二十八
そんなある日のことでした。子柳の部屋に、宿の主人が渋い顔をぶら下げてやって来たのです。不思議に思った子柳の耳に告げられたのは、宿から出て行って欲しいという話でした。
青天の霹靂とばかりに驚きうろたえる子柳に、主人は冷ややかな口調でこう話しました。
「あんたの故郷で変事があってね。楚興義さまはあらぬ嫌疑をかけられて、失脚なさったんだ。楚興義さまからの支払いが見込めないとなれば、いつまでもあんたをここに住まわせておくわけにもいかん。だいたい払えないだろう? 女に入れ込んだあげく、借金までこさえちまったんだからな。いかに同郷のよしみとはいえ、オレももう限界なんだ。神童だの麒麟児だの騒がれたみたいだが、所詮はすれてない田舎者。長安に飲み込まれたあんたは、とっとと故郷へ帰っちまうのがいい。まあ、路銀はないかもしれんがね。さすがにそこまで面倒見てやる義理もねえ。ほら、わかったら出ていきな」
昨日の友誼はもろくも潰え
無情をなじるにも資格なし
急かされるようにして荷物をまとめ、路上に放り出された子柳の背中に、
「ついでに言うと、あんたの母親は亡くなっちまったそうだ。全く、とんだ親不孝者がいたもんだぜ」
子柳は頭を殴られたかのように感じました。目の前が真っ暗になり、膝がわなわなと震えだし、到底立っていられません。そのまま地面にくずおれ、両の手を突いたままただ呆然とするばかり。掌には乾いた土の感触、そして甲には雫が一つ二つと滴りました。
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