二十二

「ねえ、太白ちゃん。話を元に戻そうよ」

「そうじゃな。さしずめ『死後に詩聖という尊称を奉られた割に隠語の何たるかを知らなかった件』、といったところか」

「………………」

「やめてあげようよ、ねっ?」

「さすがは詩仏、慈愛に満ちておる。よし摩詰よ。筋道立てて順序よく、ナニについて優しく詳細に教えてやるがよい。パイセンとしてな」

「………………え?」

「え? ではない。早ういたせ」

「できないよう! そんな罰当たりなこと! 太白ちゃんがやってよ、自由奔放、傲岸不遜で豪放磊落、ついでに天衣無縫なんでしょっ」

「分かった分かった。そこまで言うなら仕方あるまい。よいか、子美よ。ようく聞いてしっかり想像せよ。そなたならば、鮮明に思い描くことが出来るであろう。美食とはな、すなわち女を喰い漁ることじゃ。貪るのじゃ。そう、例えば……桃色の燭が仄かに揺らめく中、微かに聞こえる衣擦れの音。夜の静寂に溶け込む粉黛の香、枕辺に流れるのは乱れた黒髪。薄く輝く絹の掛け布団には豪奢な鴛鴦の縫い取りが施され、その中では雲雨の契りにえっちらおっちらと励む才子と佳人が」

「ちょっとちょっと、言い過ぎだよう。ほら、子美ちゃん赤くなってるじゃない」

「ふひゃひゃ! 刺激が強すぎたか。まあそれはよいとして、やはりその手の遊びであろうな」

「うん、たぶんねえ」

「まあだいたいパターンとすれば、悪友にそそのかされて女遊びに走ったあげく、身を持ち崩すっていうのが鉄板ではあるが。ただ、それではあまりにありきたり、何のひねりもない。街の講談でも使い古されたネタじゃし。陳腐なストーリーでは集客も難しかろうて」

「うん。ついでに言うと、借金作って首が回らなくなって、科挙は滑って女にも捨てられるんだよねえ」

「わかるわかる。だいたい江南出身の書生など、決まってそうなるものじゃ。田舎者に長安の刺激は強すぎるのであろうな」

「姉さま。それがもし本当で、その通りなら、子柳君を救ってあげた方がよいのでは?」

「そうよな。あやつはワシらの朋友の一人、何とか……おおっ! 今閃いたぞ。思いつきが降りて来おった」

「えっ、姉さま。また思いつきですか?」

「よく考えた方がいいよ、絶対。いっつもノリでやらかしちゃうんだから」

「やかましい。まずはワシの閃きに耳を傾けよ。子柳が女にハマったとするなら、話は簡単じゃ。それ以上に魅力的な女をあてがい、道を踏み外さぬよう導けばよい」

「でもでも、そんな子に心当たりあるの?」

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