さて子柳は旅の基本を忠実に踏まえ、朝は日が昇るよりも早く出発し、夕方になると日が沈む前に宿を取り、順調に行程を進めました。この旅路には、特に記すこともございません。平穏な旅の様子は、天が子柳を支えているかのようでさえありました。初めこそ旅慣れていなかったものの、次第に旅の空にも慣れ、気がつけば都長安に着いておりました。


 子柳の定宿は支援者の楚興義が用意してくれたものでした。宿の主は楚興義に恩義があるとともに、子柳とは同郷でもあったので、二つ返事で引き受けてくれたのです。


 宿はちょうど科挙を目指す学生たちが生活をする街区に面しており、すぐそばには書物や文房を扱う店舗がひしめいておりましたので、学生たちにとって非常に暮らしやすくなっておりました。しかもありがたいことに、格安で食事を提供する菜館まであったのです。


 子柳はこの宿を拠点にして、学友たちと交わりながら、己の学問をさらに深めていきました。いかに神童、俊才とはいえ、子柳は江南の田舎育ち。故郷には己ほど学が深い者はいませんでした。しかしさすがは大都会長安、ここには中国全土から素晴らしい才能を持った若者たちがたくさん集結しています。子柳はそうした麒麟児たちと交わりを結び、たくさんの刺激を受け、これまで自分が見ていた世界がいかに狭かったのかを思い知ったのでした。


 子柳はまるで乾いた大地が水を吸収するが如く、さまざまな知識を身につけていきました。そして、上京したての頃は堅物として一笑に付されることもままありましたが、今や押しも押されもせぬ、江南出身の風流才子として、長安人士の口の端に上るようになったのです。

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