは何のことだ!!」


 リュメ公、分かってないですよー


「うおおおおっ、どけどけ!」

「お臭い様のお通りだー」

「じゃまー。まじどいてー」

「もう限界…ふぅ…」


 リュメ公の顔が引きつっているですよー。

 デコを汗が流れるです。


 どかーん!


 そして大乱戦の始まりですよー。


「うわー」

「ぎゃー」

「きゃー、どこさわってんのよー(野太い声)」

「こっちくんなー」

「あっちいけー」

「おまえこそあちいけー」

「おぎゃーおじゃー(おっさん)」


 だけど意外と持ちこたえているですよー


「さっ、さすがわが軍だ」


「はっ、勇者さまがお戻りになったことで周辺の全員に能力強化バフがかかったようです。

 それに、なぜかこのにおい…うぷっ、を嗅いだ魔物は狂乱状態になるようで、魔物の戦闘行動が支離滅裂になっております」


「おお、さすがわが息子。稀代の勇者よ。

 この土壇場で新しい能力に目覚めたか。

 魔物を誘引し、しかもその行動を乱し、さらに味方にバフをかけるとは、素晴らしい勇者っぷりだ。『勇者の威光』と名付けよう!」


 そんな戦闘がしばらく続いた時のことですよー、ここから見て北東方向ですさまじい光が生まれたです。リウ太の放った光線だったですよー。

 ついでスィームルグが放った最大出力のドラゴンフィアーが広がったです。


 人間も魔物もパニックですよー。気絶ですよー。逃げ出す魔物多数ですよー。


 しかし勇者の鼓舞のおかげで、気絶した者の中で人間たちが少しだけ早く立ち直ったです。

 特に冒険者がー。


 彼らはここぞとばかりに魔物にとどめをさして歩くです。

 マンティコアもそうして仕留められたです。


 リュメリュメ公爵が目を覚ました時、そこには魔物を倒してかちどきを上げる冒険者たちの姿があったですよー。


「どわはははははっ、みたか! これこそが勇者の力。我が力だーーーーーーーっ!!」


 この戦いで勇者はスキル勇者の威光(笑)じゃなかった、『勇者の威光(臭い)』を手に入れたですよー。

 意外とすごいやつかもしれないですよー。


 はい、次回はリウ太の話からスタートですよー



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