十二

 その問いかけに、件の少女はたちまち色めき立ちました。

「コラ。何を言い出しおるのか。そんなの絶句一択じゃろうに。律詩なんぞ決まりだらけで肩が凝るわ。ふん、じゃから、そなたは憂鬱詩人などと評価されるのよ。それで嬉しいか? 嬉しいのかっ?」


 再び口論が巻き起こりそうになりました。子柳はまたしても目を白黒させてしまいます。何とか話題を逸らそうと、


 ――これは申し遅れました。わたくしは姓を盧、名を廣、字を子柳と申すもの。不躾とは存じますが、ぜひお二方のご尊名をお聞かせ下さいませ。この盧子柳、ご先輩方に巡り会えた奇縁に感謝を捧げたく存じます。


 こう思ったものの、声は心の中でくるくると回るばかり。ふがいなさに唇を噛んでしまいます。ところが、子柳にとって信じられないことが起こりました。


「おお、盧子柳か。雅やかではないか」


「子柳君ね。姉さま、あたしたちも」


「おっと、そうであったな。ふむ、何がよいかのう」


 少女はその小さな指をあごに当てて、しばらく考えておりましたが、


「よし決めた。ワシはな、すももという」


 白い八重歯がチラリとのぞきます。


「えっ? 姉さま、何ですかそれ。じゃあ、あたしは」


 すももと名乗った少女は電光石火で遮るや、


「ふはは、こやつはな、しびっちというのよ。今後はそう呼ぶがよい」


 やや「びっち」を強調しながら、そう子柳に告げました。


「ちょっ……! なんでまたそれなんですか? 蔑まれてる感がすごいのでやめて下さいって何度言ったら」


「ええじゃろ、別に。こやつにはどうせわからぬことじゃ」


「それは確かにそうでしょうが、あたしだって女子ですからね?」


「全く、笑いのわからぬヤツがうるさいのう。だからそなたは陰キャと陰口をたたかれるのよ」


「ひどい! いくら姉さまでもそれは言い過ぎですよ! 陰キャだのビッチだの、いい加減に」


「あーもー、めんどくさい。これだから努力しか能のない秀才は困る。せせこましくていかん。勘定も細かいし。ドバッと払えばよいであろうが、ドバッと。ワシは天才じゃからのう、こせこせともがく秀才の気持ちなどはとんとわからぬのよ。はは、すまんすまん」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る