第31話 そのころのクエルさんたち
第31話 そのころのクエルさんたち
森の中を怪獣が疾走している。
頭頂高5メートル。なかなかの高さだよね。
森の木はもっと大きいけど、それを体当たりで弾き飛ばし、立ちはだかる枝葉は『ぐおおおおおっ』という咆哮で吹き飛ばし、長い尻尾は振れた反動で全く関係のない木を叩き折る。
いや、まあ、最後のは必要ないんだけど、怪獣だからな。多少は迷惑を。というわけ。
「ヒャッハー、さーいこうだぜ!」
その怪獣の肩で一人の老人が、どこから取り出したのかわからない鎖を振り回し、時折飛び出してくる魔物を叩き落としていたりするんだ。
樹上生活をする魔物で、木と木の間を滑空するムササビのような奴が多い。たぶんびっくりしたんだよな。
鎖はその魔物を粉砕し、血煙に変えてしまう。
ひょっとしてドラゴンより僕らの方が迷惑野郎なのでは?
《仕方ないですよー、怪獣ですよー》
うん、そうだね、怪獣というのはそういうものだからね。すごいんだよ。
その怪獣の肩に乗って鎖を振り回して『ヒャッハー』している爺ちゃんもある意味すごい。
そんな感じで僕たちは森の奥目指して驀進している。
もう少しでクエルさんたちに追いつくだろう。
《リウ太、目標の正確な位置を捕まえたですよ。
現在戦闘中ですよー》
おっ、しーぽんがクエルさんの詳細を把握するのに成功したらしい。
『戦闘中? まさか…』
《そうではないですよー。
彼らは現在、マンティコアと戦闘中ですよー》
「そいつはよかった。マンティコアなら後れを取るような事はねえだろう」
僕が報告すると爺ちゃんは胸をなで下ろした。
僕にはわからなかったが、爺ちゃんレベルの人が見ればクエルさんたちの戦闘力はちゃんとわかるもののようだ。
戦闘力を数値化するようなスキルは…多分ないな。なんとなくだろう。
《というわけで実況するですよー》
◇・◇・◇・◇
というわけでクエルさんたちが今どうなっているかなんだけど…
「ふはは、やはり我々にかかればマンティコア程度どうということもない」
「ええ、全くですね。やはり我ら魔導の担い手こそが王国の守護者なのです」
彼らはかなり上手に戦っているね。
クエルさんは非常時に即応できるような体制で待機し。彼の部下である4人の魔導士が戦闘を行っている。
《宮廷魔導おっちゃんは、戦闘が始まってしまったので、とりあえずこれを終わらせるつもりの様ですよー》
クエルさんもちょっと危機感が足りないんじゃないかな?
距離が近づいたことで爺ちゃんが『遠見』の魔法を起動。
爺ちゃんの映像と、しーぽんの実況と、僕の通訳でお送りします。
さて、四人の魔導士だけど、二人が中級魔法で継続的に攻撃を行ない。
一人が補助魔法を使い、二人の魔法を強化、同時に防御魔法を展開し、
後方の一人が強力な魔法の準備をしているね。
魔法の等級だけど、下級というのは割と誰でも使える生活魔法のことなんだ。
中級というのが初歩の攻撃魔法だね。
この上に上級魔法というのがあって、この三つは、体系的に確立していて、何が中級、何が上級とはっきり区別されている。
この上にあるのが聖級・王級とか呼ばれる魔法なんだけど、ここら辺になってくると、個々人の好みとか、加護とか、複雑に絡みあっていて、みんな好き勝手に言っているといった感じになるみたい。
上級に分類されていなくて、上級より難しいと『これは聖級だ!』とか『これが王級だ!』とか適当なんだよね。
だから聖級のくせに中級なみの弱いのとかもある。
つまりちゃんと体系化されているのは下級、中級、上級の三つだけらしい。衝撃の事実だ。
何でそうなるかっていうと魔導師と呼ばれる人たちのせいなんだよね。
魔導師というのは魔法を作れるような魔法使いのことを言うわけで、その人だけの魔法とかあるから、それらの魔法はとても分類なんかできないのだ。
ちなみになんだけど、クエルさんたちは魔導師と魔導士を使い分けているの気が付いた?
魔導師というのは『魔法使い』のすごいバージョン。自分で呪文を組み立てて魔法を行使できるほど魔法に精通している人のこと。
魔法使いは知っている呪文で魔法を使う人のこと。
それで魔導士というのは、魔法を使って戦う兵士のことで、宮廷魔導師団の魔法兵のことをさす言葉なんだって。
で、魔法の説明に戻るけど、一番上に超級魔法というのがあるんだ。
これもまたいい加減で、神話級とか伝説級とか言われたりして、大昔に使われた記録がある大魔法。のことを言うらしい。
伝説の勇者が使った。とか。伝説の賢者が使った。とかそんな感じ。
もちろん現在使える人はいなくて、本当に伝説の魔法。
魔法ってすごいんだぞーみたいな話なんだろうか?
やっぱりみんな魔法にはロマンを感じるのかもしれない。
《おお、ですよー、まどうしの一人が呪文の詠唱を始めたですよー》
そんなわけで前衛の二人がファイアーボールとかウインドカッターとかで連続攻撃を仕掛けている後ろで、精神集中をしていたちょっと年かさの魔導士が高らかに呪文の詠唱を始めたようだね。
『でもあんなに速く魔法が撃てるなんてすごい』
とりあえず前衛の二人に僕は感心する。
「詠唱加速だな。修練しまくって呪文を圧縮してまとめる技術だ。こいつができると魔法の出が速くなる。
それに補助魔法を使っているやつもいい。
防御しながら魔法強化とか魔法安定とかいろいろやっているな。
確かにうぬぼれるだけの腕はあるぜ。
これならそこらの魔物相手ならまずおくれは取らねえだろうぜ」
ほほう、大したものだ。
そしてその彼らと戦っている『マンティコア』もなかなか強い。
鼻が低く顔が平たくなっているので確かに人間の顔っぽく見える。
いっぱいの鬣と、棘がいっぱい生えたシッポ。
レッサーのサソリ型と違ってモーニングスターみたいになってる。
それが縦横無尽に飛び回り、時に火球の魔法みたいなものを撃ち出して魔導士たちと戦っている。
ただ彼ら自身が言うように、魔導師の人たちの方が優勢っぽい。
もし、敵が一体だったらもう決着がついていただろう。
そう、マンティコアは二体いるのだ。
他にもレッサーマンティコアもいて、まあ、こちらは既に打倒されているけど…
『にしてもここまで劣勢でも逃げないんだね』
「おそらく狂乱しているんだろうぜ、リウ太、こいつらが逃げてきていたってのは…」
あっ、忘れてた。
そうそう、魔物はスィームルグから逃げてきてたって話だったよね、つまりこいつらも逃げて…
あれ? 不味くね?
「大地に潜む巨人の腕、目覚めよ、起きよ、奮い立て、汝の敵はここにあり、その鋭き爪は敵をとらえ、そして二度と外れることはない。
巨人の住まうその闇に、全てをとらえるその檻に、忌まわしき者どもを閉じ込めよ! 【
件の魔導士の魔法が完成した。
ズン! と大地が揺れた。
戦場に魔法陣が展開し、そこを飛び回っていたマンティコアが捕まった。
つんのめるようにして地面にたたきつけられ、動けなくなる。
どうやら重力をブーストする魔法みたい。
これの小規模のやつは昔見たね。
ついで攻撃を続けていた二人の魔導士が中級魔法【ストーンショット】を発動した。これは土系の攻撃魔法の簡単なやつだけど、発動位置がおかしい。
「おう、うまく考えてるぜ、こいつはな…」
爺ちゃんが説明してくれた。
グラビトンの魔法は質量のあるものならなんでも落とす。重力を何倍にもする魔法なので当然なのだ。
だから逆に言うと外側から魔法を打ち込んでも重力に引かれて下に落ちてしまう。
武器を投げつけても当てるのは難しいだろう。
「だが魔力そのものは重力の影響を受けない。
そして魔法の熟練者なら本来手元で発生する魔法を離れた場所で発生させることもできる。
魔法の規模を調整することもな」
つまり、マンティコアの真上で石というか岩を生成すると、どうなるかという話なのだ。
魔法が岩を作り出すと、本来撃ち出されるはずのそれは、高重力に引かれて落下を始める。
それは本来の何倍もの重力加速度で加速し、何倍もの質量で目標にぶつかる。
マンティコアは空から降ってくる岩に押し潰されて、あえなくその生命に終止符を打った。
「魔法には、手元で発生する投射型の他に、目標地点で発生する放射型があるわけだけどよ、なんでそれを使わなかったかわかるか?」
爺ちゃんの質問に僕腕を組んだ。
だから怪獣が腕を組んだ。
確かに言われた通り放射型の魔法なら、高重力に影響されずに直接目標にダメージを与えることができるのではないか。
いや、ダメか。
魔法が実体化した後、重力の影響を受けるのなら。発動した魔法も重力で落ちたり乱れたりするかもしれない。
それに、考えてみればストーンショットは中級魔法だ。つまり簡単な魔法だ。発動が早い。
おまけに発動してしまえば、そこにある重力そのものが攻撃力に転化される。
「よし正解だ。魔法ってのはその場その場で必要なものを正しく選択できないとまずいのさ」
なるほど勉強になる。まあ僕は魔法は使えないけど。
でもそうなると僕だった場合はどう戦闘を組み立てるべきなんだろうか?
「ほれ、リウ太、考えるのは後だ、さっさと合流するぞ」
『おっと、そうだった』
今はちょっと手前で停止して、のんびり見学してたんだ。乱入とかするとたぶんこっちが攻撃されるから。
爺ちゃんに止められたの。
うん、じゃあ…!!
『爺ちゃん、敵襲!』
うわー、意識がそれて接近に気がつかなかった。
マンティコアよりずっと大きい気配が、いきなり戦場に舞い降りてきたよ。
やべーっ、超やべーって感じ。
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