第26話 しーぽん語り・愚者のお祭り
第26話 しーぽん語り・愚者のお祭り
「よいか、準備のできた部隊から、順次森に突入せよ、魔物は見つけ次第殲滅、虱潰しにするのだ」
ほへ? 威勢のいい声が聞こえるですよー。
ここは父様の
なにしてるです?
『やあ、しーぽん。今ちょうど地上をのぞき…監視していたところなんだよ』
父様がにこやかにお返事くれたですよー。隣に母様もいるですよー。仲がいいですよー。
『のぞき見って、何か面白いことあるですか?』
『お前はいい子だよ』
『本当じゃな』
『今ちょうど、今代の勇者の動向をけんぶ…監視しておったのじゃ』
『おお、地上見物ですよー、混ぜてほしいですよー』
『お前は本当にいい子ね』
意味がわからないですー、でも2人ともニコニコしてるからいいですよー。
というわけでしーぽん語りですよー、楽しんでほしいですよー。
◇・◇・◇・◇
「よいか、準備のできた部隊から、順次森に侵攻せよ、魔物は見つけ次第殲滅、虱潰しにするのだ」
「公爵様、冒険者はどう動かしますか?」
「冒険者と騎士を一緒にするな。下賤の民など役に立たん。騎士を中心に、冒険者は騎士たちの指示に従うように言え!」
「全体の配置はどのように?」
「難しく考えることはない。我らにかかれば魔物の殲滅などたやすいこと。手当たり次第に踏み潰せばよい。
我らが進軍すれば、我らの力の前に魔物どもは恐れおののいて狩られるだけであろうよ」
「勇者さまはどのように?」
「うーむ、なんといっても一番大事なのは勇者の活躍か…前線に出さぬわけには行かんな…勇者親衛隊の用意はどうか?
よし、行けるのだな。
ならば勇者をガッチリ守りつつ前線に…いや、少し後方に配置する。
勇者というクラスはそこにいるだけで周りの兵たちを鼓舞するからな。ほどほどの所に配置して、魔法を打たせよ。
エーリュシオンの魔力量であればドコドコ魔法を使っても問題はない。よいか? 勇者の安全こそが第一義ぞ! 努々忘れるな」
「誇り高き騎士たちよ、お前たちの実力であれば何の問題もない。森に侵攻して魔物を駆逐するのだ。
さすれば勇者の権威はとどまるところを知らず上がるであろう。
我ら勇者派閥の栄光は疑いなし。
すすめー」
壇上に立って大騒ぎしているのは…リュメ…リュ…クロ…リュメリュメ公爵ですよー、勇者の父ですよー。
きっとバカですよー。事実バカっぽいですよー。血は争えないですよー。
あれ?父様と母さまが変な顔をしているですよー?
まあいいですよー、実況中継するですよー。
「公爵様。この度はよい機会が回ってきましたな」
「まったくです。いきなり兵団を組織してウェザレルの町に参集せよと言われたときは何事かと思いましたが、まさか国王陛下から勅を賜り、魔物の討伐を依頼されるとは」
「これも日ごろの行いですな。勇者様の力を見せつける良い機会ですぞ」
ふむふむなるほどですよー、リュメリュメ公爵は自分に都合の良いように話を盛ったようですよー。
「まことにありがたいことです。
魔物の被害には最近悩まされ続けておりまして、この通り痩せて細る思いです」
ほぼ樽ですよ、このおっさん。
「さらに勇者の躍進の第一歩に当領地が役に立てるというのは感激の極みでございます。
参加してくださった、騎士の皆様に向けましては、充分な食料と酒を確保してございます。英気を養っていただきたい」
このビア樽こそがウェザ…うぇ…うぇ伯爵ですよー。
「それにしてもこれだけの大部隊が集まると壮観ですな」
「それにそれだけの部隊を養えるウェザレル伯爵もすごい」
「いやいや、恐れ入ります。これも日ごろからの努力の賜物。民衆などというのはゴマと一緒。絞れば絞るだけ金を落とすものです。
それに冒険者のことは考えておりません。あやつらも絞られる側ですからな」
わははと、集まった貴族たちの笑い声が響いたですよー。
ちなみにクプクプさんはいないですよー。
完全に抜けたみたいです。
「しかし、ずいぶんスピード感がありますな? まさかこれほど素早く動くとは…」
「そうですな、檄文が届いて、駆けつけてみればすぐに、ですからな」
リュメリュメはうむと頷いたですよー。
「当然であるよ。勇者の力を見せつけるには速攻がよい。
兵は早速を尊ぶといいますからな」
早速ではなく拙速ですよー。きゃー、父様がほめてくれたですよー。しーぽんは賢い子ですよー。
「それに時間をかけると王国の観戦武官が到着してしまう。成果さえ上げればいいのに、細かいことを報告されてはたまらんですからな。
それにウェザレル卿も、町の中を王国の目がうろうろしては迷惑だろう?」
「これは恐れ入ります」
ビア樽伯爵が腹を強請りながら笑うです。見苦しいですよー。
今回のしーぽん語りは『お目汚し回』ですよー、見苦しいおっさんしかいないですよー。
兵士や騎士や冒険者がズンズン森の奥に進んで行くです。
ここ、町と森の間に設けられた前線基地にはむさいおっさんばかりがバカをしているです。
あっ、ケバいおばさんもいたですよー。
たまったもんじゃねー。ですよー。
◇・◇・◇・◇
あんまりムサケバいから視点を変えるですよー、勇者の方を見てみるですよ。
現在勇者は50人ほどの勇者親衛隊に守られて、森の中を進んでいるですよー。
ものすごい重装備ですよー。
隙間のない全身鎧に、大きな盾。隊列を組んで〝がっちょんがっちょん〟進んでいるです。
よく前が見えるです。感心するです。
勇者の方はほとんど御神輿ですよ。台座の上に豪華な椅子を括り付けて、その上に勇者が座っているですよー。
なんかふてくされてるですよ。
「退屈…なんかして」
あっ、勇者がわがまま言ったですよ。
「はっ、承知しました。おい、担ぎ手、御座を波のように揺すって差し上げろ」
「「「はっ」」」
だいたいは素直に返事をしたけど、一部は嫌そうな顔をしたですよ。
それでも神輿が波に揺れる船のように揺れ始めたですよ。
わっしょいわっしょいですよー。
「きゃははははっ」
勇者が喜んでるですよ。
そのまま少し進むです。
「おろろろろろろろっ」
うわー、勇者の口から虹が溢れたですよ。
「にゃんでぼくにこんなひどいことするんりゃーーー」
おおう、口から虹をまき散らしながら周りの大人に八つ当たりです。棒で殴りまくっているですよー。
しつけがなってないですよー。
でも全員が全身鎧で隙間がないのでほとんど効いてないですよー。
そんな時一匹の魔物が飛び出してきたですよ。
ゴブリンですよ。
虹の匂いに惹かれてきたですよ。
考えてみたらここは風上ですよ。森の奥が風下ですよ。楽しい予感がするですよー。
「勇者様、魔物です。魔物に勇者様の怒りをぶつけるのです。
魔法です。どんどん撃ってください」
「う~っ。ふぁいあぼーるぅ~」
すごいです、詠唱破棄です。さすが勇者。良いスキルを持っているです。
今、父様から情報が入ったです。
この勇者を、勇者に選定したのは魔法神であるらしいです。
もともと魔法に高い適性を持っていたようですよー。
ファイアボールの威力も、なかなかですよ。
四発外れて五発目が命中。ゴブリンが燃え上がったですよ。
のたうちまわるゴブリンに重装騎士がかけよってとどめを刺すです。見事な連携ですよー。
勇者の片りんを見たですよー。
「なかなか、良い調子ですな。この調子で魔物が出たら魔法を撃ってください。魔物が大ダメージを受けたところで我々がとどめを刺します」
「わかったー」
なかなか良い作戦かもしれないですよ。勇者、鼻くそほじるなですよー。
その後も魔物が出るたびに勇者が魔法を連射し、命中精度は低いものの当たってダメージを出すと、重装騎士が走りよってタコ殴りにする戦法で、結構、数、倒しているんですよー。
ザコ敵ばかりとは言え、ちょっとやるです。
それにほかの部隊もそこそこ戦果を挙げているようですよ。
十数人でグループを組んで、見つけるものをタコ殴りですよー。
装備が良いからザコ敵には怖いものなしですよ。
一方、冒険者たちのほうはやる気がないですよ。
情報によると日当も支払われず、無理やり強制参加ですよ。魔物を見るとうまく逃げているです。
倒しても魔物素材も横取りされているようですよー。ダメダメですよー。
「うわーーーっ」
「ぎゃーーーーっ」
むむっ、これは先行する騎士たちの声ですよー。
何かあったです。
と思ったら前方に魔物が飛び出して来たですよー。ちょっと距離があるです。
「くーらえー」
「ああっ、だめ」
勇者が脊椎反射で魔法を撃ったです。親衛隊のリーダーが止めようとしたです。間に合わなかったです。
火の玉が魔物に飛んで行って、普段外れまくるくせに、こういう時だけ当たるですよ。
火の玉が当たった魔物が、燃え上がったです。でもそれだけです。魔物が一声吠えると火が消し飛んだです。ギロリと勇者をにらんだですよ。
ジョバッ!
ブリブリブリ…
うわっ、恐怖のあまり今度はしたから流れ出したデスよー。
『ごあぁぁぁぁぁっ』
「止めろ魔物を止めろ!」
「ひいっ」
「むり!」
ばこーんっ、と魔物に重曹騎士が撥ねられたですよー、飛んでいったですよー。
歯が立たない感じですよー。
「マンティコアだ!」
外れですよ、レッサーマンティコアですよ。本物より随分弱いですよー。
でも蹴散らされてるですよー。
「うおぉぉぉぉぉっ、総員退避、退避―――――――っ」
リーダーの命令で重曹騎士が一斉に回れ右したです。
そのまま全速力で後退して行くです。すごい一体感ですよー。
御神輿がガックンガックン揺れているです。
安全の為、紐で椅子に縛り付けられた勇者がすごいことになっているです。
「冒険者たちに援護をさせろーーー!」
「だめです隊長、魔物は他の物に目もくれず一直線におってきます」
「なぜだーーーー!」
たぶん臭いをまき散らしているせいですよー。
あれでは見失いようがないですよー。
レッサーとは言えマンティコアですから、少しだけ頭いいですよー。まじ怒っているです。激おこぷんぷん丸ですよー。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ、救援を! きゅうえんをよべーーーーーーーっ!!」
その後、集まってきた騎士たちみんなでかかって何とかレッサーマンティコアを倒したデスよー。結構被害も出たですよー。
騎士ばっかり、冒険者は逃げたですよー。
◇・◇・◇・◇
「マンティコアだと、でかした。よい戦果だ。ひょっとしたら今回の氾濫の元凶かもしれん。
勇者がそのような大物を倒したとなれば、戦果としては充分だな。
これで王陛下も我らの力をお認めになるだろう」
かけこんで来た騎士の報告に、リュメリュメ公爵は喜色満面ですよー。でも報告には続きがあったですよー
「なっ、なんだと? 群れだと?
マンティコアの群れ…
そんな…」
「はっ、接触まではまだ時間があると思いますが、数頭から十数頭の群れがこちらに近づいてきております。
いかがいたしましょうか?」
「いかがもくそもあるか! 全軍を集めて迎撃しろ。
負ければ儂らに未来はないのだぞ!!」
そばで聞いていた貴族達がぎょっとしているです。
ビア樽伯爵なんか真っ青ですよー。これからどうなるのか…
あっ、リウ太の所に帰る時間ですよー。
きょうの中継はここまでですよー。
わめき続けるリュメリュメ公爵を背景に、また来週---っですよー。すよー。すよー。
注意・来週はお見苦しいのは出ないです。
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