三十六
「先生、子柳先生。あの壁に掛けてある扇子、詩は李白と杜甫ですよね。前から思っていましたが、長安で手に入れられたのですか? どうも由緒ある名家の作品に見えるのですが」
ある日、一人の生徒がそう尋ねました。子柳は扇子に目をやってから、ゆっくりと生徒に向き直ります。しかし微笑むばかりで応えません。生徒ははたと膝を打つと、
「分かりました、分かりましたよ先生。李白の『山中問答』の『ただ静かに微笑むばかり 心は自ずとのびやかなのだから』ってわけですね。あはは、私も早くその域に達したいものです。いや、本当に素晴らしい。奥さんは幸せ者ですよ」
子柳の隣に寄り添う女性が頬を染めました。はにかむその顔には、たくさんの花が咲いておりました。子柳は妻に微笑みを向けると、壁に掛けられた扇子に一礼を捧げました。
興が湧いて 筆を揮えば 大山脈も揺れ動き
詩が完成し 高吟すれば 大海原も波を立てる
功名や富貴が もしも永久に存在するならば
東に流れる大江も 流れを西へと変えてしまうだろう
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