九
さて憧れの三階に請じ入れられた子柳ですが、どこに座ればいいのかまるでわかりません。どうも一階とは様子が異なっておるようで、それぞれの座卓には間仕切りが設えられてありました。珍しそうにキョロキョロする子柳でしたが、案内の店員に促されて、ようやく席を決めることができました。
早速菜譜を開き、ざっと見渡してみたところ、一階の料理や酒とはまるで金額が違います。たちまち顔が青ざめてしまいましたが、なにくそと己を奮い立たせて店員を呼びました。そして酒を三斤と簡単なつまみを注文します。子柳はひとまずそれを口にしながら、周りの常連たちを観察することにしました。
やや場違いな感が否めないものの、子柳は三斤の酒をあっという間に飲み干してしまいました。緊張が手伝ったせいもあったのでしょう、普段の彼とはまるで違う飲みっぷりです。いい気持ちに酔った子柳は、日頃から愛唱していた詩をそっと吟じました。なにせここは李太白ゆかりの酔仙楼、詩を吟じない方が無粋なのです。
私に尋ねる者がいる どうしてこんな山奥が過ごしやすいのかと
ただ静かに微笑むばかり 心は自ずとのびやかなのだから
桃の花びらを浮かべた川の流れ 遙か彼方まで流れ去る
そうなのだ ここにこそ俗世間を隔てた別世界があるのさ
この詩こそ、詩仙と謳われた大詩人、李太白の代表作の一つ、絶唱との呼び声高い「山中問答」なのです。
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