二十一

「のう、子美よ。子柳のヤツ、あまりに遅いではないか」

「姉さま。たまにはそんなこともありますよ。なにせ彼は科挙を目指す学生、今ごろは試験問題と格闘しているのでしょう」

「それはそうじゃろうが。今までもこんなに遅れたことはあるまいに。約を違えるようなヤツでもなかろう」

「ねえ、太白ちゃん。あたし、思うんだけど」

「摩詰か。よい、申してみよ。発言を許可する」

「もしかして、他に面白い遊びでも見つけたんじゃない? 彼、まだ若いし」

「ほほう、なるほどなるほど。その路線はあり得るかもしれぬな」

「しかし、姉さま。美食を楽しむのなら、ここに来るのが一番では?」

「あのな。美食は美食やもしれんが、ここでは味わえぬもののことじゃぞ? にぶちんめ」

「ちょっ……いやらしいよ、もう。言葉は選んで使わないと、ねっ?」

「摩詰のまじめっ子ぶりにはつける薬が見当たらぬわ。だてに数百年も詩仏をしておらぬな」

「ふざけないでよう。あたしの方が、太白ちゃんよりはほんの少しだけ先輩なんだから」

「今さらパイセン風か、何を生意気な。確かにそなたはパイセンで、生前の官職もワシよりずーーーっと上だったのは認めてやってもよい。しかしそんなものは空しく儚いものじゃ。功名も富貴も、永遠のものではない。もしも永遠に続くのなら、長江の流れは逆流し、ワシのへそで酒の燗ができるであろう」

「姉さま、摩詰さま。マウントの取り合いはそれくらいにして」

「取っておらぬわ!」「取ってないようっ!」

「……すいません」

「ふん、マウントをすぐに取ろうとするのは子美、そなたの方じゃ。二言目には詩聖、詩聖、耳にタコができる。死んでからつけられた尊称に依存しおってからに。生きてた頃から詩仙と呼ばれたワシとは年季と格が違うのよ」

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