八
ある日、子柳は長安の歓楽街にある「酔仙楼」へ登りました。ここは風流人士御用達の酒楼です。建立されたのは唐の時代、玄宗皇帝の御代と伝わっておりますが、真偽の程は分かりません。一説には隋の煬帝の頃から続く老舗との噂もあるのです。
そのかみ、大酔した李太白がここの酒と料理を絶賛し、壁に七言絶句を書き付けたという伝承が残されておりまして、それからというもの、李太白に憧れる文人墨客たちが足繁く通うようになったため、名前を酔仙楼へと変更し、扁額には「太白遺風」の四文字を飾るようになりました。しかし元末明初の戦乱によって楼は焼け落ちてしまい、現在の酔仙楼は再建されてようやく二百年を経過したばかり。今となっては李太白の真筆を拝むことはもちろん、その詩が何であったのかさえ不明になっているのです。
くどい話は抜きにして、この酒楼は三階建てになっており、上の階に進むほど代金が跳ね上がります。子柳も長安で過ごす文人として、一度くらいは三階に上がってみたいと思ってはいたものの、なにせ学問を究めるために出資してもらっている身、いつも一階で安酒を汲んでおりました。
ところが、この日だけはわけが違っておりました。宿の主人が、一度くらいは三階に上ってご覧なさい、楚興義さまからたくさん支援を受けているから遠慮するには当たらない、とその背中を押してくれたのです。子柳としましては、楚興義や主人の厚意に甘えすぎるのは、と心が痛んだのですが、握らされた銀子を突き返すのもこれまた失礼と思い直し、温かい懐をさすりながらやって来たのでした。
厚い情けに頭を垂れて
更に一階を進む酔仙楼
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